第294話

 続々と集まってくるジャック・フロストを魔法で薙ぎ払いながら除雪を続ける。

 時折ヴィヴィも除雪の片手間にジャック・フロストを排除してくれた。

 いや、排除は言い方が悪い。おかえりいただいていた。

 クルスたちは動きを変えずに、気配を探ってくれている。


「どんどん除雪するぞ!」

「そうじゃな!」


 あえて声に出して、敵にアピールする。

 見ているだけなのか、聞いてもいるのか。それはわからない。

 念のためだ。


 どこに近づけば、ジャック・フロストの攻撃が激しくなるか。

 そこから、ジャック・フロストを操っている者の意図がわかるというものだ。

 攻撃が激しくなる方が正解である。


『逆に、罠という可能性はないのかや?』

『そういう手を使うなら、最初から俺たちに攻撃を仕掛けないだろう』

『そういうものかや』


 今更少しばかり違う方向に誘導しようが、意味がない。

 誘導先に行ったあと、何もなければ戻ってくればいいだけだ。

 ジャック・フロストの操縦者は、俺たちを仕留めることに決めたのだろう。


『精霊魔法がどんどん激しくなるな。こちらが正解か』

『よほど、見られたくないのじゃな』

『わくわくしてきましたねー』


 クルスは楽しそうだ。余裕があって結構なことである。


『それにしても、ジャック・フロストの数が多いな』

『そうね。数を増やすことに成功していたのかも』

『なるほどー。手遅れにならなくてよかったねー』

『もう私たちだけで三十体ぐらい倒してるのだわ』

『こっちもアルが一人で二十体は倒しておるのじゃ』

『ということは倒したジャック・フロストだけで五十体だねー。まだまだいるし、すごいね』


 確かに、クルスの言う通りだ。凄い。

 クルス領に湧いたジャック・フロストは今回よりずっと多かった。

 だが、範囲が比べ物にならないほど広かった。

 それゆえ、密度は今回の方がはるかに濃い。


 黒幕は失敗の原因を範囲を広げすぎたことだと判断したのかもしれない。


『充分増やしてから、一気に攻め落とす予定だったのかもな』

『その可能性もあるけど……』

『ルカは違うと考えているのか?』

『そうね。精霊密度を高めて精霊石精製効率を上げようとしたのかもって思うのだけど……。ヴィヴィちゃんはどう思う?』


 ルカは魔法陣の専門家であるヴィヴィに意見を求めた。


『うーむ。精霊力のメカニズムを、まだ理解できておらぬゆえ断言はできぬのじゃが……』

『精霊力も魔力も、さほど変わらないと考えていいんじゃないか』


 俺はヴィヴィに向けて、そう言った。


 不活性化した魔力が精霊力である。

 異なる点もあるが、似たところもたくさんあるのだ。


『そうなのかや? まあ、それならば精霊の密度を上げたほうが、精製効率は上がると思うのじゃ』

『もしそうなら、加速度的に精霊が増やすことができるかも知れないわ』

『たしかに、いっぱいいるもんねー』


 俺とヴィヴィは除雪しながら、ジャック・フロストにおかえりいただく。


『そろそろ、雪を溶かしても大丈夫だな』


 除雪で、積雪の量が減れば、熱で溶かして除去できる。

 洪水になることもない。

 俺は除雪作業を続けながら、火炎で雪を溶かした。

 とけた水も重力魔法で遠くに飛ばす。

 水量自体大したことがないので雪の上に落ちたら、すぐ凍るだろう。


『やはり、魔法陣があったのじゃ』

『解析できるか?』

『巨大ゆえ、少しかかるのじゃ』

『除雪は俺に任せて、ヴィヴィは解析を頼む』

『任せるのじゃ』


 一人で除雪を続けながら、ジャック・フロストにもおかえりいただく。

 それにしても、数が減らない。

 いったい何体のジャック・フロストがいるのだろうか。


『おや? これは……』

 ヴィヴィがつぶやいた。


『どうし――』


 俺がヴィヴィに尋ねようとした、その瞬間。

 フェムより三倍ぐらい大きな溶岩石が複数個上空に出現した。

 そして自由落下を開始する。


「うおっ!」


 俺は驚いた。思わず声を上げてしまったほどだ。

 ものすごい大魔法だ。いや、精霊魔法だろうか。

 とりあえず考察は後回しだ。


 俺は魔法障壁を展開する。

 クルスたちを守るようにも展開しなければならない。

 クルスたちなら独力で窮地を脱出できるだろう。

 それでも、魔法攻撃からパーティーメンバーを守るのは、魔導士の務めだ。


 ――ガ、ガッガッ


 魔法障壁に巨大な溶岩石がぶつかる。

 その数、十五。

 一個ごとの質量がかなりある。それが自由落下してくるのだ。

 防ぐには魔力をかなり消費する。 


 ティミから念話が届く。


『すごいことになっておるな。手助けはいるか?』

『必要ない。ありがとう』

『そうか』


 クルスたちに当たらない位置に溶岩石を落とさねばならない。

 落とす位置は敵の作った魔法陣を壊さない辺りがいい。


 調整しつつ、遠目に落とそうと考えていると、雪中から人影が現れた。

 深くフードを被り、分厚いコートを身にまとっている。

 男女の区別もわからない。


 出現と同時に、俺に向かって突っ込んできた。とても速い。


「アル! あぶないのじゃ!」


 ヴィヴィが叫ぶ。

 念話、除雪の重力魔法、溶岩石を防ぐ魔法障壁。

 加えて全員にかけてある対吹雪用の防寒魔法。

 俺は、すでに計四種類の魔法を展開している。


 これだけ展開していたら、さすがに対応は遅れる。

 敵ながら、良い攻撃のタイミングと認めざるを得ない。


 急速に接近しながら、人影は手のひらから火炎を出した。

 その手のひらを俺に向ける。


「がおおおおおおおおん!!」

 フェムが咆哮した。人影は一瞬固まる。

 火炎は明後日の方向へと飛んでいく。


 そこにヴィヴィを乗せたままモーフィが突っ込んだ。

 強烈な頭突きである。


 人影は吹き飛ばされて、ごろごろと転がった。

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