第231話

 ケーテ、セルリス、シア、ニアの、ヴァンパイアロードに対する攻撃は激しい。

 俺の放った極限結氷タルミナス・アイシクルの魔法で半分凍っているロードでは太刀打ちできない。

 次々と狩られていく。


 ニアも未熟ながらも、セルリスやシアをサポートして時折とどめも刺している。

 さっきまで尻尾を股に挟んでいたガルヴもロードに牙を突き立てている。


 俺はサポートに徹する。

 ケーテやセルリスたちの背後から襲い掛かろうとするロードを魔法の矢マジック・アローで仕留めていく。

 威力を高めた俺の魔法の矢はロードの頭を軽々と吹き飛ばす。

 霧に変化しようとしても許さない。魔神王の剣で斬り裂いてとどめを刺した。


「まだ出てくるのか……」


 魔法陣からは続々とヴァンパイアが出現し続けている。

 出現したヴァンパイアどもは、激しい戦闘が行われているのをみて一瞬驚く。

 その隙を俺は逃さない。魔法の矢を使って吹き飛ばしていく。


「ぼくも! 頑張ります!」

 ルッチラも魔力弾マジック・バレットを撃ち始めた。

 俺の手法を見ていたようで、出現した直後のヴァンパイアを狙っている。

 ルッチラの魔力弾の威力はかなり高い。アークヴァンパイアならば、一撃で倒せるようだ。


 ロードはルッチラの一撃では倒せない。だが、ひるんで大きな隙ができる。

「りゃあああああ!」「たああああ」「ふん!」

 その隙を見逃すシア、ニア、セルリスではない。的確に首をはねていく。



 すでに最初に俺に凍らされたヴァンパイアはすべて倒されている。

 それでも、ひるまずにガルヴは戦う。爪で押さえつけ牙を突き立てる。

 ケーテは少し上空に位置取って、俯瞰してみているようだ。

 そして、魔法陣の端に出現したヴァンパイアを爪で切り裂き、風魔法で切り刻む。


 ヴァンパイアどもの判断も早い。

 ガルヴに抑えられ、変化できないヴァンパイア以外逃亡を図り始めた。

 被害を抑えるためにはそれが正しい。


「変化するぞ。一匹も逃がすな!」


 俺は注意を促すために、もう一度叫んだ。


 ヴァンパイアどもは、ルッチラの魔力弾で頭を吹き飛ばされながらも、霧に変化しようとする。

 ケーテの爪で胴体に大穴をあけられながらも、小さなコウモリやカエルに変化しようとする。


 変化が完了してしまうと厄介だ。

 言うまでもなく、霧に変化されると面倒だ。普通の剣が効かなくなる。

 コウモリ一匹も見逃せない。なのにコウモリもカエルも数が多く大きさも小さいのだ。


「コケコッコオオオオオオオオオ!」


 俺の懐に入っていたゲルベルガさまが高らかに咆哮した。

 逃亡を図っていた数匹のヴァンパイアが一瞬で灰になる。


「ゲルベルガさま、助かった」

「ここ」


 やり切ったという表情で、ゲルベルガさまは満足げに鳴く。

 そして、俺の懐から頭だけ出して、周囲をきょろきょろとみる。

 変化しかけたヴァンパイアを見かけるたびに鳴いてくれる。


 変化が可能な上級ヴァンパイアとの戦いではゲルベルガさまがいれば大きく有利になる。


 俺は全員の後方に立つ。戦いながら皆が窮地に陥っていないか様子をしっかり観察する。


 最初から強かったケーテ以外は、初めてあったころに比べて、急速に成長しているようだ。

 そして、ケーテも急速ではないが、着実に強くなっていると思う。

 ゲルベルガさまの鳴き声も、出会ったばかりの頃より範囲や威力が上がっている気がする。

 頼もしい限りである。



 味方全員の討伐したヴァンパイアの総数が五十匹を超えたとき。

 強大な昏き気を放つヴァンパイアが出現した。


 出現直後の隙を狙ったルッチラの魔力弾が、そのヴァンパイアの顔面にあたり炸裂する。


「これは、どういうことだ?」

 何事もなかったかのように、そのヴァンパイアは周囲を睨みつける。


「魔力弾が完全に入ったのに……」

「あいつは俺に任せろ。ルッチラは雑魚を頼む」

「はい、わかりました!」


 ルッチラは一瞬呆然としたが、俺の指示を聞いて意識をすぐに切り替える。


 強大なヴァンパイア以降も、続々と新たにヴァンパイアが出現してきている。

 そのヴァンパイアたちはシアたちやケーテ、ガルヴが対応する。

 ルッチラは出現直後の奇襲と、前衛への支援を担当してくれている。


 俺は味方を横目で見ながら、強大なヴァンパイアに話しかけた。


「お前らの作戦が失敗したようで何よりだ」

 あえて煽るように笑顔で言ったのに、ヴァンパイアは俺の方を見ない。

 怪訝な表情をしたまま、周囲を観察している。

 依然として激しい戦闘が継続中だ。戦況はこちら側の圧倒的な有利で推移している。


「なぜ、壊滅していない? そもそもここはどこだ?」

「あんな間抜けな作戦で壊滅するわけねーだろ」

「貴様。説明すれば、命だけは助けてやろう」


 どうやら俺から情報を引き出そうとしているらしい。

 情報を引き出そうとしたことは何度もあるが、引き出される側になったのは初めてだ。

 新鮮な気分になる。


「立場をわきまえろ。コウモリ野郎。こっちの方が圧倒的に有利なんだ。いうわけないだろ」

「ふむ。ならば、お前らを不利にしてやればいいのだな?」


 その言葉と同時にヴァンパイアは俺に向かって襲い掛かってきた。

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