第38話 奴隷だった私は十八歳になる2
イーラが自分の部屋に戻ると、サーシャが遊びにきていた。サーシャは嬉しそうにイーラに駆け寄る。
「最近遊べなくてごめんね」
そう言ってイーラはサーシャを撫でる。昔は一日中遊んだりもしたが最近はたまに撫でてやるくらいだ。
くしゃくしゃと撫でてやって、ベッドに座る。すると、サーシャもベッドに乗った。
「今日は一緒に寝るの?」
そう言うとサーシャはペロペロ顔を舐めた。
「そういえば、エルフのイェンセンがオッドアイは魂の半分が異世界の魂だったという証って言ってたけど。サーシャもそうなのかな?」
首をかしげるとサーシャも首を傾げた。
「喋れないから、どっちにしろ分からないか……でも普通の狼より頭がいい気もするんだよな……たまに私が喋ってる内容も分かってるんじゃないかと思う時もあるし……」
ここに来た時は、狼というのはこれくらい頭がいいのが普通なのかと思っていたが流石に違う気がする。
そんなことを考えながら、イーラは濡れた髪を魔法で乾かし、櫛で梳かす。
「髪の毛伸びたな……また、エミリーに切って貰わなくちゃ」
イーラは特に髪が長かろうが短かろうが気にしないのだが、あまり長いと仕事をするのに少し邪魔なのだ。
街には髪を切ってくれる店はあるが、エミリーの方がお洒落で可愛く切ってくれる。
サーシャの頭を撫でながらふと思い出した。
「そう言えば、透真から手紙が来てたんだ……」
透真は三年前、首のチョーカーを取るために旅に出た。透真は何度か手紙を送ってくれたり、度々帰ってきてはまた旅に出たりしている。
そのおかげで、アイテムは無事に手に入り、チョーカーは取れた。
取れた時透真は嬉しそうだった。下手をすれば爆発して死んでしまうものを首に付けているのだ。生きた心地がしなかっただろう。
しかし、ここで一つ問題が発生した。そのチョーカーはこちらの言葉を翻訳してくれる役割もあったのだ。だから、外してしまったら言葉がまったく分からなくなってしまった。おかげで、また別に翻訳が出来るアイテムを作らなくてはいけなくなった。
アイテムはイェンセンが作ることになったらしいが、素材は自分で集めなくてはならなくてかなり苦労していた。
手紙には、チョーカーを外すまでその事を言ってくれなかったイェンセンの恨み事がつづられていた。透真はさらにイェンセンのことが嫌いになったと言っていた。
ちなみに、文字を読んだり書いたりも翻訳アイテムがあれば書けるそうだ。
だから、その期間は連絡がなくて心配したりもした。
色々あって時間が掛かったが、その後は暁斗に真実を伝えるべく、人間の国にむかった。
「でも、上手くいかなかったんだよね」
結論として、透真は暁斗と接触することは出来たらしい。しかし、真実を伝えたものの暁斗はまったく信じなかったらしい。透真はある程度予想はしていたようで。最後の手紙にはもう少し頑張ってみると書かれていた。
最近は、人間の国からだとあまり手紙が送れないので、手紙が届いていない。
透真は慎重な人だし頭もいいから大丈夫だと思うが少し心配だ。
しかも、人間と魔族の戦いも日に日に激しくなっている。この屋敷にはその影響は出ていないが、街に行くとその影響は少し見えだしている。ピアーズはそれのせいもあって忙しくなっているのだ。
「そろそろ、寝ようか」
そう言ってイーラはサーシャを撫でる。そうするとサーシャはベッドに乗ってグルグル回ると体を丸くさせうずくまった。
イーラも横になる。あの一件があってからイーラは一人で寝ている。
あの一件とはイーラが勇者に近づこうと提案したら、ピアーズに怒られたことだ。
あれは、危ないことをしようとしているイーラをいさめるためだったとは分かっているが、一度拒否してしまうと、一緒に寝たいと言えなくなってしまった。
その後もピアーズはなにも言わないので、余計にイーラは何も言えなくなってしまった。
そうして、いつの間にか一人で寝るのが普通になってしまったのだ。
そんな事を考えていたら、イーラはいつの間にか眠っていた。
翌日、イーラはいつも通り朝起きると、昨日と同じく仕事をこなしていく。
「あ、エミリー」
イーラは仕事中、エミリーを見かけて声を掛けた。
「あら、久しぶりね」
本格的に秘書として働き出したので、エミリーとも喋ることも少なくなってしまった。
エミリーはほうきで飛んでいたイーラを見つけて微笑む。
三年経ったがエミリーは相変わらず美人だ。むしろさらに色っぽさが増した。それでいて快活に仕事をこなしていて、見ていて気持がいい。
