第420話 ダンジョンに入る準備

 みんなで温泉を堪能した次の日。

 朝ご飯を食べた後、俺たちはエルケーのジールの竜舎に集まった。

 ダンジョンを攻略するためだ。

 ダンジョンに潜る予定なのは、俺にクルス、フェム、モーフィ、チェルノボク、シギショアラである。


 見送りにティミショアラ、ヴィヴィも同行してくれている。

 ヴィヴィは大きめの謎のリュックを背負っていた。お弁当でも入っているのだろうか。


 あとはジールを見たいと言ったトムやケィ、タントたち子供たちも来てくれている。

 子供たちの引率の係はステフである。


「ジールすごい!」「かっこいい!」「すげー」

「子供たち、撫でるのはそっとでありますよ」


 トムたちをはじめ、子供たちみんなはジールが気に入ったようだ。怖がりもせず撫でている。

 むしろ引率のステフの方が慎重なぐらいだ。


「がぁ」

 ジールも子供たちが嫌いではないらしい。機嫌よく尻尾を揺らしていた。

 ジールは人間が好きなのだろう。きっとベルダに愛されて育てられているからだ。


 一方、獅子の仮面をかぶったクルスは、とても張り切っているようだ。

「アルさん、楽しみですね!」

「そうだな。だが浮かれすぎないようにな」

「もちろんです」

「わらわがついているから安心するがよいのじゃ」

「あれ? ヴィヴィちゃんも行くの?」


 クルスが首をかしげる。

 俺も初耳だ。見送りに来てくれているのだとばかり思っていた。


「当然なのじゃ! 魔法陣の中に入るのじゃ。わらわが行かずして誰が行くというのじゃ」

「そっか。ヴィヴィちゃんが来てくれたら、ぼくも心強いよ!」

 それを聞いて、ティミが少し考えながら言う。


「ヴィヴィはダンジョン探索は初めてであったな?」

「そうなのじゃ!」

「ふむ、まあ大丈夫であろう。我もアルラもおるからな」


 どうやらティミもついてきてくれるらしい。それはとても心強い。

 準備は昨日のうちに済ませてある。それでも念のために最終確認は必須だ。


 最終確認の途中で、ルカとユリーナが走ってきた。


「ちょっと、待ちなさいよ! あたしを置いていく気?」

「そうよ! びっくりしたのだわ」

「置いていく気というか、ルカはギルドの仕事で、ユリーナも教会の仕事で忙しいだろう?」

「うん、アルさんの言うとおりだよ! ルカとユリーナが来てくれるならぼくはうれしいけど」


 俺とクルスの言葉を聞いて、ルカは堂々と胸を張る。


「ダンジョンは冒険者ギルドの管轄。当然行くわ!」

「そっか、ありがとう」

「アルが気にすることではないわ!」


 クルスは少し心配そうだ。

「でも、ルカが来てくれるのは嬉しいけど……。大丈夫なの?」

「今日の冒険者ギルドへの依頼はレアたちに任せられるものだけだから大丈夫よ」


 ユリーナは、心配そうなクルスをぎゅっと抱きしめる。そして、頭を撫でた。


「怪我してもすぐ治してあげるのだわ」

「ユリーナ、嬉しいけど、お仕事大丈夫?」

「うん。心配しなくていいのだわ。替わりはいるもの」

「そっかー」


 ユリーナにしかできない仕事も当然ある。

 だが、ほとんどの仕事はユリーナ以外でもできるのは確かだ。


 ルカと一緒に装備の最終確認をしていると、子供たちと遊んでいたジールがびくっとした。

 そして、「がぁがぁ!」と嬉しそうに鳴いた。


「はぁはぁ」

 ベルダが息を切らせて走って来た。ジールは主人のベルダの接近に気づいて喜んだのだろう。


「お、お待ちください、アルラさま」

「どうした? 見送りに来てくれたのか?」

「いえ、そうではなくて……私も同行させてください」


 代官ベルダが驚くべきことを言った。


「え?」

「来たいの?」

「がぁ!」


 クルスとルカが驚いている。ジールも驚いて鳴いていた。


「よーしよしよし」「いいこだねー」

 そんなジールを子供たちがなだめるように、撫でまくっていた。


「はい。お願いします。代官としてエルケーのことは知っておかなければなりませんので」

「アルラ、どうするの?」

 ルカが困った表情でこっちを見てくる。


「ぼくはアルラさんに任せますよー」

「私も任せるのだわ」

「我もアルラに任せるのだ」

「好きにすればいいと思うのじゃ」


 みんな俺に一任する気満々だ。俺は少しだけ考えた。


「ベルダ、危険だぞ」

「覚悟の上です。それに私も素人ではありませぬ」

 ベルダは竜騎士団の副団長でもある。戦士として凄腕の部類に入るだろう。


「代官の仕事は大丈夫なのか?」

「はい。優秀な部下たちを連れてきておりますので。それに応援も要請しております」

「応援?」

「大変信頼できる優秀な副官です」


 どうして最初から副官を連れてきていないのか。

 それは気になったが、ベルダにも事情があるのだろう。


「そうか……。まあ大丈夫ならばいい」


 ベルダ側の問題は特にない。残る問題はダンジョン側だ。

 不死者の王は、ダンジョンの封印を解くのに王族の血を引くものが必要だと言っていた。

 封印を解く鍵でもあるベルダを連れて行っていいものだろうか。


 俺が悩んでいると、クルスが言った。

「アルラさん、どうせ倒すんだから連れて行ってもいいのでは?」

「た、倒すと決まったわけでは……」

 封印を強化して戻ってくるというプランもあるのだ。


「え? 倒さないの?」

 ルカまでそんなことを言う。


「どうせなら倒せばいいのである」

「ティミまでそんなことを……」

「だが、考えてみるがよい。古代竜の我とアルラとクルスたちもいることなど滅多にない」

「それはそうだが……」

「封じたままにしておけば、エルケーにまた魔人やらが来るぞ」

 それはそうかもしれない。ならばいっそのこと倒した方がいいのかもしれない。


「わかった。ベルダ。一緒に行こう」


 俺がそう言うとベルダは嬉しそうにほほ笑んだ。

 と、同時に、ジールが「がぁああぁあぁあああ」と狼狽した声を出した。

 どうしたのかと、ジールに近づこうとしたら、

「こ、これは?」

 ティミまで緊張した様子で身構えた。

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