第四話 おっさん知る


 おっさんは立ち上がって、居なかったら”恥ずかしい”と思いながら扉を開ける。

 無事ロッセルと侍女が扉の脇で荷物を持って待っていた。侍女は、何やらカートの様な物まで持ってきていた。


「もうよろしいのですか?」


「話は終わった」


 おっさんは二人を中に入れる。


「まずは、ロッセル殿に頼みがある」


「なんでしょうか?」


「謁見の間がどうなっているのか教えて欲しい。それから、俺たち二人の処遇に関してなにか言われているのか?」


 ロッセルはおっさんの質問に眉を動かす。おっさんは、ロッセルの表情を見逃さない。


 しかし、ロッセルが言い淀んだのは、二人にどう伝えて良いのか迷っていたからだ。


「・・・」「・・・」


「ロッセル殿?」


「まーさん。謁見の間は、勇者さまたちの確認が行われている。まーさんとそちらの女性は・・・」


 糸野いとの夕花ゆうかは、ロッセルが秘密の話なので、出来ないと考えたが、おっさんは、ロッセルの表情から、自分と糸野いとの夕花ゆうかに不利益な内容をどう説明していいのか迷っているように受け取った。


「気にしなくていい。教えてくれ」


 おっさんから言われて、ロッセルは隠しても無駄だと判断して正直に話し始める。


「はい。勇者さまたちが・・・」


 罵詈雑言のオンパレード。

 勝手にスキルを見て公表してくれていた。おっさんと糸野いとの夕花ゆうかが、”偽装”したり”隠蔽”したりしていた偽物の状態を、自慢気に聞かせて、自分たちがどれだけ優れているのかを伝えているようだ。

 その上で、劣った奴である、おっさんや糸野いとの夕花ゆうかを物のように扱う提案までしていた。奴隷にして、”魔法やスキルの練習台に使う”とまで言い出したようだが、ロッセルが属している派閥や貴族派閥の者たちが止めに入った。


 おっさんは話を聞いていて、逃げる方向に思考を加速させた。

 いつまでロッセルたちが抑えられるかわからない場所に逗まるのは得策ではないと考えたのだ。


 勇者たちが見たスキルが


ななし

ジョブ

 遊び人

称号

 なし

スキル

 鑑定(10/10)

 清掃ウォッシュ魔法(必須:ウィッシュのポーズ)


糸野いとの夕花ゆうか

ジョブ

 なし

称号

 なし

スキル

 錬成

 鑑定(10/10)


 どうやら大川大地のことは、わからなかったようだ。偽装をしているので、見られても”普通の猫”に見えただろう。知られないのなら、問題がない。鑑定は、視認するか触っていないと発動しない。看破があれば認識することで鑑定が可能になる。


「ありがとう(それじゃ修正しておいたほうがいいな)」


 侍女が二人の前に持ってきたものを置いた。

 ロッセルは二人を見てから説明を始めた。


「まずは貨幣ですが・・・」


 ロッセルが、おっさんたちに通貨の説明を行った。


---

賤貨:1イエーン

鉄貨:10イエーン

銅貨:100イエーン

銀貨:1、000イエーン

金貨:10、000イエーン


白銀ミスリル貨:100万イエーン

白金プラチナ貨:1億イエーン


単位:イエーン

---


 おっさんたちが”円”と言っても通じる。ロッセルが言うには、訛りだと解釈されるらしい。都合がいいことに、”金”が基本になっているのも同じなので、金額とかで意味が通じるのだ。言葉の自動翻訳がいい具合に曖昧になっているのもおっさんたちの助けになっている。


 スキルや魔法に関しての質問をする。


「ロッセル殿。王様が勇者(笑)に渡していたカードには細工がしてあるよな?」


「はい」


「どんな効果だ?」


「その前に、これが彼らに渡したカードの細工がしていない物です。身分証明にもなりますので、持っていてください」


「身分証明?」


「これは、全国民が持っているのか?」


「・・・。いえ、ギルドに登録して発行されます」


「わかった。それじゃ、別にここで作る必要はない。ギルドで登録すればいいのだろう?」


「・・・」


「どうした?」


 ロッセルが持ってきたカードを裏返した。

 紋章を指差したのだ。


「紐付きにしたかったのか?」


 ロッセルがうなずいた。

 まーさんは、紐付きと表現したが、保護している者としての表現が近い可能性がある。


「まーさん。紐付きって何?どういうこと?」


「あとで説明する・・・。かも知れないけど、そうだな。わかりやすく言うと、このカードを持っていると、『この紋章の家と関わりがあります』と思われるということだ」


「え?悪いことなの?学校の校章みたいな物?」


「どちらかというと、ヤ○○の家紋に近いかな」


「え??まーさん。よくわからないよ?」


「このカードを持っていて、俺や君がギルドに登録したら、ギルドはこの紋章の貴族に連絡が行く。それで、いい方向でも、悪い方向でも、問題が発生したら、紋章の家が出てくる。そんな所だろう?」