「エミリー、また髪の毛を切って欲しいんだけど」
「ああ、いいわよ。今夜でもお風呂で切ってあげるわよ」
話すと、エミリーはすぐに了承してくれた。
「本当?ありがとう」
「じゃあ、八時くらいに来て。準備しておくから」
「分かった」
そんな会話をして、イーラはまた仕事に戻る。
仕事は相変わらず忙しく、文字通りイーラはほうきで飛び回りながら仕事をこなして行く。
仕事が終わると、今度はエミリーとの約束通りお風呂に向かった。
エミリーは、もうもうすでに待っていてくれた。
「どういう髪型がいい?」
「何でもいいよ、仕事でじゃまにならなかったら」
「ええ?せっかく綺麗に伸ばしてるのにもったいない」
「んーでもな……」
「じゃあ、毛先の傷んだとこだけ切って、邪魔にならない髪の結い方を教えてあげるよ」
「うーん、分かった」
そうして、エミリーは髪を切り始めた。
「いつも、ありがとうエミリー」
「別にいいのよ。髪をいじるのは好きなんだけど自分じゃ限界があるし、人で色々試せるのは助かるの」
そう言いながらエミリーは手際よく毛先を切って、全体を整えていく。
「いつもエミリーは綺麗にしてるもんね」
「あなたは、もうちょっと毎日気を付けた方がいいわよ。まあ、忙しかった時期よりはましだけど」
エミリーが言っているのはピアーズが学校を作るので忙しかった時のことだ。
あの時は、仕事をするか部屋で寝るかしかしてなかった。
「あの時は、お風呂入るのも疲れちゃって出来なくて、寝そうになっている時にエミリーに無理矢理入れてもらったよね」
つい最近のことではあるが、懐かしく感じる。
「そう言えば、お古で悪いんだけど服いらない?」
「いいの?」
「また新しいの買っちゃってさ。イーラが体形も同じくらいになったから助かるわ」
「……でもちょっと胸が余るんだよね……エミリー胸が大きいから……」
イーラはちょっと苦笑しながら言った。
「そんなの気にしないの。イーラは今のままで可愛いんだから」
「ありがとう……。今度、街に行く時に着ていくよ」
「街に行くの?」
「うん、カイと行く約束したの」
昨日カイと約束していたが、服をどうしようかと思っていたのだ。
「そう言えば、カイとはどうなの?」
「どうって?仲のいい友達だよ?」
「友達ねぇ……」
エミリーは少し呆れたように言った。
「なあに?」
「何でもないわよ。ただちょっとカイが気の毒になっただけ」
「え?私なんかしちゃってた?」
「大丈夫、気にしないで。こういう時は気付く時は気付くものだしね」
「よくわかんない……」
イーラは困った顔をして口を尖らす。
「そういえば、イーラは好きな人とかいないの?」
「好きな人?えーっと、ピアーズ様とカイと透真とヘンリー……あ、勿論エミリーも好きだよ」
そう言うとエミリーはため息をつく。
「そういうことじゃないんだけどね……」
「え?また間違った?」
イーラがそう言うとエミリーは苦笑いをする。
「まあ、いっか……私もイーラのこと好きだよ」
そう言ってエミリーはイーラをギュッと抱きしめた。くすぐったくてイーラがクスクス笑うとエミリーも笑う。
エミリーにはここに来た時から世話を焼いてくれて本当に感謝している。
いつか、恩返しが出来ればなと思う。
「よくわかんないけど、そのうち私もわかるかな?」
「まあ、ゆっくり考えればいいよ。あ、そうだ。今やってる、演劇は恋愛物で評判もいいからそれで勉強してきなさい」
「それ本当に勉強になるの?」
イーラが訝しげに言うとエミリーはまたクスクス笑う。
「よし、髪はこんなもんかな。あとは、仕事の邪魔にならない髪型だね。ほら、どうやるかちゃんと見ててね」
そう言ってエミリーはてきぱきと髪を結いあげていく。簡単そうに見えるが、自分に出来るだろうかと少し不安になる。
「本当に上手いね」
そう言うと、エミリーは得意そうな表情になる。
「そうでしょ?でも、このお屋敷では、女が使用人しかいないから宝の持ち腐れなのよ。もし奥様とかご息女がいたら、もっと腕が振るえるんだけどね」
「確かにそうだね」
そう言われてみて気が付いた。ピアーズはもうとっくに結婚してもいい歳なのだがいまだに独身だ。何か理由があるのだろうか。
その時、エミリーがふと思い出したように言った。
「そう言えば、ピアーズ様が結婚するって本当?」
「…………へ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます