第八話 おっさん誂う


 ロッセルとイーリスが部屋から出ていったのを確認して、二人は荷物をテーブルに広げる。


「まーさん。本当に、何者ですか?」


「どうして?」


 まーさんがポーチから取り出した物を見て、糸野いとの夕花ゆうかは固まっていた。

 不思議な表情で物品を眺めてから、まーさんに質問をした。


「このスマートウォッチ・・・。最新機種ですよ?それが、二つ?それに、折りたたみ式のソーラパネルに、このケーブル・・・。IT会社の人なのですか?」


「あぁ違う。違う。ただ、知り合いに、そういうのが好きな奴が居て、仕事を流したお礼に貰っただけだ」


「仕事を流した?」


「あぁ仲介したと言ったほうがわかりやすいかな」


「うーん」


「違法な物はないよ」


「え?」


「え?って何?」


「だって、これって脇差ですよね?銃刀法違反ですよね?」


 糸野いとの夕花ゆうかが指差しているのは、たしかに脇差だ。刃渡りは45センチ。知り合いの刀匠に打ってもらった。


「許可を取って”持ち帰る”所だから問題はないよ。持っている正当な理由だよ」


「・・・。だから、何者ですか?」


「神田小川町で、事務所を構える”なんでも屋”だよ」


「・・・」


 糸野いとの夕花ゆうかは、まーさんを睨むが何を言ってもダメそうなだと感じている。

 実際に、まーさんの”職業は?”と聞かれて、ブローカーと言ってもわからないだろうと思っているのだ。そもそも、ブローカーが職業なのかも不安なのだ。だから、”なんでも屋”という言葉を使って説明を端折ったのだ。


 まーさんは、糸野いとの夕花ゆうかが名前を変えたがっていたのを思い出した。


「それで、糸野いとのさん。名前を変えたほうがいいと思うけど、何かある?ナデジダとかオススメだよ」


 自分から提案する形を取ったのは、その方が受け入れやすいと考えたからだ。


「え!嫌ですよ。レーニンの妻の名前ですよね。独裁者の嫁になって死にたくないです」


「えぇいいと思うけどな。それなら、ヒルデガルドとかは?あっアンネローゼとかでもいいとおもうけど?」


「今度は、違った方向の”皇帝”の妻ですよね?本当に、何者ですか?」


「俺の話にしっかりとついてこられるのもすごいと思うけどな。どちらかは知っているかと思ったけど・・・」


「それなら、フレデリカのほうが好きですよ。そうだ!カリンにします。ゲームで使っていたので、丁度いいです」


「へぇユリアンの相手だね。原作を読んでいるの?それとも、昔のアニメ?」


「両方です。父が好きだったのです」


「そうか、お父さんとは友達になれたな・・・」


「えぇパルスの歴史物も好きでしたし、龍の話も読んでいました」


「ほぉそうなると、女好きのダメな天才の奴も読んでいた?」


「買っていました。DVDも持っていました」


「そうか、お父さんとは同じ世代だろうから、話が合ったかもしれないな」


「今のまーさんを見るとお父さんというよりも、近所のガラの悪いお兄さんですよ」


「はぁ?」


「まーさん。絶対に若返っていますよ?全盛期に戻っているのではないですか?」


「そんな、サ○ヤ人みたいな設定はないと思う・・・。本当だな。20歳前後に見えるな」


 おっさんは、ブラックアウトしているスマホの画面で自分の姿を確認した。

 二十歳前後の姿に見える。


 懐で寝ていた。大川大地が起き出した。


『にゃぁ』


 懐から出て伸びをする。

 やっと起き出すようだ。


「そう言えば、大川大地さんの偽装も確認しておかないと・・・。そうだ!カリンさんの名前を変えるから、俺と大川大地のスキルを隠蔽してくれないか?」


 糸野いとの夕花ゆうかは、自分で決めた名前を、まーさんが呼んだに反応が出来なかった。

 いきなり、新しい名前で呼ばれるとは思っていなかったからだ。


「・・・。あっそうだ。私だ!いいですよ」


「うん。名前を変えれば、糸野いとの夕花ゆうかではなく、カリンとなる。髪の毛は、貴族の中に何人か黒髪が居たから、大丈夫とは思うけど、髪色を変えられる方法を考えたほうがいいかもしれないね」


「はい。ありがとうございます。名前を変えてください。これで、ロッセル殿やイーリス殿に名乗れますね」


「あぁ。そうだな。でも、必要がなければ、名前は適当に名乗っておいたほうがいいぞ」


「はい。わかっています」


「それじゃ、偽装と隠蔽を行ってしまおう」


「はい!」


 大川大地は、バステトと名前をつけると決めた。正式名は『バステト・ブバスティス』と、異世界風の名前に決まった。


『にゃぁおん』


「よし、バステト大川大地さんも喜んでいる。世界中を探しても、古代エジプトの女神の名前を持つ猫は、バステトさんだけだ!カリンさん。隠蔽が見抜かれた時のために、まずが偽装を施すよ。その後で、偽装した物を隠蔽してもらえる?」


