第二話 バステトの冒険


 我は、”猫”だ。いや、違う。かつて”猫”だった者だ。


 名前は、バステト。真命は、雄が我に付けた名だ。雄にしては、珍しく素晴らしく我にふさわしい名だ。


 どうやら、今日はこの場所で休むようだ。

 我に、雌の守りを頼んで、雄は外で警戒するようだ。


 話の流れから、まだ時間はあるようだ。雌だけではなく、雄の安全のためにも、周りに居る”まがい者”たちを狩っておいたほうがいいだろう。雄の他にも、人間が居る。強さのほどはわからないが、安全にしておけば、雄も寛げるだろう。

 以前に、雄がしてくれたことを、我は雄に返そう。


”にゃ”


 見回りに行くことを、雄に知らせておく必要があるだろう。

 雄は、心配性なのだ。


「いいですよ。まだ食事も終わっていませんし、侍女から行程を聞かなければなりません。自由にしていいですよ」


 雄からの承諾を貰えた。


”にゃぁ”


 返事をしてから、雄と雌の足に我の匂いを付けておく、こうしておけば、弱い”まがい者”は近づいてこないだろう。知能や感覚が低い弱い”まがい者”が寄ってくる可能性があるが、弱い”まがい者”なら、雄の近くに居る人間で対応ができるだろう。


 我は、雄と一緒にこちらに来た時に、力を得た。我は、強者の一角を占めるのだろう。我の本能が、我に告げている。

 外に出られたことで、我は我の力を把握する必要がある。得た力は、使えるようになって、初めて力となるのだ。癒やしの力は、雌で試した。雄は、わかっていたようで、我が力を使おうとすると、雌の膝の上に移動させていた。確かに、雄よりは雌の方が心の疲労が激しかった。悩んでいるとは違う。心が疲弊していたのだ。我も最初はうまくスキルを使うことが出来なかった。


 さて、我が持っている他のスキルを試さなければ、雄と雌を守るためにも、我の能力を把握して置かなければならない。


 まずは、水が流れている場所に行ってみる。綺麗な水だ。我の”感”が、飲めると言っている。雄や雌が用意する水と違うのだろう。喉も乾いていないことから、前足をつける程度に止める。水は、冷たい。前足に付いた水を舐めるが、嫌な感じはしない。雄や雌が飲んでも大丈夫だろう。奴らは、我よりも弱い。食べ物や飲み物に気を使わなければならない。


 濡れた前足に、【スキル:乾燥】を発動させる。

 濡れていた部分が、乾いた。この能力が前からあれば、雨の日でも気持ちよく過ごせただろう。残念だ。


 身体が濡れるという不快感を解消する方法も見つけた。

 川を飛び越えて、森に向かおう。獣の気配がある方向に動いていけばいいだろう。2-3匹だろう?


”ふにゃ”


 気合を入れて、川を飛び越える。昔の我では不可能だったが、今なら、この程度の川なら簡単に飛び越えられる。着地もうまく決まった。


 獣の気配がする方向に進む。

 人間の幼体よりも小さい、二足歩行の獣だ。人間ではない。我の意識が、あれは”魔なる物”だと示している。まずは、【スキル:聖装】を発動。


 ほぉ。人間が使うような、鎧を纏うスキルだな。我の重要な部分だけを守るようになっているのか?


【スキル:飛翔】


 羽が生えるのか?ん?そうか、このスキルを常時使うと、精神力が必要になってくるのだな。


【スキル:飛翔:解除】


 これで、羽が消える。飛ぶのには、練習が必要だな。

 今は、聖装の力を試すべきだな。


【スキル:敏捷】


 これで、移動が早くなるのか、これも、飛翔と同じで練習が必要だな。

 我に気がついていないような”まがい者”には必要ないだろう。解除しておこう。


”にゃ!”


