第168話

 俺が魔道具を調べていると、後ろからゴランが覗き込んできた。


「ロック。それが結界破りの魔道具ってやつか?」

「かもしれない」

「どういう仕組みかわからねーか?」

「正直わからない。あとで、フィリーに聞いてみよう」


 エリックも俺の手元を覗き込む。


「これの素材は愚者の石だよな」

「そう見えるな……」

 やはり、昏き者どもの至高の王一派は愚者の石の生成に成功したようだ。


 軽く死骸の調査を済ませると、結界の点検をする。

 壊れているところなどがないか念入りに時間をかけて点検をした。


 異常がないことを確認してから、俺は水竜の宮殿に移動する。

 リーアや侍従長モーリスたちと、今後について話し合うためだ。


「がうー」

 ガルヴはずっと俺の後をついて来ている。

 少し眠そうだ。


「ガルヴ、今日は偉かったな」

「がう」

 俺は応接室の椅子に座って、いっぱいガルヴを撫でてやった。


「もう遅いですし、是非泊っていってください」

 侍従長モーリスが勧めてくれる。


 転移魔法陣があるとはいえ、水竜の宮殿はとにかく広い。

 魔法陣のある建物に行くだけで、徒歩五分はかかる。

 それに、再度襲撃があるかもしれない。


「リーアもそれがいいとおもうの!」

 リーアも俺の腕をぎゅっとつかんでそんなことを言う。


「そうですね。そうさせてもらおうかな」

「えへへ」

 リーアは少し嬉しそうだ。


「がぁぁふ」

 ガルヴが大きく口を開けて、あくびをする。


「いま我らの総力を挙げて、調べているので、ラックさんはお休みになってください」

「シアさんたちは、もう帰っちゃったのよ。ラックは泊まっていって」

「そうなのか」


 俺が結界を見回っている間に俺の屋敷に戻ったらしい。

 真夜中、眠っているところを起こされたのだ。

 みんな眠いのだろう。俺も眠い。


「じゃあ、お言葉に甘えて……」


 俺はガルヴと一緒に水竜の宮殿に用意された部屋に向かう。

 部屋はやはり大きい。薄暗い灯りがいくつか並んでいる。

 何があるかはわかるが、まぶしくはない。すぐ眠れるだろう。

 そこにベッドがいくつか並んでいた。前回来たときよりもベッドが増えている。


「モーリスさんが、俺たちのためにベッド用意してくれたんだな」

「がう」


 前回、みんながこの部屋を使うと言ったので、準備してくれたのだろう。

 今夜は、みな屋敷に帰ったが、いつか使うことはあるだろう。


「ロック。見回りご苦労」

「おお、エリックとゴランも、この部屋で寝てから行くのか?」

「いまから王宮に帰るのも面倒だしな」

「エリックは地下通路を使えるから、俺よりはまだましだろう」


 俺の屋敷で眠っていってもいい。

 だが、どうせ自宅に帰らないならここで眠っていっても大差はない。


 広大な部屋なのに、エリックとゴランは隣同士のベッドに入っている。

 ちなみに俺のベッドのすぐ近くだ。


「がうがう」

 ガルヴは俺のベッドに入って、背中をこすりつけまくっている。

 ガルヴは馬ぐらい大きいが、ベッドもとても大きいので問題ない。


「ガルヴ、少しどいてくれ」

「がう!」

 ガルヴを少しどかして、俺もベッドに入る。

 俺が横になると、お腹の上にガルヴが顎を乗せてきた。


「ガルヴは今日はがんばったもんな」

「がう」


 尻尾をビュンビュン振っている。


「お、ガルヴ活躍したのか?」

 ゴランが聞いてきたので、ガルヴの活躍を語ることにした。

 ヴァンパイアどもの戦術を教える意味もある。


「昏竜を相手にしているとな、ヴァンパイアどもが霧になって、俺の真横とか真後ろに突然現れるんだよ」

「それは面倒だな」

「そのときにガルヴがヴァンパイアどもの首に食らいついてくれてな」

「おお、お手柄ではないか」

「しかも、ガルヴに噛まれると霧に変化できないらしい」

「そうなのか? 狼の獣人が、ヴァンパイアどもの攻撃に強いのと同じかもしれねーな」


 俺はガルヴの功績を讃えながら、お腹を撫でまくった。


「それにしても、昏竜と連携されたら、厄介ってもんじゃねーな」

「俺たちならまだしも、近衛だと厳しいかもしれない」


 そんなことを話していると、ドルゴとケーテまで来た。

 なぜかリーアと知らない品のいい男まで一緒だった。

 俺たちと同年齢に見える。


「どうしました?」

「我らもここで寝ようと思いまして」

「ロックの屋敷に戻るのも面倒であるからな!」


 ドルゴとケーテはそんなことを言う。


「あの、そちらの方は?」

「モーリスでございます」


 侍従長モーリスも人型になれたようだ。


「人型になれるということは、モーリスさんも王族だったのですか?」

「先王であるリーア殿下の母の弟。殿下の叔父にあたります」

「そうでしたか」


 ケーテはリーアと一緒に近くのベッドに入る。


「リーアも、ケーテ姉さまとここでお泊りするの」

「リーアとケーテはお友達であるからな!」


 リーアもケーテも嬉しそうだ。何よりである。

 ドルゴもベッドに入る。モーリスはドルゴの隣のベッドに入った。

 モーリスもここで眠っていくらしい。

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