第11話 教師として、君のことは絶対に守る
学院から一旦出て、校門の所でメルトはフクリに頭を下げた。
「ベータ魔術学院の先生が粗相をした。本当に申し訳ない」
それはもう、深々と。
粛々と。
謝られたフクリが慌てるくらいに。
「いえ、先生が謝る事じゃ……!」
「改めてグローリー先生には僕の方から言っておく」
「でも、あの先生は確か物凄い名家の人だという話ですから……」
「だからといって、君にした事が許されていい筈がない。僕らは教師なんだから、特にね」
しかし謝罪の時間も今はない。
スパイ確定の父親を持ってしまったミモザがこの後、どういう末路をたどるか。
特に自警団なんているアルファという街では、希望的観測を持つことは教師には許されない。
「ミモザに何があったんだ? 教えてくれないか……というか、その傷はどうした」
新調された筈の制服なのに、泥や傷塗れになっている。
足を纏うタイツも所々が破けていて、赤い血が見えてしまっている。
グローリーに煩雑に扱われたからと言って、ここまでにはならない筈だ。
しかし、フクリの痣塗れの表情はもっと傷ついていた。
ミモザへの心配と不安、そして後悔と自責に駆られた苦悶が刻まれていた。
「私は……何もできなかった」
涙ながらに、フクリは語る。
何が、あったのかを。
「お願いします……ミモザちゃんを助けてください……」
朝、事の重大さを知ったフクリは、ミモザの家に行ったという。
だが既に先客がいた。
自警団――その中でも最悪な過激派集団“プロキオン”の一団だった。
西ガラクシ帝国への執念もさることながら、公的な集団でも鎮圧に一苦労はするだろうという曲者ばかりの実力と残虐性を持った組織。とても一人の子供に差し向けられるには、残酷過ぎる集団だった。
フクリもそれが分かったからこそ、二にも三にも先に体が動いた。
親友を救う為に、なけなしの実力を振り絞った。
出来たことは、結局ミモザが連れ去られた後で、逃げ傷を負いながら自分の命を守る事だけだった。
「よく話してくれたね」
まさに、振り絞った声だった。
それでも願いが叶わなかった彼女にメルトが出来る事は、称える事くらいだった。
教師は体の傷を癒してやれない。
心の傷だって、癒せるものかどうかわからない。
出来る事は、生徒の願いをかなえる事だけ。生徒の未来を、守る事だけ。
「……フクリが話してくれなかったら、ミモザに何が起きているか僕は知る事が出来なかった」
「……ごめんなさい……ただ……もっと早く着いてたら……と思って……それに、あのプロキオンですよ……」
「確かに事は急ぐ必要がある……フクリ、傷は大丈夫か?」
フクリは強く頷く。
「私は大丈夫です。これくらい、当たり前ですから」
これくらい、当たり前。
フクリは確か両親ともに不在であり、今は難民キャンプに住んでいるという事は、殆どスラム街で生活している。
自分の小さい体への傷には強いのだろう。
教師としてフクリの傷も心配しているが、残念ながら物事には優先順位が存在する。
「一つ、作戦に協力してほしい……ミモザが拉致された場所を知りたい」
「……私、場所までは分からなくて……」
「だから協力してほしい」
だから、傷の癒えない彼女に協力をお願いする。
教師は一人では何もできない。
生徒がいなければ、授業もできないからだ。
ましてや、今の状況はメルト一人ではミモザを救う事は出来ない。
「教師として、君のことは絶対に守る」
そして勿論、目の前のフクリも自分の担当じゃなくても、生徒だ。
教師としてメルトは、ミモザの命を救うだけでなくフクリの命も守らなくてはならない。
「……やらせてください」
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