第226話

 フェムは背中にシギショアラとチェルノボクを乗せて歩いていく。

 少し村から離れたところで、巨大化した。


「りゃっりゃー」

「ぴぎっぴぎ」

 シギとチェルは大喜びだ。


「うわ!」

 初めて巨大化したフェムをみたステフは驚いて腰を抜かした。


「フェムは魔狼王にして魔天狼だからな。こっちが本来の姿だ」

「すごいのです」

「わふ」

 フェムはぶんぶんと尻尾を振っている。


「ステフとコレットはモーフィに乗せてもらうといい」

「もっもー」

 モーフィはステフに鼻を押し付けていた。


 それから、ステフたちはモーフィに乗り、俺はフェムに乗って走り始める。

 ちなみにクルスは自分の足で走っている。


 走りながら、俺はフェムとクルスに声をかける。


「シギも狩りに連れて行ってくれる予定だったんだろ? ありがとうな」

「りゃあ!」


 シギもお礼を言うかのように鳴いた。


『気にしなくてよいのだ』


 シギは狩りとか好きそうだ。

 面倒見のいいフェムのことだ。シギに狩りを教えてくれる予定だったのだろう。


「シギちゃんも狩りしたいもんねー」

「りゃっりゃー」


 クルスは教えるというより、一緒に遊ぶという感覚の方が強そうだ。

 狩りは遊びではないが、やらなければならないことなら楽しんだ方がいい。


「チェルも狩りとか好きなのか?」

『むらにおにくあげるの』

「なるほど。冬だもんな」


 死神教団も今は冬だ。村建設もゆっくりとしか進まない。

 死神教団はまだ牧畜を取り入れてないので、肉が不足しているのだろう。


 しばらく走って、フェムが止まる。

 獲物の痕跡を発見したようだ。周囲の臭いをしきりに嗅いでいる。


「わふ」

「りゃ」


 フェムはシギにも声をかけ、臭いを嗅がせる。

 色々教えているのだろう。


『あっちなのだ』


 そして、フェムはまた走り出した。


「獲物はなに?」

魔猪まちょなのだぞ』

「魔猪か。久しぶりだな」

『冬になって毎日の咆哮も控えているのだ。だから戻ってきているのだぞ』


 冬は農作業がお休みだ。だから魔獣や獣を追い払う必要が夏に比べて少なくなる。

 だから咆哮を使わず、獣たちが近くに来るようにしているらしい。

 そのほうが魔狼の食糧事情的には助かるのだ。


『夏から秋にかけて、追い払い続けているのだ。だからまだ猪の餌が残っているのだぞ』


 冬は猪たちも餌が不足しがちだ。

 だから、狼の脅威にもかかわらず、村の比較的近くまで寄ってくるのだという。


「猪たちも大変なんだなー」

『そうだ。大変なのだぞ』


 フェムと話していて、俺は少し心配になった。


「昨日ティミが鳴いてたけど大丈夫か?」

『あまり大丈夫じゃないのだ』

「そうか。大変だな」


 古代竜の咆哮は周囲の魔獣や獣たちに大きな影響を与える。


『だから、ティミが鳴いたのとは逆方向にいくのだ』


 本気の咆哮ではなかったので、逆に走ればなんとかなるのかもしれない。

 それを聞いていた、クルスがいう。


「暴れ竜とか暴れユニコーンとかが出たらいいんですけどねー」

「それはそれで、面倒だぞ」


 しばらく進むと、またフェムが止まる。


『すぐ近くにいるのだ』

 そう言って伏せる。モーフィも伏せた。

 俺たちも獣たちから降りて伏せる。


『あっちの方にいるのだぞ』

 フェムが鼻で示す方向を見てみると、魔猪がいた。

 立派な魔猪だ。普通の牛ぐらいある。

 かなり距離は離れているが、フェムの狩りの常識ではすぐ近くなのだろう。


「魔法で倒してもいいか? それともフェムが狩る?」

『魔法でよいのだ』


 フェムから許可が出たので、俺は魔法の矢を放つ。

 まっすぐ飛んで眉間に刺さる。すぐに倒れた。


「さすがアルさんですねー」

『見事なのだ』


 クルスとフェムに褒められた。

 その後、魔猪のもとに急いで向かい、必要な処理をする。


 俺が魔法で吊るすと、クルスがテキパキ血抜きなどの作業をしてくれる。


「シギちゃん、ここから血を抜くといいんだよー」

「りゃあ!」

「毛皮も大切だから、慎重に解体するんだよー」

「りゃっりゃ!」「ぴぎぃ」


 シギもチェルも興味深そうにクルスの解体を見ていた。

 一通り解体を終えると、魔法の鞄にしまい込む。


「もっも」

「モーフィどうした?」

『むこうにいる』


 そう言って、俺の袖を咥えてぐいぐい引っ張る。


「向こうにいるって、狩りの獲物が?」

『そう』

「フェムは?」

『確かに変わった臭いはするのだ。でも、何の臭いかわからないのだ。少なくとも猪ではないのだぞ』

「フェムでもわからないのか」


 コレットが、モーフィに尋ねる。


「モーフィちゃんは何がいるのかわかるの?」

『わかんない』

「そっかー」


 クルスはそんなモーフィの頭を撫でる。


「とりあえず行ってみようか。アルさんいいですか?」

「構わないぞ」


 しばらくモーフィを先頭に進んでいく。

 走りながら、俺はモーフィの背にのったステフに声をかける。


「ステフ、どうだ? 寒くないか?」

「大丈夫なのです」


 ステフの尻尾がぶんぶんと揺れた。


「私も地元では狩りをやっていたのです。次は任せて欲しいのです」

「別にいいぞ」

「ありがとうなのです」

「ステフねーちゃん、がんばー」

 コレットもステフを励ましていた。


 しばらく走ると、とても大きな鳥が見えた。馬三頭分ぐらいある。

 クルスが小声で尋ねてくる。


「アルさん、あれは何ですか?」

「ロック鳥だな」

「へー。あれがーそうなんですね」


 クルスも名前は知っているらしい。


「ステフいけるか?」

「いけるのです!」

「じゃあ、頼む」

「お任せください!」


 ステフは力強く返事した。

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