 上部にある枝を目指して一気に駆け上がる。


 我の武器は、爪と噛みつきだが、噛みつきは遠慮したい。爪を使った攻撃を仕掛ける。聖装の力で、身体能力が上がっている。木に登って真上から攻撃を仕掛ける。


 真上までの移動には苦労しなかった。木から木への移動も、難しくは無い。


”ふぅ”


 ”まがい者”は、我には気がついていない。

 枝から飛び降りて、奴らを爪の攻撃を行う。


【スキル:聖装:聖爪】


 聖装のスキルの一つを起動する。任意の爪の部分から、攻撃が可能な爪が出てくる。我が最も得意とする。左前足に爪を生やす。


 枝から一気に”まがい者”に近づく、我の存在に気がつく前に、爪の攻撃を当てる。

 飛び降りた場所の近くに居た、2匹の首を狙った爪は、首を跳ね飛ばす威力だ。何がおこったのか解らない様子のもう1匹の背後に移動して、爪を”心の臓”に突き刺す。そのまま、爪を伸ばす。


【スキル:聖装:聖爪:解除】


”にゃ”


『スキル隠密を取得』


 新しいスキルを取得したようだ。雄が、我のスキルを偽装した時に使った物だ。使い勝手が良いものだ。

 気配を探ると、移動する気配がある。先程の奴らと同じ者のようだ。


 我が近づいているのに気が付かないのか?


【スキル:隠密】


”にゃ!”


 隠密を発動して、正面から”魔なる者”に接近する。我に気が付かない。攻撃を行えば、さすがに気がつくだろうから、背後に回り込んで、首を狙う。


 1匹は、毛色が違うようだ。

 他の2匹よりは強い。先に攻撃を行うべきだった。2匹を倒した時に、我の存在に気がついたようだ。


 今までの”まがい者”は、緑色の肌をしていたが、最後に残った者は、肌の色が今まで”まがい者”よりも”濃い”、黒までは行かないが、深い緑だ。色の判断ができるようになって、世界が変わった。判断基準が増えた。


 さて、対峙していても何も変わらない。


【スキル:聖装:爪の舞】


 放出系のスキルだ。

 我の爪を複製して、飛ばす。舞うように操作ができるようだが、まだ我の技量では飛ばせるだけだ。このスキルは、時間で爪が消滅する。精神力を使うので、連続での使用は難しいが、牽制には使える。


 ”まがい者”の意識が、飛んできた爪に向いた。


【スキル:飛翔】


【スキル:聖装:聖爪】


【スキル:飛翔:解除】


 ”まがい者”の真上に飛翔して、聖爪を発動して、両の前足に爪を装備する。

 飛翔を解除して、”まがい者”の頭上から攻撃を行う。


 両の攻撃はヒットしたが、”まがい者”を倒すには至らない。かなりのダメージを与えられた。


 ”まがい者”は、持っている剣(のような物)で、我を攻撃してくる。背を守っている聖装に掠るが我にはダメージはない。すぐに、”まがい者”の足ものに潜り込んで、足にダメージを与える。その後に、背に爪を突き立てる。


 ”まがい者”が、静かに前に倒れるのを見つめる。


 なんとかなるようだ。

 我もまだまだだ。この程度で満足しては居られない。もう少しだけ、辺りを回ったほうがいいだろう。


”にゃ!”


 あれは、雌が我に貢いでいた食べ物だ。

 そうか、森にできているのだな。雌の土産に持っていこう。


【スキル:収納】


 雄が言っていたスキルを発動したが、失敗した。

 そうか・・・。鎧が邪魔しているのだな。


【スキル:聖装:解除】


 これで、使えるだろう。


【スキル:収納】


 触っている物を持っていけるのだな。

 それで、目の前に出ている物を触れば、取り出せるのだな。


 これは便利だ。入れたものの重さを感じない。先程、倒した、強い”魔なる者”を雄の土産に持っていこう。雌には、食べ物を持っていけばいいだろう。


 ”まがい者”を探そう。少しでも、雄と雌が安心できるように、討伐をしておこう。


『スキル探索を取得』


 スキルを得たようだ。

 これは、便利なスキルだ。精神力もそれほど使わないようだ、効果が切れた時に、使うようにしていれば十分だろう。


 雄と雌を守るために、我は強くなる。


 そろそろ、雄の所に戻るか、あまり心配させるのも、我の本位ではない。


---

 バステトさん目線です。

 事実(?)と異なる部分もあります。


 偽装していないステータスは次のようになります。


大川大地おおかわだいち

ジョブ

 聖獣

称号

 なし

スキル

 聖装

 飛翔(3/10)

 敏捷(3/10)

 隠密(2/10)

 収納(2/10)

 探索(2/10)

 生活魔法


 ”まがい者”は、ゴブリンです。強い個体は、ゴブリンの上位種で、ゴブリン・リーダーです。

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