第73話

 俺はもう一度探知サーチの魔法をかけて他に何もないことを確認した。

 それから謎のかけらを持って下水からあがる。


 アリオが真剣な表情で聞いてくる。


「なにかあったのか?」

「これを見つけた」


 そういって、謎のかけらをみんなに見せた。

 セルリスは真剣な目でかけらを見つめる。


「一体、なにかしら?」

「なにかの一部だとは思うのですが……」

 ジョッシュは見当もつかないといった表情だ。


「ふんふんふん」

 ガルヴは一生懸命臭いを嗅いでいた。


「ロックさんもわからないの?」

「わからないな。あとで調べてみるか」


 調べてもわからなければ、錬金術士協会にでも調査を依頼しようと思う。

 それから俺はガルヴに言う。


「ガルヴ。生きてる魔鼠が他にいるかわかるか?」

「がう!」


 ガルヴは堂々と尻尾をたてている。きっとわかるのだろう。


「下水道は広いからな。全滅させるのは無理だと思うが、この周囲だけでも魔鼠を狩っておこう」

「がう」

「ガルヴ。頼んだ」

「ガウガウ!」


 ガルヴはタタタと走っては止まる。そして臭いを嗅いでいる。

 下水の臭いがきついので、苦戦しているようだった。


 たまに縄張りを主張しながら、ガルヴは歩いて行った。


「ガウ!」

 一声鳴いて走り出す。


「そっちに魔鼠がいるのか?」

「がうがう!」


 ガルヴの後をついて行くと、魔鼠が二匹いた。

 魔鼠は逃げ出そうとしたが、ジョッシュの矢が突き刺さる。

 セルリスも魔鼠より速く走ってとどめを刺した。


「ガルヴ、優秀ですね! 猟犬になれますよ」

 元猟師のジョッシュがガルヴを撫でながらほめる。


「がう!」

 ガルヴは自慢げに尻尾を振る。そしてチラチラとこちらを見てきた。

 ほめて欲しいのかもしれない。


「ガルヴ偉いぞ!」

「がうがう」


 喜んだガルヴはその後も二十匹ほど隠れていた魔鼠を発見した。

 死骸もすべて回収しながら、下水を出る。


「死骸の処理は俺の家の庭でやるぞ」

「いいのか?」

 アリオはどこか不安そうだ。

 魔鼠を解体すれば、血などで庭が汚れる。

 だから、気を使ってくれているのかもしれない。


「もちろんいいさ」

「ロックがいいならいいのだが……」

 アリオはまだ少し心配そうにしていた。


 屋敷に到着すると、ルッチラが玄関先で待っていた。

 ルッチラには食料の買い出しを頼んでいたのだ。


「ルッチラ。食料買い出しお疲れ様だぞ」

「ちゃんと買えたかしら?」


 ルッチラは俺たちを見て少し驚いたような表情になる。

 下水まみれなので驚くのも無理はない。


「そ、それはもちろん買えましたけど……、皆さんどうしたんですか?」

「ちょっと魔鼠退治に下水道に行ってきたんだ」

「えぇ……」

 ルッチラは顔を引きつらせていた。


「ココゥ」

 ゲルベルガが俺の懐から出て、ルッチラのもとに行く。

 臭かったのかもしれない。


「ゲルベルガさまもお疲れ様です」

「ここ!」


 ルッチラにゲルベルガを任せると、俺たちは後処理に入る。

 魔法の鞄から、魔鼠の死骸を取り出していく。


「かなりの数ね!」

 セルリスは張り切っている。


 だが、アリオとジョッシュはげんなりしていた。

「これ全部解体して魔石を取り出すんですよね……」

「気が滅入る」


 そういいながらも、てきぱきと解体していく。

 俺も当然解体作業に従事する。

 先程、魔鼠の解体方法を教えたセルリスも、一生懸命解体する。


「セルリス。筋がいいぞ」

「そうかしら」

「さっき教えたばかりだというのに、手つきが一人前の冒険者とそん色がない」

「え、えへへ」


 セルリスは照れていた。

 セルリスは本当に、筋がいい。あっという間にうまくなっている。

 順調に解体していった。


 日暮れ近くになり、やっと解体作業が終わった。

 魔石を数えていたジョッシュが言う。


「魔石を数えたら二百匹分でした……」

「そんなにか……」


 さすがに俺も驚いた。

 大発生というレベルではない。


「王都の地下でこの大繁殖。これ、対応が遅れたらまずかったんじゃないか?」

 アリオの顔面が蒼白になっている。


 ネズミは繁殖するのが早い。文字通りネズミ算式に増えていく。

 魔鼠は普通のネズミよりも、さらに繁殖するのが早いぐらいだ。


 明日になっていれば、倒さなければならない魔鼠は五百匹を超えていたかもしれない。


「それに、これは何なのかしら?」

 セルリスが謎のかけらをかかげる。


 俺が魔鼠の大群が集まっていたところから拾ったかけら。

 それと同種のものが、魔鼠の体からいくつも発見された。

 かけらの数は全部で、三十ほどあった。


 ジョッシュが真剣な顔で言う。


「特に大きな魔鼠の体の中から見つかりましたね」

「成長促進させる効果でもあったのか? 微量な魔力を感じるのだが……」

 魔導士のアリオがかけらを調べながら言った。


「とりあえず、組み立ててみるか……」

「組み立てられるのかしら?」

「わからないが、試してみる価値はある」

「その前に、死骸を燃やした方がいいかも」

「そうだな」


 俺は魔鼠の死骸に油をかけて、火をかける。

 とても臭い。下水道で下水にまみれた魔鼠の死骸だから仕方ない。


「ごぉぇ」

 ガルヴがえずいた。


「ガルヴ、家の中に居ればいいぞ」

 そう言って、俺は、ガルヴの背中をさすってやった。

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