第282話

 ヴィヴィがルカの言葉に首を傾げた。


「わからなかったとは、なにがわからなかったのじゃ?」

「吹雪を起こした獣人の精霊魔法使いというのが誰かわからなかったということよ」

「ふむ?」


 ヴィヴィは釈然としない表情をしている。

 俺はルカに尋ねた。


「候補を絞り切れないということか?」

「違うわ。候補が一人もいないということよ」

「精霊王を呼び出せそうな獣人魔導士が記録にないということか?」

「そうなるわね」


 冒険者ギルド。教会。魔導士ギルド。

 その三団体の記録に残らないというのは考えにくい。


 クルスも真面目な顔で考えている。

「能力を隠しているのかも」

「それも考えたのだわ。でもそれもないという結論になったの」

「そもそも、獣人の精霊魔法の使い手自体少ないの。全員調べた結果、真面目な魔導士しかいなかったわ」

「それに、精霊魔法を補助的に使う魔導士ばかりで……。よわい精霊しか召喚できない魔導士ばかりなのだわ」


 精霊魔法の使い手探しがとん挫してしまった。


「冒険者ギルドにも、魔導士ギルドにも、教会にも隠しているのならば……。探しようがないな」

「そうね」


 俺の意見にルカが同意する。

 魔導士ギルドは、自ギルドに登録した魔導士の記録をもとに報告書を作っている。

 だが、冒険者ギルドや教会はそれだけではない。

 目撃証言や噂なども含めて情報を集めてくれているのだ。

 当然聞き込みなどもやっている。


 それで引っかからないということは、隠しきる腕も一流なのだろう。

 獣人の精霊魔法の使い手という方向で探しても無駄かもしれない。


 真面目な顔でティミショアラが言う。


「つまり、獣人ではなかったということか?」

「精霊王ちゃん、獣人と間違えたのかなー?」


 クルスはそういうが、獣人だと証言したのは精霊王だけではない。


「上位精霊も獣人だって証言していたと思うが」

「そういえばそうでしたね。アルさんさすがです」


 クルスに褒められた。

 だが、ルカが言う。


「上位精霊も、じゃないわ。獣人と証言したのは上位精霊だけ。精霊王は上位精霊の言葉を通訳しただけよ」


 ルカの言葉を聞いてから当時のことを思い出してみる。

 確かに、そうだった気がしてきた。


「さすがルカ。そういえば、そうだった気がする」

 学者戦士は伊達ではないようだ。記憶力がよい。


「たしかにそうだったような気がするのである」

「りゃっりゃ」


 ティミとシギショアラもうんうんとうなずいている。 


「精霊王が言ったのは、人族ではない男に召喚されたってだけ」

「でも、精霊王ちゃんは、上位精霊が獣人って言ったのを否定しなかったのだから、獣人でいいんじゃないの?」


 クルスの問いはもっともに聞こえる。

 だがルカは言う。


「そもそも、精霊王に人族の区別がついていたとは思えないわ」

「なるほどー」

「絵を描いてもらえばよかったかもな」


 俺がそういうと、ティミもルカもうなずいている。

 絵を描いてもらったらいいのでは? という意見はクルスから出ていた。

 だが、結局描いてもらわなかったのだ。


「精霊王ちゃんにもう一度話を聞けたらいいんだけど……」


 そしてクルスは俺を見る。


「アルさん、精霊王召喚できませんか?」

「いや、さすがに無理だぞ。精霊魔法は専門外だ」


 弱い精霊ぐらいなら、召喚できると思う。

 上位精霊も一か月勉強すれば行けるかもしれない。

 だが、精霊王を召喚するとなると、半年は勉強しないと駄目だろう。


「アルさんでも、無理ですかー。ヴィヴィちゃんやヴァリミエちゃんは?」

「わらわには無理じゃ。姉上はどうじゃ?」

「わらわも無理じゃな」

「じゃあ、ティミちゃんは?」

「精霊王なら誰でもいいというのなら……。もしかしたらやれるやも知れぬ」

「それはすごいな」


 俺が褒めると、ティミは照れる。


「時間もかかるし、材料が色々必要なのだがな!」

「それでもすごいぞ。古代竜の魔法体系というやつか?」

「その通りである」


 俺の懐からでたシギショアラが、ティミのもとへと飛んでいく。


「りゃっりゃー」

「おお、今度シギショアラにも教えるのだぞ」

「りゃあ」


 古代竜の魔法体系に属する魔法は俺には教えることが出来ない。

 ティミがいてくれて本当によかった。


 ティミがシギを撫でながら言う。

「時間と材料をそろえれば、精霊王クラスを召喚することは可能だが、例の精霊王本人を呼び出せるとは限らぬ」


 大量召喚の犯人を目撃した精霊王で無ければ意味がない。


「難しいのかー」


 クルスが唸った。

 俺は精霊王を思い出しながら、精霊王から貰った腕輪を撫でる。


「また、精霊王に会ってみたいものだな」

「ですねー。またねって言ったので、そのうち来てくれるかも」

「そうだといいな」


 そんなことを話していると、精霊王から貰った腕輪が淡く光りはじめた。


「アルさん。なんか光ってますよ!」

「む? 何に反応したんだ?」


 とりあえず腕輪に魔法探査を走らせる。

 魔力というより精霊力を感じる。


「わからないな……」


 徐々に光が強くなっていった。

 ルカは心配そうだ。


「だ、大丈夫なの?」

「悪い感じはしないが……」


 しばらく光った後、光はおさまる。


「ぴぃ」


 同時に精霊王が出現していた。

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