「あっまーさん。私もお願い出来ますか?」


「いいよ。でも、俺にカリンさんのスキルが見えちゃうよ?」


「うーん。でも、仕方がないですよね。それに、もう私のスキルは見ていますよね?」


「そうだね。聖女様」


「辞めてください!残されたジョブから考えると、まーさんが賢者ですか?」


「違いますよ。バステトさんが賢者ですよ」


「・・・。まーさん?」


「ふふふ。あとで、ロッセルに確認しましょう。ジョブがどうやって決められるのか知らないと、変なものをつけると、偽装を疑われます」


「あっ!ロッセル殿は、まーさんのジョブを見て、偽装を疑ったのですね?」


「そう思うから、彼に聞くのが一番だと思う。他にも、称号やスキルに関しても聞かないとダメだろうな」


「そうですね。それ以外のスキルの偽装と隠蔽を行いましょう」


「ひとまず、偽装と隠蔽を行っておこう。話を聞いて、修正が必要なら修正すればいい」


「あっその方がロッセル殿を・・・」


 二人は、見せるスキルを選択して、それ以外は偽装を施してから、隠蔽を行うことにした。


///糸野いとの夕花ゆうか → カーテローゼ・トリベール

///ジョブ

/// 聖女 → 錬成士 → (隠蔽)

///称号

/// 異世界人エトランゼ → 旅人トリッパー → (隠蔽)

///スキル

/// 錬成

/// 看破(1/10) → 癒術 → (隠蔽)

/// 隠蔽(1/10) → 隠形 → (隠蔽)

/// 収納(1/10) → (空白) → (隠蔽)

/// 魔術 → (隠蔽)

///  聖(1/10) → (空白) → (隠蔽)

///  闇(1/10) → (空白) → (隠蔽)

/// 鑑定(10/10) → (空白) → (隠蔽)

/// 生活魔法


 錬成を残したのは、魔法を使った時に、ごまかせるのではないかということだ。

 まーさんは、カリン糸野夕花が望むように偽装を施した。偽装と隠蔽を行った状態で、スキルが発動するのか確認した。カリンという名前が、愛称にして本名は別にある方がしっくり来るので、カーテローゼという名前を付けた。愛称としてカリンと呼ぶようにする。家名は、まーさんが適当に付けたが、カリンが気に入ったので、そのまま使うことに決まった。


 カリンが、収納から荷物を取り出してみるが、取り出せるので使えると判断した。意識を自分に集中させることで、スキルも鑑定の対象にできると解ったので、スキルを鑑定して何が出来るのかを把握した。


///立花雅史 → マーロン・ダドリ・グレース

///ジョブ

/// 賢者 → 遊び人

///称号

/// 純魔の持ち主 → (?鰉???鰌鰲???鰲?) → (隠蔽)

/// 異世界人エトランゼ → 旅人トリッパー → (隠蔽)

/// 聖獣の保護者 → バステトの主

///スキル

/// 模倣(1/10) → (??鮗鱸) → (隠蔽)

/// 収得(1/10) → (鰲鱈??) → (隠蔽)

/// 偽装(10/10) → (鮫鰥鯒鮗) → (隠蔽)

/// 魔術 → (隠蔽)

///  生命(1/10) → (????) → (隠蔽)

/// 鑑定(10/10) → 鑑定(1/10)

/// 生活魔法

///  清掃ウォッシュ魔法(必須:ウィッシュのポーズ)


「大川大地さん。改、バステトさん。スキルを隠すよ」


『なにゃ!』


「いい子ですね。まずは、偽装をしますから、こっちに来てください」


///大川大地おおかわだいち → バステト・ブバスティス

///ジョブ

/// 聖獣 → 使い魔

///称号

/// 異世界生物エトランゼ → 旅人トリッパー → (隠蔽)

/// 賢者の従魔 → マーロンのペット

///スキル

/// 聖装 → 猫魔術

/// 飛翔(1/10) → 猫ジャンプ

/// 敏捷(1/10) → 猫脚

/// 収納(1/10) → 秘密(ハート) → (隠蔽)

/// 生活魔法 → 肉球


「まーさん。いろいろ、確認したいのですけど・・・」


「なに?遠慮しないで?」


「ふざけています?」


「ふざけていないよ。馬鹿にしているだけだよ」


「わかりました。隠蔽をしていきますね」


「頼むよ」


///カーテローゼ・トリベール

///ジョブ

/// なし

///称号

/// なし

///スキル

/// 錬成

/// 生活魔法


///マーロン・ダドリ・グレース

///ジョブ

/// 遊び人

///称号

/// バステトの飼い主

///スキル

/// 生活魔法

///  清掃ウォッシュ魔法(必須:ウィッシュのポーズ)


///バステト・ブバスティス

///ジョブ

/// 使い魔

///称号

/// マーロンのペット

///スキル

/// 猫魔術

/// 猫ジャンプ

/// 猫脚

/// 肉球


「スッキリしましたね」


「そうだな。この情報で、カードが作られたらいいのだけどな」


「そうですね。それが残っていました」


 二人は、荷物を整理しながら、次にすべきことを考え始めた。

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