第5話 アイタイ



「ヨンデ…クレタ カナで 」


「ほんとに…とうま…?」




そうであるはずがないと、斗真の最後の瞬間を見届けた自分自身がよくわかるはずなのに、あたしは何度も聞き返した。 


(だって あのとき斗真は確かにー……。)


赤く染まったアスファルト。


冷たくなった手の温度。


泣き崩れていた家族。


電子音の掻き消えたあの瞬間。


そのすべてがあたしの記憶しているものが現実だと突きつけるように、脳裏を埋め尽くした。


(もしかして夢でも見てる…、かな?


そうだよね、だっているはずが…ないんだ)


自問自答のその答えに、きゅっと唇を固く噛み締める。


改めて思い知らされた現実と、拭いきれない想いとが複雑に絡み合い、ギリギリの瀬戸際でせき止められていた何かが解き放たれたように熱いものがこみ上げて頬を濡らす。


片言が消え、声もしゃべり方も、まるで”生きていた”ころの斗真と何一つ変わらなくなってくる。








「かなで…?どうか、したの…?」


「ううん。なんでもない 」




(夢なら、覚めないでほしい)




「へんな かなで」


「へへ…  ごめんね 」




(夢なら、覚めないで、いい)




「ねぇ…かなで」


「なに? 斗真」


「…逢いたい」


「…………」




なんて言葉を返したらいいのか、正直わからなかった。


きっと斗真は、自分が死んだことに気づいていない。


そして斗真をそんな状態にしたのは、まぎれもないあたし自身。


それでも  望んでいいのだろうか?


(もし 望んでもいいのなら…)




「…だね。そうだね。あたしも…、逢いたいよ 斗真。


すっごく…っ 逢いたいよ  ごめんね」




わがままなのだとはわかっていた。


それでも正直なこの気持ちの強さだけは抑えられなかった。




「明日  逢いにいってもいい…?」


「うん…そうだね じゃあいつものとこで6時にね」


「わかった じゃあね、かなで」


「うん  バイバイ…」




きっと 最後になるであろう会話。


明日。


明日が来るころにはきっと、夢だって覚めてしまう。


叶いはしない、約束。


ついさっきまで、斗真と通じていた携帯をぎゅっ…と握りしめる。


(これが 夢じゃなかったら…、よかったのにな)




そうして、あたしはそのまま


泣き疲れて  眠りに落ちていった。




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