第388話

 すべての倉庫を見終わったあと、ティミショアラが言う。


「ここがいいのではないかや?」

「確かに、ほとんど中に入ってないし、魔法をかけるにはちょうどいいかもしれないな」

「うむ。ヴァリミエ、構わぬであろうか?」

「わらわとしては、どの倉庫でもありがたいのじゃ。もちろんその倉庫でもすごく助かるのじゃ」

「わかった」


 俺とヴィヴィとティミショアラで倉庫の中の物を、全部魔法の鞄に入れた。

 そうしてから、倉庫に順に魔法をかけていく。


 俺は拡張する魔法を担当する。

 ヴィヴィは、状態保存の魔法陣を描いて手伝ってくれた。

 ティミはシギショアラを頭の上にのせて、古代竜の魔法をかけていく。


「シギショアラ。これが耐衝撃なのである」

「りゃあ!」

「そして、これが耐熱である!」

「りゃっ! りゃっ!」

「そして! これが!! 」


 シギが嬉しそうにするので、ティミのテンションがどんどん上がっていく。

 ティミは調子に乗って、どんどん魔法をかけていった。


「ティミ。ほどほどにな……」

「お、おう、そうであるな」


 このままでは魔法要塞ができてしまう。

 ティミは魔法をかけ続けるのをいったんやめた。

 それを見ながら、ヴァリミエが感心したように言う。


「それにしても、これほど多重に魔法をかけておるのに、互いに妨害していないのがすごいのじゃ」

「アルもティミも凄腕なのじゃ」

「いや、ヴィヴィもすごいのじゃ」

「そ、そんなことないのじゃ」「もっも!」


 姉に褒められて、ヴィヴィは照れた。

 照れるヴィヴィにモーフィは鼻を押し付けて甘える。


「ヴィヴィは凄腕になったな」

 俺は正直に言う。


「本当にそう思うかや?」

「うん。思う」

「えへへ」


 それから完成した拡張倉庫に、中身を入れなおしておいた。


「すごく助かるのじゃ。ありがとう」

「こちらこそ、石材ありがとうな」

「ライとリイによろしくであるぞ」

「ドービィ、ありがとうな」

「ぎゃっぎゃ!」


 ヴァリミエとドービィに見送られて、俺たちはリンドバルの森をあとにした。

 トムの宿屋を経由して、エルケーの代官所へと向かうことにする。


「わふわふ」「もっも!」「ぴぎっ!」

 フェム、モーフィ、チェルノボクがついてきてくれるつもりのようだ。


「うーん」

「も?」

「代官に謁見するわけじゃなく、建築するだけだから問題ないか」

「そうなのじゃ」

「もし、何か言われたら我の身内といえば、いいであろう」


 ティミは古代竜の子爵なので、人の法の外にいる。

 ティミが口添えすれば、大体何とかなる。


「じゃあ、フェムたちも手伝ってくれ」

「わふ!」「もぅもぅ!」「ぴぎぴぎ」


 獣たちも張り切っているようだった。

 何を手伝ってもらうかは決めていないが何か仕事はあるだろう。


 それから、狼の被り物は忘れずにつけてから出発する。

 となりの狼商会にも顔を出し、ミリアに報告してから、代官所へ行く。


 俺たちが代官所につくと、二人の門番が直立不動になる。


「子爵閣下! よくぞおいでくださいました。今すぐ代官閣下にお取次ぎいたします」

「中でお待ちくださいませ!」

「いや、その必要はないのである。今から竜舎の建築を開始するとベルダどのに伝えくれるだけでよい」

「は、はい。了解いたしました!」

 年長の門番が若い方を走らせた。


 それを確認してから、俺たちはベルダに聞いた竜舎予定地の空き地へ向かった。

 ティミが空き地を、改めてじっくりと観察しながら言う。


「貴族の邸宅跡だけあって、充分広いのだな」

「これならジールぐらい大きな竜であっても、寛げる竜舎を作れるだろう」

 俺がそういうと、ティミは深くうなずいた。


「そうであるな」

「りゃありゃあ」


 俺の懐の中に入っているシギもティミと同期するかのように、深くうなずいていた。

 周囲の匂いをかいでいたフェムが言う。


『ジールはとても大きい竜なのだな?』

 フェムはジールと面識がない。だから竜舎予定地の広さから大きさを推測したのだろう。


「いや、ドービィよりもだいぶ小さい」

『ふむ?』

「それでも大多数の一般竜よりはだいぶ大きい」

『そういうものなのだな』


 フェムは納得したようだ。

 モーフィとチェルノボクは空き地を調べまくっていた。


「モーフィ、チェル。何かあったか?」

『ない!』『ない!』


 モーフィとチェルノボクは楽しそうに返事をする。

 そして、モーフィは空き地の隅の方でおしっこをしていた。

 縄張りを主張しているのだろう。仕事熱心な牛である。


 それに引き換え、フェムは仕事をさぼりすぎだ。

 フェムの尿があれば鼠も魔鼠も近づかない。だから、してもらいたい。


「フェムも縄張りを主張してもいいんだからな」

『そんなことはしないのである』


 モーフィの尿でも効果はあるかもしれないが、フェムの尿ほどではない。

 だが、フェムはかたくなに縄張りを主張することを嫌がっていた。

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