「はい。庇護下に置く意味合いが強いです」


「ロッセル殿の派閥の長か?」


「今は、家名は控えますが、辺境伯の紋章です。王族には使える紋章がないので、辺境伯の紋章を使っています」


「この紋章は、どの程度の意味を持つ」


「・・・」


「ロッセル殿?」


「辺境伯の領地なら強い意味を持ちますが、敵対している貴族の領地では危険になると思います。しかし、紋章は登録前には表示されていますが、登録後は紋章に魔力を流さなければ表示されません」


「カードは、破棄出来るのか?」


「出来ます」


「複数のカードを持つことは可能なのか?」


「可能です。ギルド毎にカードを持つ場合もあります」


「そういう言い方だと、持たなくてもいいのか?」


「はい。裏の・・・。見ていただいたほうが早いですね」


 ロッセルは胸元からカードを取り出して、おっさんたちの前に提示した。置いた状態では、何も表示されていないカードだ。おっさんは、クレジットカードを思い出していた。大きさ的に同じくらいだと思えた。


「まーさん。持ってみてください」


「いいのか?」


「はい」


 まーさんは持ち上げるが、やはりクレジットカードだ。材質はわからない。プラスティックでは無いのはわかる。木や皮や紙ではない。不思議な手触りだ。おっさんは、糸野いとの夕花ゆうかにも渡して触らせる。


「へぇ鑑定とかと同じ様にすれば魔力が流れるのですね」


「はい。貴殿のおしゃっている方法で間違いではありませんが、後で魔力の使い方をお教えします。そちらが本業ですから・・・」


「それで?」


「そうでした。カードに、貴殿の魔力を流しても何も表示されません。しかし、私の魔力を流せば・・・」


 ロッセルは、カードを受け取って、まーさんたちの前で魔力を流す。

 カードに文字が浮き出してくる。カードの裏を見ると、いくつかの紋章が浮かび出てくる。紋章の中に、辺境伯の紋章もある。


 ロッセルは、紋章に触って魔力を調整していった。最初、紋章が3ほど表示されていたのが、3つが消えて新たに2つの紋章が表示された。


「ほぉ。任意で切り替えられるのだな」


「はい。まーさんの言う通りに、表にはステータスが表示されますが、こちらも同じです。ただし、数値を変更したり、無いスキルを表示させたり、ジョブを変更する方法はありません。偽装があれば」「おっと!」


 まーさんが、カップを取ろうとして手が滑った。紅茶がテーブルの上に広がる。


「すまん。手が滑った」


 ロッセルは、まーさんを見てから、言葉を続けた。


「大丈夫です。すぐに変わりを持ってきます」


「悪いな。少しだけ疲れた。休憩したいが、時間は大丈夫か?」


「そうですね。もうしわけない。気が付きませんでした。この部屋を使ってください。1時間くらい休憩しましょう」


「助かる。奥の部屋も使っていいのか?」


「はい。大丈夫です」


 テーブルを拭いて、二人は部屋を出ていった。


 二人が部屋を出ていったのを確認して、まーさんは立ち上がった。

 伸びをするようにしてから、肩を叩いた。


「疲れたな。糸野さんも疲れたでしょ。奥の部屋を使っていいから休んでよ。横になって目を瞑っているだけでも疲れは取れるよ」


「まーさん。さっきのカップはわざと、手が滑ったのですよね?」


「ん?なんでそう思う?」


「ロッセルさんが、何か言おうとしたときに、まーさんが話を切った様に感じたから・・・」


「うーん。半分正解かな。ロッセルは、俺と糸野さんの反応を確かめようとしていたの。だから、ごまかした」


「え?」


「彼が、”偽装のスキル”と言ったときに、糸野さん反応したでしょ?」


「え?反応?」


「うん。俺からは見えなかったけど、目線で、俺の方を見ようとしたでしょ?」


「・・・。はい」


「彼は、俺と糸野さんのスキルを疑っているよ。だから、偽装の話をして反応を確かめた」


「それじゃ・・・」


「カードの話は、嘘でも無いけど、本当の話でもないって感じかな」


「??」


「カードの紋章の表示を切り替えられるのは本当だけど、魔力だけで切り替えが出来るのは嘘じゃないけど、作業が足りないって所だと思うよ」


「・・・。わからないですよ?」


「ん。気にしなくてもいいと思うよ。おっさんは久しぶりに頭を使って、疲れたから、少しだけ寝るよ。大川大地も寝ちゃっているし、糸野さんも休んできて」


「・・・。はい」


 糸野いとの夕花ゆうかが奥の部屋に入っていって、鍵をかけたのを確認してから、おっさんはソファーに身体を投げ出して横になる。

 大川大地がおっさんの胸の上で丸くなる。頭を撫でながら、おっさんは、これからのことを考えていた。


(さて、鬼が出るか仏が出るか・・・)

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