第282話 眷属と傭兵

 セルリスとシアに続いて、ガルヴも眷属に果敢な攻撃を加え始めた。

「ガウガウ!」

 眷属は強い。だが、セルリスもシアもガルヴも優位に戦闘を推移させる。

 魅了をかけられた人間には危害を加えずに、全ての物理攻撃を躱していく。


 シアとセルリスは魔法攻撃も剣ではじき、的確に眷属にだけ攻撃を加えている。

 ガルヴの身のこなしも素晴らしい。


 一流の戦士の斬撃や矢の攻撃を素早く見事に躱していく。

 ガルヴが眷属や魅了をかけられた者からの攻撃を食らう姿が想像できないほどだ。

 真祖や強化されたハイロード、ロードとの戦いで、セリルスもシアもガルヴも成長したのだろう。


 まる若い頃の俺たちを見ているみたいだった。

 俺に攻撃を仕掛けようとしていた者たちも、そんなセルリスたちに目標を変える。


「邪魔はさせないよ」


 俺は魅了された者六人だけを魔法で拘束していく。魔力で作った縄で縛り動きを封じた。

 猿ぐつわも忘れてはいけない。

 支配しているヴァンパイアに舌をかみ切るよう命じられるかも知れないからだ。

 魅了された者たちを地面に転がすと、俺はただの人間たちに改めて声をかける。


「で、改めて聞こう。お前らは自分がヴァンパイアの手先だということを知っているのか?」

「だから、王都には神の加護があるんだ! ヴァンパイアなんて――」


 人間たちの一人は叫んでいた途中で固まった。

 ちょうどそのとき、シアとセルリス、ガルヴによって眷属の一体が倒された。


「あいつがやられるなんて! 凄腕の戦士だぞ!」


 ただの人間四人のうちの一人が叫ぶ。

 眷属が倒されるなんて全く信じていなかった様子だ。

 道理で、シアたちが眷属と戦い始めても、慌てず俺と会話しているはずだ。

 経験の浅い少女二人と犬に、眷属たち五体が倒されるわけがないと思っていたのだろう。


「えっ。灰に? え? どういうことだ?」


 さらに別の一人が、驚きの声を上げている。

 眷属は倒されると灰になる。その光景を見て異常事態だと気付いたのだろう。


「あ、あいつは、一体どうしたんだ?」

 狼狽した様子で、俺に尋ねてきた。


「お前らだって、対ヴァンパイアの基礎知識ぐらいあるんだろう?」

「ああ、そりゃあるが……」


 ただの人間たちが冒険者なのか傭兵なのか、それとも全く別の職業の者なのかはわからない。

 だが、ある程度の力量のある戦闘職は基礎的な対ヴァンパイアの知識はあるのが普通だ。


「なら、眷属は殺されると灰になる。それは知っているはずだ」

「…………」


 人間たちはショックを受けているようだ。

 友達だったのかも知れない。だから念のために言う。


「あいつはヴァンパイアに眷属されていた。だから殺すしかないんだ」

「眷属? そんな馬鹿な」

 目で見た今も信じられないようだ。


「殺されてすぐ灰になったのを見ただろう?」

 俺が改めてそういうと、人間たちのますます狼狽する。


「だ、だが……さっきまで俺たちは普通に会話をしていたんだ」

「昼飯がまずいって、軽口を叩いていたんだ。それなのに……」

 そのときまた、シアたちが眷属を倒した。そいつもすぐに灰になる。


「高位のヴァンパイアに眷属にされると、命令次第で人と見分けをつけにくくなるものだ」

「…………」


 俺は黙りこくった人間たちのなかの魔導士に声をかけた。


「魔力探査が使えるならやってみろ。あいつらが眷属だとわかるはずだ」

「……魔力探査は使えるが、俺は触れないと行使できない」

「…………そうか」


 一般的な魔導士は、そういうものかも知れない。

 ケーテやルッチラなど、超優秀な魔導士とばかり行動していたから忘れていた。

 遠距離からの魔力探査が使えないなら、これ以上証拠を提出するのはすぐには難しい。


「まあ、いい。で、降伏するか? それともヴァンパイアの手先として、俺と戦うか? 俺はどっちでもいいぞ」

「俺は――」


 人間たちの一人が何かを言おうとするのを遮るように、リーダーが言う。


「戯れ言を! みんなダマされるな! あいつの方こそヴァンパイアに違いない!」

「おいおい。さっきまで神の加護があるからヴァンパイアはいないって言っていただろう?」

「だまれ! おい、お前ら大使館に侵入した大罪人を殺すぞ!」

 リーダーが激昂して叫ぶ。


「いや、落ち着けよ。あいつの言っていることが嘘とは思えん」

「お前、裏切るのか?」

「何をそんなに興奮しているんだ? 俺たちは傭兵だ。雇い主がヴァンパイアなら、俺たちに嘘をついていたことになる」

 どうやら、人間たちは冒険者ではなく傭兵らしい。


「ああ、そうだ。先に裏切ったのは雇い主の方だろう。俺たちが離反するのは当然の権利だ」


 俺は傭兵の文化には詳しくないが、そういう物らしい。

 確かに騙されたら裏切り可能でなければ、傭兵は使い捨てされやすくなる。

 それが騙されておとりにされることを防ぐための抑止力になるのだろう。


「で、降伏するってことでいいか? その方が俺としても手間がすくなくていいんだが」

 俺は四人の傭兵たちに改めて呼びかけてみた。

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