第151話

 俺はドルゴと別れてから、王都の門に向かう。

 王都にはいくつか門がある。


「おお、久しぶりだな。元気にしていたか?」

「はい、おかげさまで」


 この門の衛兵とは知り合いだ。

 次元の狭間より戻ったとき、全裸の俺に服をくれた衛兵である。

 改めてお礼を言って、俺は王都の中に入った。


 王都の中を歩いていく。

 中央広場のラック像もだいぶ見慣れた。


 屋敷に帰る前に、冒険者ギルドに寄ることにした。


(アリオとジョッシュは元気だろうか)


 ここ数日、アリオたちに会っていない気がする。

 元気ならよいのだが。


 俺が冒険者ギルドの建物に入ると、

「お、ロックじゃないか」

「ロックさん、おはようございます」

 アリオとジョッシュに声をかけられた。元気そうなので良かった。


「最近どうだ?」

「ネズミ退治と薬草採取の日々だ」

「ゴブリン退治の依頼はないのか?」

「ここ数日出てないですね」


 ゴブリン退治の依頼がないということは、被害もないということだ。

 何よりである。


 それから、アリオたちはネズミ退治に出かけて行った。

 俺も一応、クエスト票を確認しておく。

 平和なようでよかった。


「ただいまー」

 俺が屋敷に戻ると、タマとガルヴが走ってきた。


「がうがう!」

「わふわふ!」

 ガルヴは、ぴょんぴょん飛びついてくる。

 タマは俺の周囲をぐるぐる回った。


「タマ、ガルヴ、お出迎えありがとう」

 俺はタマとガルヴを撫でまくる。


「ガルヴ、お出迎えはありがたいのだが……」

「がう?」

「ガルヴは大きいから、俺以外に飛びついたらダメだぞ」

「がう!」


 馬ぐらい大きなガルヴに飛びつかれて無事でいられる人間は少ない。

 俺にするように飛びつかれては困る。


「ロックさん、おかえりなさい」

 セルリスがやってきてくれた。


「ミルカたちはどうした?」

「いまはフィリー先生の授業中よ。ゲルベルガさまもね。シアはギルドに顔を出すって言ってたわ」


 家庭教師フィリーによる徒弟たちの授業の時間のようだ。

 ありがたい話である。

 シアとは行き違いになったのかもしれない。


「そうか。ゴランとエリックは?」

「パパはギルドへ、エリックおじさまは王宮におかえりになったわ」


 二人とも仕事が忙しいので仕方がない。


「ケーテは?」

「遺跡の見回りに行くって言ってたわ」


 昏き者どもが遺跡を狙っている以上、警戒するのは大切だ。


「じゃあ、俺はガルヴとタマの散歩に行ってこよう」

「私も行くわ!」

「じゃあ頼む」


 俺とセルリスは、タマとガルヴを連れて散歩に出かけた。


「ガルヴ、ゆっくりだぞ」

「がう」


 ガルヴが全力で走ると、タマがついてこれなくなる。

 ガルヴとしては不完全燃焼かもしれないが、仕方がない。

 まだタマは痩せすぎだ。回復の途中である。


 屋敷の周囲をしばらく回った後、一旦戻る。

 そしてタマを置いて、また出発する。


 王都の外まで出て、ガルヴを思いっきり走らせた。


 しばらく走らせた後、

「ガルヴ、これを先に取った方が勝ちだからな」

「がう!」

 俺は木の棒を遠くに投げた。


「がうがう!」

 ガルヴは大喜びで走りはじめた。

 飼い主として初手から負けるわけにはいかない。俺も全力で走る。

 ガルヴより先に木の棒を拾う。


「がうがう!」

「もう一回勝負したいのか?」

「がう!」


 ガルヴと木の棒を先に拾うゲームを繰り返す。

 しばらく走ったり止まったりを繰り返す。

 たまにはガルヴに勝ちを譲ってやった。


「は、速いわね、はぁはぁ」

 肩で息をしながらセルリスが追いついた。

 木の棒を追いかけているうちに結構な距離を走っていたようだ。


「ガルヴはただの狼ではなく、聖獣の狼だからな。子狼でも速いんだ」

「ほんとに速いのね」

 そういって、セルリスはガルヴを撫でる。


「セルリスはあまり無理はするな」

「がうがう」


 ガルヴは嬉しそうにセルリスの周りをぐるぐる回った。

 さっきの言いつけを守っているのか、飛びつかないのは偉い。


「ロックさんは、ガルヴより足が速いのね」

「ガルヴはまだ子狼だしな」

「パパはどうかしら?」

「ゴランも今の子狼のガルヴよりは速いんじゃないか?」

「やっぱり……」

 そして、セルリスは言う。


「私も鍛えないといけないわね!」

「それは良いが、焦らないほうがいい」

「がう」


 ガルヴも俺に同意するかのように吠えた。

 そして嬉しそうに、周囲を走り回っている。


「ロックさん。魔素の濃いところで戦った方が強くなれるのよね?」

「基本はそうだな」

「つまり、強い魔物を倒せば倒すほど、強くなれるってことよね?」

「それはそうだが……。無茶はするなよ?」


 魔物を倒すと、魔素が大気中に出る。

 そして、それを浴びることによって強くなるのだ。


「ロックさんも、次元の狭間で強くなったのよね?」

「どうしてそう思うんだ?」

「だって、魔神王を追い返した十年前は、パパも、エリックおじさまも、ロックさんと同じくらい強かったんでしょう?」

「そうだ」

「それからパパたちも強くなったらしいけど……。それ以上にロックさんが強くなっているっぽいし……」

 セルリスの推測は正しい気がする。


「そうだな。次元の狭間は魔素が濃いからな。それにドレインタッチで魔神から生命力を吸収した際に魔素もおそらくは吸収していたっぽい感じがする」

「なるほど……」

「魔素を浴びなくても、特訓すれば強くなるし。魔素を浴びても体ができていなければ成長も望めない」

 セルリスはふんふんと頷いている。


「魔石を……」

「魔石を?」

「うん、訓練終わりに魔石を食べるのはどうかしら?」

「……だめだろ」

「どうして? 魔素の塊なのだから、食べたら強くなれるのではないかしら?」


 そんなことで強くなれるなら、苦労はない。

 昔、俺も試してみたが効果はなかった。


「魔石は結晶化しているからな。安定しすぎている。食べてもそのままお尻から出るだけだぞ」

「そうなのね」


 そんなことを話している間、ガルヴが嬉しそうに俺たちの周りをぐるぐる回っていた。

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