第193話

 夕方まで相談、作業と準備をして、ムルグ村に戻る。

 司祭は、転移魔法陣まで見送りに来てくれた。


「主上。そして皆様。本日はありがとうございました」

「いえいえ。また明日も来ますね!」

「ぴぎっ!」


 チェルノボクは一声元気に鳴いた後、

『ありがと』

 念話でお礼を言った。


 ムルグ村に戻って夕食を食べた後、ヴァリミエが言う。


「ゴーレムを準備したのじゃぞ」

「おお、ありがとう」

「さすが、姉上なのじゃ!」


 ヴィヴィに褒められ、ヴァリミエは照れている。

 チェルノボクもフルフルし始めた。


『ヴぁりみえ。ありがと』

「チェル、気にしなくていいのじゃぞ」


 そういって、ヴァリミエはチェルノボクを撫でまくる。

 チェルノボクを撫でると、ふよふよして気持ちがいいのだ。


「ぴっぴぎ、ぴぎ」

 チェルノボクも撫でられると気持ちいいらしい。機嫌よく鳴いている。


 俺はヴァリミエに尋ねる。


「どんなゴーレムを用意してくれたんだ?」

「うむ。ミスリルゴーレムを5体ほど貸し出そうと思うぞ」

「ミスリルか。結構高性能なのを貸しだしてくれるんだな」

「力仕事もあるじゃろうからな!」


 木製や軽い岩のゴーレムなら軽量で便利なのだが、パワーは少し落ちる。

 その点、ミスリルだと相当な力仕事も可能なのだ。


 話を聞いていたミレットが言う。


「ゴーレム操作のために、私たちも手伝いますよ!」

「コレットも手伝うよ!」


 ゴーレム操作は魔法の素人でも練習すればできなくもない。

 もちろんゴーレムを素人が動かせるよう設計した場合に限りだが。


 とはいえ、魔法訓練を受けたものの方が、よりうまく効率的に動かせる。

 だから、ミレットたちの応援はすごく助かる。


「それは助かるが、村のお仕事は大丈夫?」

「もちろんですよ、村長には言っておきますから」


 コレットはモーフィの背中にヒシっと抱き着く。


「ねー、モーフィも一緒にいこうねー?」

「もー」


 モーフィは嬉しそうだ。


 俺はクルスに尋ねる。


「大工さんとか、橋の技術者とかって、どのくらいで到着予定?」

「そうですねー。代官代行に、急いで派遣するようお願いしていますけど……」

「数日かかる?」

「おそらくは。もしかしたら明日とかに到着してくれるかもですが」


 教団につながる道らしい道はない。

 だから、時間が読みにくいのだ。


「官僚は?」

「技術者と官僚は一緒に到着する予定です」

「なるほど」


 とりあえずは、技術者が来るまでにできることをするしかないだろう。


「道づくりと畑づくりじゃな!」

「そうだねー」

「畑づくりは任せるのじゃ!」

「もっもぉ!」


 ヴィヴィは自信満々だ。

 モーフィも背筋がピンと伸びている。


◇◇◇


 次の日朝食の後。死神教団の村に行く前に、ヴィヴィが言う。


「アル。前々から思っておったのじゃが」

「む?」

「その恰好はどうなのじゃ?」

「どうといわれても……」


 俺はいつもの魔導士っぽい格好だ。動きやすいし汚れても構わないし便利なのだ。


「農業ならこれじゃぞ!」


 そういって、ヴィヴィは自分が着ているつなぎの作業着と麦わら帽子を指さす。


「確かに農業っぽいけどさ」

「アルの分も用意したのじゃ」

「お、おう。ありがとう」


 準備のいいことだ。

 ヴィヴィがせっかく用意してくれたのだ。着るべきだろう。


 俺が作業着と麦わら帽子を身につけると、ヴィヴィは満足した様子でうなずいた。


「うむ。それでいいのじゃ」

「あー、いいなー。ぼくも着たい」

「しょうがないのじゃ」


 そう言ってヴィヴィはクルスの分も取り出した。

 準備がよすぎる。


「やったー」

「ま、待つのじゃ!」


 その場で着替えようとするクルスを、ヴィヴィが慌てて別室に連れていった。

 すぐに着替えて戻ってくる。


「どうですか? アルさん」

「おお、似合ってるぞ」

「えへへ」


 クルスはとても嬉しそうだった。


 それから、俺たちは死神教団へと向かった。

 村の建設予定地へと移動する。

 司祭が頭を下げながら言う。


「住居エリアはこの辺りの予定なので、畑はあちらの方にお願いします」

「了解したのじゃ!」


 今日は、ヴァリミエのゴーレムも同行している。

 ミレットとコレットも一緒だ。


「モーフィ、ミレットとコレット! 開墾じゃ!」

「はい! お願いします」

「コレットがんばる!」

「もっもぅ」


 ヴィヴィの指示の元、開墾を開始した。

 やはり手際がいい。

 一番厄介な木の伐採は、巨大なモーフィが担当している。


 それを見ながらフェムがつぶやく。


『ムルグ村でやった開墾より手際がいいのだ』

「イモ畑作ったときは、まだモーフィと会話ができなかったからなー」

『そうだったか』

「そうだぞ」


 開墾のために木を伐採していたころ、モーフィはまだ巨大なままだった。

 牛耕開始のころに、クルスの通訳でやっと小さくなったのだ。

 そして、モーフィは念話をまだ使えていなかった。


「でかいモーフィに木を引っこ抜くのお願いできなかったから、魔法を使う必要があったんだよ」

「わふぅ」


 モーフィは昨日と同様に大きな角を木の根元に差し込んでボンボン引き抜いている。

 ものすごいパワーだ。

 根っこが深くて難しい場合、角から魔力弾を発射している。

 魔力弾により、根は吹き飛び、簡単に抜けるようになるようだ。


「畑はヴィヴィとモーフィたちに任せておけば大丈夫だな」


 一方、ティミショアラは地図を片手にクルスに尋ねていた。


「道はここに作ればよいのか?」

「うん。そんな感じで道を敷設できれば助かるんだよー」

「了解したぞ」

「ティミちゃんの作ってくれた地図のおかげで、いい道が敷設できそうだよ」

「ふふふ」


 照れながら笑った後、ティミは俺の方を見る。


「よし、アルラ、フェム、シギショアラいくぞ!」

「おう」

「わふ!」

「りゃっりゃ!」


 俺の懐の中から、顔を出しながらシギは鳴いた。

 そんなシギをティミは抱きかかえる。


「りゃあ」

「シギショアラ、叔母さんの肩に乗るがよい」

「りゃっりゃ!」


 ティミはシギを肩に乗せると、走りはじめた。

 人型なのに、尋常ではないぐらい速い。


 俺はフェムに飛び乗ると、追いかける。


「ティミは相変わらず速いな」

『竜形態ならともかく、人形態には負けられないのだ!』


 フェムは全力でティミを追う。

 いつもより速い。徐々にティミの背中が近づいてくる。


「フェム、やるではないか」

「わふ!」


 あっという間に、昨日の川まで到着する。


「はあはあはぁはぁ」

「わふぁはっはっはっは」

「りゃっりゃっりゃっりゃ」


 ティミもフェムも息が上がっていた。かなり本気だったようだ。

 ちなみに競争はほぼ互角だった。


 シギはご機嫌に、ティミの肩のうえで羽をパタパタさせていた。

 ティミの顔に羽がバシバシ当たっている。


「シギショアラは元気でよいな!」

「りゃあ」


 ティミはとても嬉しそうだ。


 フェムとティミの息が整うまで、川の水を飲んだりしながら休憩することにした。

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