第四話 カリン実験をする


 イーリスが不思議そうな顔をしてから、護衛の剣を貸してくれた。


「カリン様。剣は、護衛が使っている物です。予備がありますから、壊してしまっても問題はありません」


 イーリスが、不思議そうな表情をした意味が解った。

 私が、剣を的にするつもりだと思ったのだろう。


 剣を手に持つ。

 初めて持つけど、少しだけ重いけど、竹刀を持つような感じかな?


 護衛は片手で持っていたけど、両手で持つ。


 意識を集中する。魔法はイメージ。


「カ、カ、カリン様?それは?」


 驚いているイーリスの声が聞こえる。

 ん?あぁ成功した!


「剣に、火を纏ってみた?」


「なぜ疑問形なのですか?でも、本当に、そのような事が出来るのですか?」


「え?出来ない?」


 火を消して、聖の剣にしてみた。意味があるとは思えないけど、”の”を外せば、”聖剣”だなと関係ないことを考えてみた。


「え?あっ今度は、聖ですか?剣に属性を纏わせているのですか?」


「正解。これなら、属性にそった攻撃が出来る」


 剣道の授業で習った構えから、剣を振り抜いてみる。

 少しだけ重く感じる。イーリスに剣を返して、馬車から自分のサイズに調整してもらった、太刀と脇差を持ってくる。最初から、これを持って森に出かければよかった。


 抜刀術なんて習っていないから、剣道の構えを自分流に変えていくしか無い。今は、授業で習った構えから太刀を振り抜いてみる。もう少しレベルが上がれば、片手でも扱えるかもしれない。太刀は、両手で扱って、脇差を二本もってもいいかもしれない。


 馬車に戻って、まーさんに脇差を借りよう。


「まーさん」


「どうした?」


「まーさん。脇差を作っていたよね?」


「あぁそうだ。カリンに、渡すのを忘れていた」


「え?私の脇差?持っているよ?」


「あぁ違う。違う。王都を出たら、武器を使うことになるだろう?」


「うん」


「予備が必要になるだろうと思って、脇差を二振りと太刀を一振り。作ってもらった。銘は打っていないから、カリンが名前を付けてくれ」


「え?いいの?」


「必要になったのだろう?」


 まーさんは、私が持っている脇差を見て、笑いかけてくれた。こういう所が”ずるい”と思ってしまう。大人だとは解っている。でも、姿が若くなっている。多分、20代の前半だと言っても通用する。私の姿は変わっていない。イーリスに勧められて、化粧をすこしだけするようになって、雰囲気は変わったと思うけど、17歳の小娘だ。まーさんは、大人だ。こんな小娘を・・・。


 え?私、今、何を・・・。


「どうした?」


 顔が暑い。きっと動いたからだ。


「え?あっなんでもない。なんでもない。まーさん。ありがとう!」


 まーさんから差し出された脇差と太刀を奪うようにして、馬車から出てしまった。恥ずかしい。あとで、しっかりとお礼を言わないと・・・。


「カリン様?」


「ごめん。イーリス。もう少しだけ、休憩していい?」


「はい。大丈夫です。私は、まー様にお伝えしてきます。森に入るのなら、護衛を連れて行って下さい」


「わかった。ありがとう」


 今、まーさんの顔を見るのが、若干・・・。本当に、若干だけど・・・。恥ずかしい気持ちになっている。


 太刀と脇差を鞘にしまう。


 まーさんから、新しく受け取った脇差を使ってみたいと思えた。


 刀身が黒と銀だ。すごく綺麗。光を吸い込むような黒い刀身は、黒鉄。光を反射する銀色の刀身は、白銀。脇差に名前を告げると、不思議な現象が発生した。二振りの脇差が金色に光りだした。そのまま、刀身に光が集まって、文字を形成する。


 光が治まると、刀身に”日本語”で私が考えた名前が打たれている。銘が刻まれた。脇差だから?太刀を取り出して、銘が刻まれているか確認をすると、たしかに、こちらの文字で銘が刻まれていた。打った人の名前だろうか?もう一本の太刀には、銘が刻まれていない。私が”銘”を考えていいのだろうか?殺生〇様が持っていた。「天〇牙」や「鉄〇牙」なんて名前を着けてもいいのだろうか?


