第165話

 昏竜イビルドラゴンの斬り口から噴き出る血を浴びながら、俺は地面に着地する。

 そして、水竜たちをみて微笑む。


「これぐらいでは死にませんよ」

「さすがです!」

「ありがとうございます!」


 水竜たちが嬉しそうな声をあげた。


 俺と水竜の会話を隙ととらえたのだろう。

 俺の真横からヴァンパイアロードがとびかかってきた。


「ガウ!」

 ヴァンパイアロードの首にガルヴが食らいつく。


「こ、この犬めがっ!」

 慌てた様子で、ヴァンパイアロードは変化して逃げようとする。

 だが、出来ないようだ。


「な、なぜだ……なぜ……」

 そのまま、ヴァンパイアロードは灰となる。


「でかしたガルヴ」

「がう!」


 ガルヴに噛みつかれると、ヴァンパイアは変化できないのかもしれない。


「ブレスがやばいから、あまり離れるなよ」

「がうがう!」


 ガルヴに怯えは見られない。

 水竜たちと仲良く遊んでいるうちに、度胸がついたのかもしれない。


 その時、敵の後方にいたヴァンパイアが声を上げた。

「人間がなぜこのような場所にいる!」


 ロード、いやハイロードだろう。

 後ろにいたということは、指揮官なのかもしれない。


「汚らわしいお前らの方が、ここには場違いだろうが」

「だまれ、下等生物が!」

「お前がこの雑魚どものリーダーか?」

「我らの精鋭を雑魚呼ばわりだと! 後悔させてやろう」


 また激しい攻撃が始まった。

 水竜たちも水ブレスなどで反撃をする。水竜の精鋭だけあって、かなり強い。


 昏竜のブレスも強力だ。

 まともに食らえば大ダメージは免れない。


 それに比べれば、ヴァンパイアロードやハイロードの火力も大したことはない。

 かといって恐ろしくないわけではない。


 昏竜は生命力に自信があるためか、こちらの攻撃をまともに受けがちだ。

 だが、昏竜に比べて、ヴァンパイアどもには攻撃があたらない。

 素早いだけでなく、霧やコウモリに変化する。

 そうしておいて、突然真後ろや真横などに出現するのだ。

 昏竜の攻撃をしのいでいるときに、それをされると非常に厄介だ。



「全員、無理はするな」

「了解しました!」


 俺は水竜たちに声をかけながら、全体を見る。

 さすがにモーリスは強い。一頭で二頭の昏竜を相手にしていた。


 そして、俺は押されがちなところに魔力弾を撃ち込む。

 これにより、戦況は優勢に傾いた。


 このまま順調に推移すれば、勝てるだろう。

 そうみんなが思い始めて、安心しかけたころ。


「GAAALAAAAAA」

 巨大な昏竜が姿を現した。侍従長モーリスよりもかなり大きい。

 それどころか、竜形態のドルゴよりも大きいぐらいだ。 


「なっ」

「そんな……」

 水竜たちから悲鳴に似た声が上がる。


「ははははは! 愚か者どもめが! 後悔しながら死ぬがよい」

 ハイロードが嬉しそうに叫ぶ。


「それがお前らの切り札か?」

「ふん。そう思うか?」


 ハイロードは含みのある笑みを見せる。

 まだ、切り札を残していそうだ。


 とはいえ、今は目の前の巨大な昏竜を倒すほかない。

 ドルゴより大きいとなると、俺も手を抜けない。


 俺は巨大昏竜目掛けて、駆け出そうとして一歩踏み出す。

 その瞬間、巨大昏竜がブレスを吐いた。


 火炎でもない。風でも水でも氷でもない。

 黒っぽい泥のようなブレスだ。

 何かはわからない。だが、とても嫌な予感がする。


「よけろ!」

 俺は大声で叫ぶと、魔法障壁を展開する。

 うまくかわせた水竜たちはほとんどいない。

 俺は水竜たちの前にも障壁を張った。


 泥に触れた樹木が一瞬で枯れていく。


「毒のブレスか!」


 障壁に毒ブレスがぶつかった瞬間、強い衝撃が走る。


 ――ギシギシキシ

 障壁から嫌な軋むような音がする。

 毒だけではない。強い魔力が込められている。


 ――ピシピシ


 障壁にひびが入り始める。慌てて内側にもう一枚張る。

 その瞬間障壁が砕けた。

 俺の障壁を砕くとは大した威力のブレスだ。


 攻撃する余裕がない。全力で障壁を維持する。

 巨大昏竜のブレスはまだ終わらない。


「ずいぶんと息が長いな!」

 毒ブレスを漏らすわけにはいかない。

 集落に入り込めば、大きな被害が出かねない。


 その時、真横に嫌な気配が漂う。

「死ねや!」

 障壁に専念している俺の真横に、ヴァンパイアロードが出現した。

 剣で襲いかかってくる。


「ガウッ!」

 ロードの剣を持つ右手にガルヴが噛みついた。


「き、貴様!」

 ヴァンパイアロードは左手で短剣を振り上げた。

 俺はガルヴを短剣から守るために障壁で守ろうとした。


 同時に大きな音と悲鳴に似た声が上がる。

「ぎゃ……がっ……」

「随分と、厄介なことになってますね」


 ヴァンパイアロードの腹にドルゴの拳が突き刺さっていた。

 ドルゴは人の姿のままだ。


「助かりました」

「ラックさんなら、お一人でもなんとかしたでしょう?」

「でも、本当に助かりましたよ」

「それなら、よかった」


 そして、ドルゴは巨大な昏竜を見上げる。


「ふむ。この状況なら竜形態の方がよさそうですね」

 そういうと、ドルゴは竜形態へと変化した。

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