第101話

 その後、ミルカが作ってくれた夕ご飯を皆で食べた。

 ミルカがニアに嬉しそうに語りかける。


「ニアちゃんもここに住むのかい?」

「えっと、とりあえずは新しい家を借りるまでです」

「それは残念だぞ! なあ、ロックさん」

「そうだな。住んでくれたら寂しくなくていいんだけどな」

「がうがぅ」


 ガルヴもシアとニアには住んでほしそうだ。

 そんなことを話していると、ゴランがやってきた。


「ロック、遊びに来たぞ!」

「おう、よく来たな」

「ゴランさん、ご飯食べるかい?」

「おお、いいのか? 頼む」

「任せておくれ」


 ミルカが素早くゴランの分の料理を用意する。

 セルリスがくすくすと笑う。


「やっぱり、パパは今日も来たわね」

「セルリスこそ、当たり前のように来ているじゃねーか」

「それもそうね!」


 そして、親子は笑いあった。

 食事を終えると、セルリスは言う。


「ミルカちゃん、ニアちゃん! それにシア。一緒にお風呂入りましょう」

「あ、はい。お風呂いただきます」

「お風呂いただくのです!」


 シアとニアは尻尾をびゅんびゅんと振った。お風呂が好きなのだろう。

 だが、ミルカはゆるゆると首を振る。


「折角のセルリスねーさんのお誘いだけど、おれは後片付けがあるんだ」

「そうなのね……」

「お風呂はあとでいただくさ」

「じゃあ、私も後片付けを手伝うわね」

「いや、セルリスねーさんはお客さんだからな!」


 ミルカがセルリスに遠慮していた。

 そんなミルカたちに向けて俺は言う。


「ミルカもセルリスも、お風呂に入ってきなさい」

「え、だけど……後片付けが」

「後片付けは俺がやっておく」

「だけど、俺の仕事だしな」

「気にするな。風呂に入ってこい」

 ミルカたちをお風呂に送り込んだ後、俺は食器を洗う。


「がうがう」

「こっここ」


 俺が食器を洗っている後ろでは、ガルヴとゲルベルガさまがうろうろしていた。

 ゲルベルガさまはガルヴの背の上に乗っている。仲が良いようで素晴らしい。

 そこにルッチラが食器を持ってきてくれる。


「これで全部ですよー」

「おお、ありがとう」

「運び終わったので、ぼくも洗いますね」

「おお、助かる」


 ルッチラと二人で食器を洗った。

 ゴランも手伝うといったが、お客さんなので断った。


「ルッチラって、お風呂嫌いなのか?」

「えっと、そんなことはないですけど」

「そうか」


 ミルカがルッチラはお風呂が嫌いと言っていた。

 ずっと入っていなかったらしい。


「ルッチラは、いつから風呂に入っていなかったんだ?」

「えっと……」

「魔族の村を出てから、風呂に入ったことはあったのか?」

「……川で水浴びはしました」

「……なるほど」


 まるで冒険中の冒険者みたいな生活だ。

 お風呂嫌いというのは本当らしい。


「ゲルベルガさまは、水浴び好きそうだけどな」

「砂浴びも好きですよ」

「ここ!」


 ゲルベルガが元気に鳴いた。


「今度、綺麗な砂を手に入れて庭に砂場を作ろうか」

「コゥ!」


 ゲルベルガさまは嬉しそうに鳴いた。


「ルッチラ、ゲルベルガさまとガルヴも、ミルカたちが風呂を出たら一緒に入るか」

「い、いえ! 今日、ぼくはお風呂にもう入ったので!」 

「別に二回入ってもいいと思うぞ」

「いえ! 大丈夫です! 大丈夫なので!」

「そうか」


 ルッチラはよほど風呂が苦手らしい。

 一方、ガルヴは尻尾を振りまくっていた。ガルヴはお風呂に入りたいのだろう。


 食器の後片付けを終えて、居間に向かった。

 居間ではゴランが待っている。


「手伝わなくて、すまなかったな!」

「ゴランは客だからな。それよりしばらく、だれも相手できなくてすまなかったな」

「気にするな。好きに酒飲んでたからな」

「そうか」


 俺はゴランの盃に酒を注ぐ。


「ゴラン。セルリスの教育ってどうやったんだ?」

「……やはり、まずかったか? 迷惑かなりかけているか?」

 ゴランは、どういう教育しているんだという説教だと思ったのかもしれない。


「すまない。誤解させたな。まったくもってそうではないんだ」

「ふむ?」

「ミルカはものすごく頭がいいらしい。だが、教育を受けてないから活かしきれていないと思う」

「なるほど。家庭教師か」

「そういうことだ。俺の徒弟になったからには、きちんとした教育を受けさえないと俺の恥だからな」

「それもそうだな。セルリスは学者を数人呼んだな。行儀担当とか歴史文化担当とかな」

「ふむふむ。その人たち紹介してもらうことって出来るか?」

「高齢な先生方が多かったからな……。体を壊したり、亡くなった人もいるから、全員は難しいぞ」

「そうか。エリックにいい家庭教師がいないか聞いてみるか」


 ひざにゲルベルガさまを抱えて、大人しく聞いていたルッチラが言う。


「家庭教師ですか。確かにミルカには必要かもですね」

「何を他人事のように。ルッチラも勉強するんだぞ」

「えっ?」

「ルッチラも、まだ若いのだから当然だ」

「ありがとうございます」


 ルッチラに頭を下げられた。

 教育には金がかかる。だから、感謝したのだろう。


 ゴランが真面目な顔で言う。


「ニアちゃんも、徒弟にするもんだと思っていたが、しないのか?」

「俺としてはまったくもって構わないのだがな。本人のが希望するかどうかだろ」

「なるほどな」


 ニアにとっても、徒弟になった方がいろいろと便利なのは確かだ。

 王都での保証人を手に入れるようなものでもある。

 だが、ニアには立派な保護者がいる。こちらから、なりませんかということでもない。


 そんなことを、話し合っているうちに夜は更けていった。

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