第413話 ジールに会いに行こう

 復興するエルケーを眺めながら、俺たちはゆっくりとジールの竜舎の方へと歩いていく。

 竜舎はエルケーの中でも立派で大きな建物なので、離れた場所からも目に入る。


「特にどうもなってないように見えるな」

「うむ。結構近くで戦闘があったのじゃが、無事で何よりなのじゃ」

「ヴィヴィのおかげだろう」


 そういうと、ヴィヴィは顔を赤くして照れていた。


 竜舎はヴィヴィの魔法陣のおかげで、びくともしていない。

 シギショアラが、俺の懐から顔を出す。


「りゃっりゃっりゃっりゃ」


 リズミカルに鳴いている。

 その鳴き声はとてもかわいらしく、そして威厳が漂っている。

 竜大公としての威厳を身に着け始めたのかもしれない。


「シギは……本当に立派になったなぁ」

「りゃあ?」

 

 俺はシギを優しく撫でる。

 その近くでは壊れた建物の再建が行われていた。

 そこで振るわれている職人のハンマーのリズミカルな音が楽しいようだ。

 楽し気に鳴いているシギの頭を撫でながら、竜舎に向かって歩いて行った。


「がぁ」

 まだ竜舎と距離があるというのに、ジールの声が聞こえた。

 吠えるというより、静かに鳴くという感じだ。


「ジールは竜舎にいるみたいだな。なにかお土産になるものあったかな」

 俺は魔法の鞄の中身をがさごそ探る。魔猪まちょの肉辺りがいいだろうか。


「そうであるな。我もなにかあっただろうか」


 ティミショアラも自分の鞄を探り始めた。

「この前は怯えさせてしまったゆえな。おいしい食べ物で機嫌を取っておかねばなるまい」

 そういったティミの表情は真剣だった。


 足を止めてそんなことをしていたら、

「がぁ?」

 竜舎の入り口からジールが顔だけ出してこっちを見ていた。

 俺たちが近づいてきていることに気が付いたらしい。


「りゃっりゃー」

 シギもジールに気が付いて、元気に嬉しそうに鳴く。

 ジールは竜舎の建物から出ると、敷地の境界まで来て姿勢を正してきちんと立った。

 敷地の外に出るのはベルダに禁じられているのか、敷地の内側、ギリギリのところにいる。


 ジールが出迎えてくれているのならば待たせるのは悪い。少し足早に竜舎に向かう。


「ジール。出迎えてくれてありがとう」

「がぁ……」


 ジールはしっかり立っているが、ティミから目を離してはいない。

 尻尾は股の間に挟まってはいないが、下に垂れ下がって細かく震えていた。

 少しティミに怯えているのかもしれない。


「りゃああ」「もっもー」

 シギは飛んで、モーフィは走って、ジールに寄っていった。


「がぁあ」


 ジールは右手でモーフィの頭を撫でる。シギはジールの胸に飛び込んだ。


「が?」

 ジールはシギを間近でみると、目を見開いた。


「りゃあ?」

「が、がぁ、がががぁ」


 ジールは少し震えている。


「ジール。どうした?」

「がぁ……」

「シギの成長に驚いたのであろうな! ジール。見る目があるな!」

「がががぁ」


 ティミは近づいて、ジールの頭を撫でた。ジールは細かくブルブル震えていた。

 だが、漏らしてはいない。少し慣れたに違いない。


「ジール。体調はよさそうであるな」

「……がぁ」

「怯えなくてよいのだ。これでも食べるとよい」

「があ」


 ティミはジールに何かの肉の塊を差し出した。ジールは、シギを見て遠慮するそぶりを見せた。


「大丈夫だ、ジール。シギショアラはお昼ご飯を食べたばかりであるからな」

「りゃあ!」

「がぁ」


 ティミに優しくうながされて、やっとジールはお肉を食べ始める。


「ジール、まだあるからな」

 俺もジールに肉をあげる。俺の差し出した肉もジールはパクパク食べていく。

 見事な食べっぷりだ。


「りゃぁ」

 シギが小さく鳴いて、ジールの方から俺の方に飛んできた。

 俺はシギを胸のまえで抱き留める。


「む? シギもお肉を食べたくなったのか?」

「りゃあ」


 ジールがあまりに食べっぷりが良いので、シギも食べたくなったのだろう。

 俺は鞄から出してシギにお肉を食べさせることにした。

 赤ちゃんだから、食べたいときに食べさせたらいいと思う。


「たくさん食べて大きくなるんだぞ」

「りゃむりゃむ」


 シギがご飯を食べているのを見るのは好きだ。

 俺がおいしそうに肉を食べるシギを眺めていると、ティミがジールに言う。


「今日来たのは他でもなくてだな。そこの魔法陣を調べさせてほしいのである」

「がぁ」

「おお、構わぬか。ありがとう」

「がぁがあ」


 ティミがジールから、竜舎の中にある魔法陣について調査する了承を得たようだ。

 会話できるとは驚きである。さすが竜属同士だ。


 俺はお肉を食べるシギを撫でながら言う。


「ティミ。ジールの言葉がわかるのか?」

「わからぬが?」

「え? 明らかに話していたような気がしたのだが」

「そうじゃ。ジールから許可を得ていたのじゃ。わかっていたのではないのかや?」

「言葉はわからぬが、なんとなくわかるであろう。顔を見れば」

「そんなものか……」

「うむ」


 どや顔のティミを放置して、俺はジールを見る。


「がぁ?」

 ジールはお肉を食べてご機嫌なようだ。

 転移魔法陣のことは特に気にしていないように見える。


「ジール。竜舎の中にお邪魔させてもらうな」

「があ」


 ジールはとことこ歩き出し、竜舎の中へと案内してくれる。

 ジールの言葉はわからないが、ジールは俺たちの言葉を理解しているようだ。


「がぁ?」

 転移魔法陣のところまできて、ジールは首をかしげている。

 ジールは「これがどうしたの?」まるで、そう言っているようだ。


「封印は破られてはいないのじゃ」

 転移魔法陣を調べたヴィヴィがそう言った。

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