第259話

 その後、俺は風呂に入って寝た。

 風呂ではフェム、モーフィが甘えてきた。ベッドの中でも甘えてきた。

 顎を乗せてくるので、重い。


 徹夜明けに眠りについた時も、フェムとモーフィは甘えてきていた。

 よほど、寂しかったのかもしれない。仕方ないので、頭を撫でてやる。


「りゃありゃあ」

 シギショアラは小さな声で鳴きながら、モーフィとフェムの頭を撫でていた。


◇◇◇

 次の日、クルスとステフは魔導士ギルドに向かった。

 そしてルカは冒険者ギルドへ、ユリーナは教会に向かった。

 それぞれ情報収集してくれるだろう。


 一方、俺は衛兵業務だ。

 俺も情報収集したいところだが、役に立てそうにないので仕方がない。

 それに衛兵業務も大切な仕事だ。


 衛兵の職務を果たすため、俺はシギを懐に入れて、村入り口横の椅子に座る。

 フェムとモーフィは俺の横で寝っ転がっていた。

 雪の上だというのに寒くないのだろうか。


「フェム、モーフィ。風邪ひくなよ?」

「もっもー」

『余裕なのだ』


 さすが分厚い毛皮を持っているだけのことはある。


 衛兵しながら、ヴィヴィやミレット、コレットに魔法体操を教えたりもする。

 ヴィヴィも魔法体操を試してみる気になったようだ。


 しばらくそうしていると、チェルノボクが来た。

 俺のひざの上にぴょんと飛び乗る。


「ぴぎっ!」

「どうした、チェル」

『むらにいく』

「そうか。手伝おうか?」

「ぴぎ! 『おねがい』」


 チェルノボクはふるふるした。

 ミレットはそんなチェルノボクを撫でる。


「あ、私も手伝いますよー。ゴーレム連れて行きましょう」

「コレットもいくよー」

『ありがとありがと』


 チェルノボクは嬉しそうだ。

 シギは俺の懐からでて、そんなチェルノボクの上に乗る。


 寝っ転がっていたフェムもすくっと立ち上がる。

 モーフィは立ち上がって、走っていった。そしてすぐに除雪道具を咥えて帰ってきた。


「もう!」

 モーフィの鼻息は荒い。除雪する気満々の様だ。



 その後、皆で死神教団の村へ行って除雪作業を手伝った。

 やはり、人手が足りなさそうだ。


 フェムはチェルノボクと一緒に、魔猪を狩っていた。

 おかげで食料にも、だいぶ余裕ができたようだ。



◇◇◇

 夕方になり、何度もお礼を言われながら、ムルグ村へと戻る。

 クルスとステフは、先に帰って来ていたようで、出迎えてくれる。


「師匠。お疲れさまなのです」

 ステフは少し暗い表情をしていた。

 尻尾はピンと立っている。だが、耳は元気なくぺたりとなっていた。


「ただいま。ステフどうした? 元気がなさそうだが」

「いえ、大丈夫なのです」

 そういって、ステフは笑った。


「お帰りです。チェルちゃんの村に行って来てたんですか?」

「そうだぞ」

「ピギっ!」

「ありがとうございます」

『ありがと!』


 クルスとチェルノボクにお礼を言われる。

 チェルノボクには何度お礼を言われたか、わからないほどだ。


「気にしなくていいぞ。チェルも、頼みたいときはいつでも言うんだぞ」

『ありがと』


 その後、ミレットは夕食の準備をしに行った。

 俺とクルス、ヴィヴィとステフは食堂に集まる。

 魔導士ギルドで得られた情報を共有するためだ。


 さりげなく、モーフィは俺のひざの上に顎を乗せてくる。

 フェムは床に伏せていた。そして、チェルノボクは床でふるふるしている。


「クルス。ステフ。魔導士ギルドはどうだった?」

「それがですね……。あまり情報を得られなかったんです」

「りゃぁ?」


 シギは俺の懐から出て、机の上に乗る。そして、お腹を見せてゴロゴロし始めた。

 だから俺はお腹をこちょこちょする。

 シギは「りゃりゃっりゃ」と楽しそうに鳴いていた。


 片手でシギを撫でながら、俺はクルスたちに尋ねる。


「ふむ? 魔導士ギルドに警戒されたか?」

「いえ、私が獣人だからなのです」


 魔導士ギルドはエリート意識が高い。

 魔導士としての適性が低いと言われる獣人は軽く見られるのだろう。


「すまん。ステフ。俺が気を付けるべきだった」

「いえ、師匠は悪くないのです」

「悪いのは、ぼくです!」


 クルスがはっきりと言った。


「クルスが悪いってことはないだろう?」

「いえ、でも……。ぼくのせいで、魔導士ギルドと喧嘩になっちゃったかも」


 喧嘩とは穏やかではない。魔導士ギルドはそれなりに力を持っている。

 もめたら、面倒なのは間違いない。



 その時、コレットが食堂に入ってきた。

 俺たちの会話は、コレットの興味をあまり引くものではなかったのだろう。

 コレットは床でふるふるしているチェルノボクを抱きあげる。


「チェルちゃん、あそぼう」

「ぴぎっ」

「シギちゃんもね!」

「りゃ?」


 机の上でごろごろしていたシギが身を起こす。

 そんなシギを、コレットはわしッとつかむと、自分の頭の上に乗せた。


「りゃっりゃー」


 シギは嬉しそうに鳴く。

 そのまま、コレットは部屋の隅にシギとチェルノボクを連れて行った。


 それを横目で見ながら、俺はクルスに尋ねる。


「よくわからないから説明してくれ」

「はい。恥ずかしいけど説明しますね」


 クルスは真剣な顔で語りはじめた。

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