 天生〇なんて名前にしたら。聖をまとっている時には、まさに癒しの刀になってしまいそうだ。


 名前は、後で考えよう。黒鉄と白銀は気に入っているから、問題はない。


 さて、実験を行ってみよう。


 黒鉄を右手に、白銀を左手に持つ。二刀流なんて習っていない。今は、実験だし、問題はないだろう。


 黒鉄には、火を。白銀には、聖を纏わせる。

 イメージが難しい。何度か、失敗をしていると、弱いながらも、二つの属性を纏うことができた。


 他の属性は?

 使える気がするのだけど・・・。


 イーリスが戻ってきて、時間は大丈夫だと伝えてきた。


 もう少しだけ集中をする。

 他の属性は、そうだ!雷と氷!


 雷は、できそうだ。

 黒鉄に雷のイメージを纏う。黒の刀身に、雷は綺麗だ。白銀は、氷のイメージを纏う。


 私の足元で、丸くなっていたバステトさんが、起き上がって、私の足をタップする。私がやろうとしていることが解って、手助けをしてくれているようだ。


”にゃ!”


【魔術:風を取得しました】

【魔術:雷を取得しました】

【魔術:水を取得しました】

【魔術:氷を取得しました】

【魔術:炎を取得しました】


 え?


 思わず、バステトさんを見てしまった。

 もう終わりだというのか、足元から離れて馬車に向かっている。


「カリン様?」


 脇差を鞘にしまう。


「イーリス。一般的な話を聞いていい?」


「なんでしょうか?」


「人って、どのくらいの属性が使えるものなの?」


「質問の意図がわからないのですが?」


「簡単にいうと、炎は火の上位版だよね?」


「はい。そうです」


「風の上位は、雷。水の上位は氷。で、有っている?」


「はい。問題は・・・。まさか!」


「うん。取得した。火は、さっき獲得したけど、今・・・。炎と風と雷と水と氷。バステトさんが”何か”した可能性もあるけど・・・」


「そうですか・・・。6属性の魔術を・・・」


「うん。普通だよね?ね?ね?」


 ダメな奴だ。

 イーリスの表情から、解ってしまった。複数の属性は持てるのだろうけど、6属性は多いのかもしれない。もしかしたら、他にも問題があるのか?


「カリン様。勇者様の中に、埜尻のりじ玲羅れいら様がいらっしゃいます」


「え?あっうん?」


 元同級生だから知っている。まだ、覚えていた。


埜尻のりじ玲羅れいら様は、勇者様の中で、魔術が得意で、”聖杖”の持ち主です」


「うん?」


 知らないけど、そうなのだろう。

 魔術が得意なら、杖が武器になるのだろう。


「そして、”魔術の勇者”と呼ばれている、埜尻のりじ玲羅れいら様が使える属性は、火・土・風・水の4属性です」


「え?うそ?上位属性は?」


「幻です。あると言われていますが、書物の中にしか存在しません」


「・・・。えぇーと。気のせいってことには・・・」


「なりません。カリン様にも協力していただいた。初代様の日記ですが、その中にも上位属性が出てきていますが、誰も取得には至っていません」


「・・・。ふぅ・・・。イーリス。すこしだけ、本当にすこしだけ落ち着いて、近づかないでね?」


「はい。解っております。異世界の知識が影響しているのだと思います。なので、カリン様。上位属性を使って見せてください。お願いします」


 イーリスは、土下座する勢いで頼んできた。

 上位属性には、憧れがあるのだろう。それにしても、勇者たちでも取得ができていないのは、すこしだけびっくりした。条件が解らないけど、簡単に取得ができた印象がある。バステトさんが居たからなのかもしれないけど・・・。それでも・・・。うーん。よくわからない。


 それから、時間まで上位属性を発動し続けた。

 イーリスは、一生懸命にメモを取っている。


 取得できていないのは、土と土の上位属性の鋼だけど・・・。ダメだ。イメージが固まらない。土ってどうしたらいいのかわからない。鋼なんて、もっとわからない。土壁とかならイメージ出来るけど・・・。出来たら、使い勝手がよさそうだから、欲しいのだけど、そうなると”闇”以外のすべての属性が取得できたことになってしまう。目立ってしまうのは、避けられそうにない。現状でも目立つだろうな。また偽装してから隠蔽しておこうかな?偽装だと、まーさんにお願いしないと・・・。


 まーさんに・・・。

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