第20話

 セルリスのことは、ゴランに頼まれてはいる。

 断れば、ゴランが危惧した通り一人で冒険者登録してソロで活動を始めるかもしれない。

 それは避けたい。それならばパーティーを組んであげたほうがいいだろう。


「なんで俺とパーティーを組みたいんだ?」

「見習う点が多そうだからよ」

「ふむ……」


 本当はゴランと一緒にパーティーを組みたいのかもしれない。

 だが、ゴランは冒険者ギルドのグランドマスターなので忙しい。

 だから、代わりに俺とパーティーを組みたいのだろう。


「まあ、希望はわかった」

「じゃあ、パーティーを組んでくれるのね」

「いや、俺にも都合があってな」


 そして俺は事情を説明する。

 アリオやジョッシュに手が必要な時はいつでも言えと伝えていることを説明する。


「アリオたちと先に約束しちゃったからな」

「でも、アリオさんたちと恒常的にパーティーを組むってことではないんでしょう?」

「それはそうだが」

「じゃあ、アリオさんたちの人手が足りてたら、私ともパーティを組んでください」

「……そういうことなら別にいいけど」

「やった!」

 セルリスは両手のこぶしを握って、喜んでいた。


 その後、俺たちはギルドに向かって出発した。

 道中、俺はセルリスに念を押す。


「わかってると思うが、俺の正体は内緒だからな」

「当然、わかっているわ」

「それに、アリオたちが優先だからな」

「私もアリオさんたちのパーティーに参加してもいいのだけど」

「どうだろうか。報酬が減ってしまうしな」


 Fランク四人パーティーなら、ある意味適正だ。

 だが、セルリスは戦闘力はBランク相当。アリオたちにプラスになるのか判断が難しい。

 そんなことをセルリスに説明した。


「わかったけれど……」

「わかってくれてよかったよ」


 話しているうちに、冒険者ギルドに到着する。

 中に入ると、俺に気づいたアリオたちが近づいてきた。


「おはよう、ロック」

「おはようございます、ロックさん」

「おはよう。今日は何のクエを受けるんだ?」

「今日は魔鼠まそ退治です」

「魔鼠か」


 魔鼠は都市と農村、両方の敵だ。

 農村では食料倉庫を襲い、畑を荒らす。経済的被害が甚大だ。

 10匹足らずの魔鼠でも村は半壊しかねない。


 都市でも嫌われものだ。

 食料を食い荒らし、疫病をまき散らすのだ。厄介なことこの上ない。

 魔鼠の媒介する疫病で都市の人口が半減したことだってあるのだ。


「魔鼠がいて、下水道の清掃が滞っているらしいんだよ」

「そうか、人手は足りているか?」

「大丈夫だぞ」


 魔鼠は厄介な魔獣だが、戦闘力自体は高くない。

 ゴブリンより相当戦いやすい相手と言える。

 群れとして動くことがないので、各個撃破も容易だ。


「そうか、気をつけろよ」

「おう!」

「ロックさんもお気をつけて」


 アリオとジョッシュは魔鼠退治に出かけて行った。

 後ろからセルリスがささやいてくる。


「ということは、私と組んでくれるのね?」

「……それでいいぞ」

「やった」


 セルリスはとても嬉しそうだ。


「何のクエを受けようかしら」

「その前に冒険者登録だぞ」

「もう登録は済んでいるわ! 冒険はまだしたことないのだけど……」


 そういって、セルリスは冒険者カードを見せてくる。

 Fランクの戦士として登録済みだった。


 ゴランの懸念はまさに正しかった。

 勝手に登録して勝手に冒険を始める寸前だった。

 最初の冒険に俺が同行できたのは僥倖ぎょうこうだろう。

 

「どれにしようかしら」


 セルリスは真剣な顔で依頼票が貼ってある掲示板を見始める。

 俺も適当に眺める。

 10年前より平和になった。そんな気がする。


「うーん。悩むわね」

「ゴブリン退治はないのか?」

「今日はないわね」


 ゴブリン退治がないのなら仕方がない。


「じゃあ、近いところでいいんじゃないか?」

「急に雑になったわね……」

「いや、なに。他のクエストは俺たちがやらなくても、誰かがやる人気のクエストばかりだしな」

「不人気クエがいいの?」

「俺はロートルだから、不人気クエを積極的にやることに決めているんだよ」

「そうなのね」


 しばらく眺めていたセルリスが言う。


「ロックさん。これなんてどうかしら」

「それでいいぞ」

「ちゃんと見て。魔獣狩り。数は不明。種類も詳細不明。場所も近いし。Eランク相当。貼られている中では一番古いし」


 一番古い依頼ということは、最も長い間、受注されていないということだ。

 一番人気のないクエストと言い換えてもいい。

 それにFランク二人で受けられるクエストならば、Eランク相当が最高難度だ。


「なるほど。それはいいな」


 不明が多すぎる。こういうのも、たまにあるのだ。

 魔獣に遭遇した依頼主が怯え混乱している場合に特によくある。

 依頼時に提供される情報があやふやすぎて、確定できないのだ。

 だから、他の冒険者からは避けられているのだろう。


 そんな依頼でも、相当するランクを決めないといけないギルド職員は大変だと思う。


「じゃあ、これを受注するわね」


 笑顔でセルリスは窓口に依頼票を持って行く。

 受付嬢は依頼票を確認してから、セルリスに尋ねる。


「セルリスさん。今日はソロなのですか?」


 受付嬢はセルリスのことを知っているらしい。


「違うわよ。今日はロックさんと一緒なの」

「Fランク冒険者同士で組まれるのですか?」


 俺のことを覚えていてくれたらしい。

 俺はFランク冒険者だというのに、光栄なことである。


「そうなの」

「そうですか。危険だと思えば、すぐに逃げてくださいね」


 受付嬢から念を押される。Fランク二人のパーティーだから心配してくれているのだろう。


「じゃあ、行きましょう。あっ悪いのだけど、父に伝言頼めるかしら」

「セルリス。それは公私混同だぞ」

「そ、そうね。ごめんなさい」

「いえ、構いませんよ。大した手間でもないですし。他の職員のご家族も時たま伝言頼まれていきますから」

「そうなのか」


 グランドマスターの特権でないなら、構わないと思う。

 堅苦しすぎるのも考え物だからだ。


「父にはロックさんと魔獣退治に行くってだけ伝えておいて欲しいの」

「了解しました」


 俺たちはギルドの受付嬢に笑顔で見送られて出発した。

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