第192話

 俺は自分の夜ご飯を食べながら、ご飯を食べるタマとガルヴの様子を見る。


「わふかふかふ」

「がふががふがふがふ」

 結構勢いよく食べていた。タマとガルヴは俺の足元の床で食べている。

 一方、ゲルベルガさまはテーブルの上で食べている。

 神ということもあって、床で食べさせるのは気が引けるのだ。

 体が小さいからテーブルのうえでも邪魔にならないというのもある。


「こっこっこ」

 ゲルベルガさまも機嫌よく食べていた。

 ゲルベルガさまのご飯は、葉菜類やとうもろこし、肉などである。

 ガルヴのご飯は肉中心だ。タマはそれに加えて、イモを混ぜてある。


 ちなみに、今日もゲルベルガさま、タマ、ガルヴの順番で食べ始めていた。


 俺は食事中のタマの背中と肋骨辺りを撫でた。

「わふがふがふ」

 タマはうなることもなく、食べつづけている。


「だいぶ肉ついたかな?」

「タマも少し太ってきたので安心なのだ」


 フィリーが嬉しそうに言う。

 タマは痩せていたからみんなが心配していたのだ。


「タマ、足りなかったらおかわりもあるぞ」

「わふ」


 タマが物足りなそうにしていると、ガルヴが自分の餌を分けてしまうのだ。

 ガルヴもまだ子狼なので、いっぱい食べる必要がある。


「ガルヴもご飯いっぱい食べろよ。おかわりもあるぞ」

 食事中のガルヴのことも撫でておいた。


 少ししてタマとガルヴは食べ終わる。

 タマとガルヴも最初に与えた量で、満足したようだ。


「水を入れてあげよう」

 俺が立ち上がろうとすると、ミルカが立ち上がる。


「ロックさんは座っていてほしいんだ! 水はおれが入れてくるぞ!」

 ミルカは水入れからタマとガルヴの器に水を入れる。

 タマもガルヴは美味しそうに水を飲んでいた。


「こっここ」

 食べ終わったゲルベルガさまは、テーブルの上を歩いて俺のひざの上にぴょんと乗る。


「ゲルベルガさまは、おかわりしなくていいのか?」

「こぅ」

 大丈夫らしい。

 ゲルベルガさまは、もぞもぞと俺の服の中に潜り込んできた。


「ゲルベルガさま、どうしたんだ?」

「ゲルベルガさまは、ロックさんに甘えたいんですよ」

 ルッチラがそんなことを言う。


「そうなのか」

 俺はゲルベルガさまをそっと撫でる。


「こここ」

 ゲルベルガさまは、気持ちよさそうに鳴いていた。


 俺たちが夜ご飯を食べ終わり後片付けを終えたころ、エリックとゴランがやってきた。


「エリックもゴランも、夜ご飯食べたか? まだだったら用意するぞ」

「おお、ありがたい。もらおう!」

「まかせておくれ!」


 ゴランがそういうと、俺が立ち上がる前にミルカが走っていった。


「エリックはどうする?」

「気持ちはありがたいが、やめておこう。レフィがな。怒るからな」

「あぁ。そういえば、そうだな」


 エリックの妻、王妃レフィはエリックの健康を心配しているのだ。

 王宮と、俺の屋敷で夕ご飯を二回食べるのはさすがに食べすぎである。

 俺も、レフィからエリックにやめさせるように言われていた。


「では、エリックさんにはお茶を入れますね。皆さんの分も」

 ニアとルッチラが立ち上がってお茶を入れに行く。


「ニア、ルッチラ、ありがとう」

「いえいえー」

「お気になさらず」

「ここぅ」


 俺の懐に入ったままのゲルベルガさまが顔だけ出した。

 それをみてエリックが笑顔になる。


「ゲルベルガさま、楽しそうなところにいますね」

「こ」


 ゲルベルガさまは心なしかどや顔をしていた。


「エリック、王都の後始末はどうなった?」

「ああ、王都各所の点検を近衛騎士団総出で今日の午後済ませておいた」

「仕事が早いな」

「ゆっくりはできないことだからな」


 実は俺たちが昏き者どもの本拠地をつぶした日。王都にも襲撃があったのだ。

 水竜の集落への襲撃の規模に比べたら、小規模なものだ。

 一体のヴァンパイアロードに率いられたレッサーとアークの群れだ。

 総数四十匹ほどだったという。


 ゴランが言う。

「狼の獣人族を騎士として召し抱えていなかったら、被害がどれだけ出たかわからねーな」

「ああ、エリックの施策が功を奏したな。さすがだ」


 俺が褒めるとエリックは首をゆっくりと振った。

「むしろ近衛にロックとフィリーの作ってくれた魔道具を配っておいたのが大きいだろう」

 そして、エリックは俺とフィリーに頭を下げる。


「ロック。フィリー。非常に助かった。王国を代表してお礼を言う」

「俺は大したことはしていない。大体フィリーの手柄だ」

「と、とんでもないことでございます」

「わふ」


 とても恐縮していた。フィリーは上級貴族としての教育を受けているので仕方がない。

 タマも主であるフィリーの緊張が伝わったのか緊張している。


 俺はエリックに尋ねた。

「アークとロードは王都の神の加護を魔道具で突破したんだよな」

「そのとおりだ」

「数を揃えてきやがったか。面倒だな」

「もちろん、それも看過できない。だが俺が最も危惧しているのは、それとは別のことだ」


 そう言ったエリックは険しい表情をしていた。

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