第226話

 魔道具から音が鳴った瞬間、ニア、ルッチラ、ガルヴは一瞬で身構えた。

 シア、セルリス、ケーテは、何事もないかのように平然と作業を続けながら横目で俺を見た。

 相手に、こちらが気づいていないと思わせるためだ。


 確かに、音が鳴っただけでは、何の音かはダークレイスにはわかるまい。

 他の屋敷を襲った際の情報を、敵が得ていなければだが。


「入っていてくれ」

「ここ」


 俺はルッチラの肩に乗っていたゲルベルガさまを懐に入れる。

 そして魔力探知マジック・サーチ魔力探査マジック・エクスプロレーションの魔法を同時に作動する。

『結構いるな』


 俺と同時に魔力探知と魔力探査を行使したケーテがうなずく。

『そうであるな。それにダークレイスだけではないのが面倒である』


 ダークレイスが十体、屋敷を取り囲むようにいた。

 さらにかなり離れた場所に昏き者どもが三体いる。そっちはレッサーヴァンパイアだ。

 とりあえず、レッサーヴァンパイアは戦力的に脅威ではない。

 ダークレイスが本当に偵察を遂行できるかの検分のために遣わされているのだろう。


 それ以外の敵が見つからないのが幸いだ。


 それを踏まえて、方針を考える。


『ケーテ。ルッチラ。屋敷を守りながら、強化の続きをそのまま頼む』

『わかったのである』『わかりました』

『シア、セルリス、レッサーヴァンパイアを頼む。場所は西へ約三百歩のところだ』

『了解であります!』


 念話での発話ができるシアが返答してくれる。

 セルリスが無言でうなずくと、二人で走り始めた。

 言わなくてもシアもセルリスも気配を消し、物陰に隠れながら進んでいく。


『ニアとガルヴは俺の後ろにいなさい。俺が攻撃を開始するまで、じっと待つように』

「がう」

 ニアは無言でうなずき、ガルヴは一声吠えた。


 そして、俺は息をひそめる。

 ダークレイスを討伐するのはたやすい。だが、レッサーヴァンパイアを逃がしたくない。

 敵に情報を渡すことになるからだ。


 だから、シアたちがレッサーヴァンパイアに切り込むまで待機する。

 シアたちは素早く静かに間合いを詰めていく。そして一気に斬りかかる。


「ぎゃあああ!」

 レッサーヴァンパイアの悲鳴があがった。

 ダークレイスの意識が遠くの悲鳴に向いたことだろう。


 俺はダークレイスを一気に倒しにかかる。場所はすでに把握済みだ。

 一体も逃がさない。


 最も近くにいたダークレイスに向けて右手でドレインタッチを発動させた。


「KI……」

 何も見えない空間から変な叫び声が上がる。そして一瞬だけ姿がぼんやり見えた後消滅する。

 ダークレイスの魔素を、生命維持できないほど吸収したのだ。

 まだ吸収していなかった魔素が大気中に散っていく。散った魔素の量は一体の約半分。


「半分吸えば倒せるのか」


 思ったよりもあっさり倒せたような気になる。

 だが、よく考えれば、人も血の半分を失えば死ぬのだ。そう考えれば当たり前かもしれない。

 ダークレイス退治にドレインタッチは相性が良いようだ。

 ということは、魔神王の剣も相性がいいだろう。


「あと九!」


 俺は逃げようとし始めたダークレイスを次々と倒していく。

 ダークレイスは遅い魔物ではないが、特別素早い魔物でもない。

 俺やガルヴに比べたら、止まっているようなものだ。


「ガウ! ガウガウ!」


 ガルヴもダークレイスにとびかかって仕留めてくれる。

 俺が五体、ガルヴが二体、ダークレイスを倒すと、残り三体がうすぼんやりと光った。

 ダークレイスは魔法攻撃を放ちながら、逃げることにしたのだろう。よい判断ではある。


「魔法に気をつけろ!」

「ガウ!」「はい!」


 うすぼんやりと見えるダークレイスは全力で遠ざかっている。

 そうしながら、火球ファイアーボールを放ってきた。なかなかの威力だ。


 俺は火球をかわしてダークレイスとの間合いを詰める。

 俺の動きに合わせて、ガルヴも別のダークレイスに襲い掛かった。


 だが、俺の右手がダークレイスを捉え、倒すと同時に、

「ぎゃうん!」

 ガルヴが悲鳴を上げた。


 一体に爪と牙を突きたて倒した瞬間に、残った一体からの火球を食らいかけたのだ。

 攻撃に専念しすぎて、防御がおろそかになるのは危険だ。

 ガルヴは子狼なので戦闘技術がまだ拙いのだ。


「ガルヴ、無理をするな」

「がう!」


 ガルヴにはほとんどダメージがなさそうだ。素早くダークレイスから距離をとる。

 火球をまともに食らわなかったことに加えて、毛皮の火炎耐性も高いのだろう。


「やあああああ!」

 一瞬だけ、姿がうすぼんやりと見えたのを逃さず、ニアが素早くダークレイスに躍りかかる。

 俺が魔法をかけた剣でダークレイスを斬りさいた。


「KIIIIII」

「やあああ!」

 ダークレイスは悲鳴を上げ、姿を消して逃げようとする。

 だが、ニアは手を緩めない。姿が消えたあとも、剣をふり続ける。


「……捉えてるな」

 偶然なのだろうか。ニアの斬撃はすべてではないが八割がたダークレイスを捉えている。

 ニアに何度も斬られたダークレイスはついに消滅した。

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