第120話

 俺は一から説明を開始する。


「ニアとゲルベルガさまと一緒に、ガルヴの散歩に出かけたんだが……」


 ケーテの迷惑な咆哮からの、遺跡探索、ヴァンパイア退治について説明する。

 セルリスが真面目な顔で言う。


「ドラゴンの遺跡をヴァンパイアが狙っているってことなのね」

「そうだな。ケーテは時間とともに隠蔽の魔法が弱まったと考えていたらしいが……」

「ヴァンパイアどもが暴いて回ってたということかしら」

「可能性は高い」


 そして、有用な魔法装置がなかった洞窟はそのまま放置された。

 それが、最初にケーテとあった、ゴブリンしかいない遺跡だろう。


「文化財保護マニアのケーテのおかげで、助かったでありますね」

「確かに、それはそうだな」


 最初の遭遇はともかく今日の遺跡はケーテがいなければヴァンパイアに気づけなかった。

 気づかなければ、愚者の石をまた錬成されることになっていただろう。


「ああ、そうだ。お菓子以外にもお土産があったんだ」


 そういって、俺はヴァンパイアロードから奪った剣を机の上に載せる。


「ヴァンパイアロードが使っていた剣だ。呪われていないから使いたい人がいれば進呈しよう」

「その剣、ちょっと見せてもらってもいいかしら?」

「どうぞ」


 セルリスは剣を手に持つ。さやから抜いて、軽く振る。


「うん。良い剣だと思うわ」

「魔神王の剣と撃ち合って折れなかったし、竜族の遺跡の床を楽々と切り裂いていたからな」

「それはすごいわね。シア、ニアちゃん。使う?」

「あたしは、以前ロックさんにもらった剣を愛用しているから大丈夫でありますよ」

「私の今の剣は特別製なので、セルリス姉さまがお使いください」

「ニアの剣って、特別製なのか?」


 俺が尋ねると、ニアはうなずく。


「はい。まだ子供なので、訓練用の剣なのです」

「普通の剣に見えるがな」


 シアがニアの頭を撫でながら言う。


「剣自体は普通でありますが、体格と身長に合わせて作ってありますよ」

「子供用に短く軽くってことか?」

「いえ。逆であります。狼の獣人族は重たくて長めの剣を使って訓練するであります」

「そういうものなのか。変わった風習だな」

「筋肉をつけるためでありますよ」

「へー」

「とはいえ、長すぎたり重たすぎれば、バランスが悪くなり意味がないので、絶妙に長く重くしているであります」

「なるほど。大変だな」


 それに、どのような効果があるのかはわからない。

 だが、実際にシアは十五歳の若さでBランク冒険者になっている。

 少なくとも狼の獣人族には効果があるのだろう。


「シアとニアが使わないなら、セルリスが使うか? セルリスの剣も特別製だったりするのか?」

「いえ、普通の剣よ」

「セルリスの剣、少し見せてくれないか」

「もちろんよ」


 そういって、セルリスは自分の剣を渡してくれた。

 確かに特別な剣ではない。ただ、店売りの最高級品だ。

 大体三百万ラック程度はするだろう。


 それでも、俺が手に入れてきた剣の方が質はいい。


「セルリス、こだわりがなければ、その剣を使うといい」

「……ありがとう。大切にするわ」


 セルリスは嬉しそうだ。喜んでもらえてよかった。


 そのころには昼ごはんを食べ終わる。

 食器を洗ってから、再度食堂に戻る。


「ロックさんのお土産のお菓子があるぞー。お茶も入れておいたぞ!」


 ミルカがお土産のお菓子とお茶を運んできてくれた。


「ありがとう、ミルカ」

「気にしないでおくれ!」


 そういって、ミルカはガルヴを撫でながら照れている。

 俺はミルカに俺の正体について話すことにした。


「賢いミルカのことだから、薄々気付いてはいるのだろうが……」

「なんのことだい?」


 ミルカはとぼける。だが、ガルヴをわしわしするスピードが上がった。

 気付いていないふりをしてくれているのだろう。


 ガルヴは「はっはっ」と息を吐きながら、尻尾を振っている。

 ミルカとガルヴも仲良くなったのかもしれない。


「聞いてないことにしたいなら、それでもいいのだが……」

「いや、信用して教えてくれるっていうなら聞くぞ。嬉しいからな!」

「そうか」


 俺は自分の正体をミルカに説明する。

 ミルカは勇者王エリックのことも知らなかったぐらいだ。

 俺の正体を明かしても驚かないに違いない。


「まじか! ロックさんって、あのラックなのか! すげー!」

 予想に反して、ミルカは驚いた。

 ガタっと椅子から立ち上がり、机に両手をついて身を乗り出した。


「で、この前の王様は勇者エリックだぞ」

「あ、ふーん?」

「で、ゴランはあのゴランだ」

「セルリスねーさんの親父さんのゴランさんも有名なのかい?」


 エリックとゴランに関しては知らないらしい。

 ゴランの娘、セルリスが気を悪くしないだろうか。

 俺はセルリスをそっと見た。


 セルリスがうんうんとうなずいていた。


「エリックおじさまはともかく、パパの知名度はロックさんにはかなわないわよ。当然ね」

 どうやら、納得しているようだった。


「エリックもゴランもすごいんだぞ」


 俺はミルカにエリックたちの功績を讃えておいた。

 せっかくなので、嘘ではない程度に誇張して、大げさに教えてやった。

 俺の功績を大げさに伝えた、二人への意趣返しだ。


 俺がミルカに熱弁をふるっていると、ミルカが部屋の入り口を見る。

 そして、驚いたような顔になる。


「あ、勇者王陛下だ」


 俺が振り返ると、エリックがいた。エリックは気配を消すのがうまいので困る。


「ロック。その辺で、許してくれぬだろうか。て、照れるではないか……」

 部屋に入りかけの勇者エリックが、顔を真っ赤にしていた。

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