第156話

 ケーテがどや顔で言う。


「リーア、我がラックと友達になって、その縁で水竜の防備を頼んだのであるぞ!」

「陛下。リーア王女殿下とお呼びください」


 すかさずドルゴがケーテを窘める。

 ケーテの口調から言って、普段は仲がいいのかもしれない。


「す、すまぬ」

 ケーテは頭を下げる。

 だが、リーアはよくわかってなさそうだ。微笑みながら首をかしげていた。


 ケーテは風竜王だが、リーアも水竜の王太女なのだ。

 人族で言うところの、他国の王族同士みたいなものなのだろう。


 俺たちの見ている前ではそれなりの作法がいるに違いない。

 特に俺たち側にはメンディリバル国王エリックがいるのだ。

 外交儀礼が大切なのかもしれない。


 とても面倒なので、フランクに話していいよと言って欲しいところだ。

 だが、一臣下に過ぎない俺から、切り出すわけにはいかない。


 俺はエリックをちらちら見る。

 こういう時、一言いえるのは王族の皆様だ。


「……?」


 だが、エリックは俺の視線の意図に気づかない。

 ニコニコ笑っている。


 エリックは役に立たない。

 俺はケーテをちらりと見た。だが、ケーテは叱られたばかり。

 期待できない。


 だが、ケーテは俺の視線をうけて、力強くうなずいた。


「……! うむ、わかったのである」

「陛下?」


 急にうなずき始めたケーテを見て、リーアが戸惑っている。


「王太女殿下! 我と殿下の仲である。それにエリック陛下も友達だしな! それにラックも友達なのだ」

「……はい」

 リーアは少し戸惑っている。


「堅苦しい儀礼は無しにしようではないか!」

「っ!」


 ケーテの言葉に驚いた。

 なんと、ケーテは俺の視線の意味をしっかりと読み取ってくれていたのだ。


「……陛下」

 ドルゴが窘めようとしたが、それより早く、リーアが言葉を続ける。


「はい、ケーテお姉さま。嬉しいです!」

「そうであろう、そうであろう!」


 そして、ケーテはドルゴを見て、どや顔をした。


「ドルゴよ! リーア王太女殿下もこうおっしゃっておるのだ!」

「……ですが」

「エリックもそのほうがよいであろう?」

「はい。そうですね」


 エリックはいつものように微笑んでいる。

 それをうけて、またケーテはどや顔をした。


「なっ?」

「陛下のご随意に……」

「むふふ」


 外交儀礼を重んじるドルゴをケーテが押し切った。

 ケーテとドルゴのやり取りを見ていたリーアもほっとしたようだ。

 リーアもまだ子供。堅苦しいのは苦手なのかもしれない。


「ラックさま、ラックさま」

「どうなされました?」

「わたしのことは是非リーアとだけ呼んでください!」

「ですが……」


 さすがに、呼び捨ては抵抗がある。

 だが、リーアは寂しそうに言う。


「だめですか……」

 王太女とは言え、五歳ぐらいの幼女にそう言われたら、断りにくい。


「わかりました。リーア。それではわたくしのこともラック。もしくはロックとだけお呼びください」

「ありがとうです! ラック!」


 とはいえ、さすがに臣下の前で、王太女を呼び捨てには出来まい。

 竜の文化ではどうかはしらないが、人族の文化ではそういうものだ。


「ラック、どうぞこっちに来てください。集落と宮殿を案内します」

 リーアは俺の手を取った。


「皆さまも、こちらにどうぞ!」

 そういって、リーアは歩き出した。


 そのまま俺たちは転移魔法陣の設置されている大きな部屋を出た。

 するとそこは広くて長い、石造りの廊下だった。


「大きいですね」

「水竜たちが暮らしている場所ですから」


 竜は大きい。だから生活の場も大きいのだろう。


「すごいであります」

「広いわね」

「がうー」


 シアとセルリスも驚いている。

 ガルヴは匂いをふんふんと嗅ぎまくっていた。

 心配になる。念のために釘を刺しておこう。


「……ガルヴ。ぜったい用を足すなよ?」

「がう」


 ガルヴはわかっているのかいないのか、勢いよく尻尾を振っていた。


「ここは水竜の宮殿の近くにある、今は使っていない建物なのです!」

「なるほど」


 俺も興味深くて、周囲を見回した。

 広いだけでなく精巧だ。柱一本、壁一枚に至るまで高い技術がつぎ込まれている。


 俺が感心していると、ケーテが言う。


「ラック。魔法陣部屋に魔法をかけなくてよいのであるか?」

「あ、確かに。早い方がいいな。リーア。魔法陣部屋に魔法的防御をかけても良いだろうか?」

「はい。お願いします!」


 リーアの許可をもらったので、俺は魔法防御をかける。


「すごいです!」

 リーアが俺の魔法を見て感動していた。


「平凡な魔法ですよ」

「平凡な魔法でもすごいです! さすがラックです。この目でラックの魔法を見れるとは」

「であろー? ラックはすごいのであるぞー」


 なぜかケーテが胸を張っていた。

 俺は魔法陣部屋の壁、床、天井に魔法をかける。

 これにより、簡単には破壊されることはないだろう。

 隕石が降って来ても大丈夫なはずだ。


「鍵の登録も済ませておきましょう」


 風竜王の宮殿では、ドルゴを締め出してしまった。

 忘れないうちに、この場にいる者を鍵に登録して開けられるようにしておいた。

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