第18話 奴隷だった私の魔法使いになる2
授業が終わるとイーラは食堂に行って、夕食を済ませる。
相変わらずヘンリーの食事は美味しい。
食事が終わると、お風呂だ。
風呂から出たところで、丁度エミリーと鉢合わせした。
「あ、イーラもお風呂?」
「うん出たところ」
イーラはそう言って、髪の毛を拭く。エミリーはそのまま入れ替わりでお風呂に入った。
魔法を使って風をおこして髪の毛を乾かす。魔法は危険なこともあるが、こういう事も出来るから便利だ。
イーラはそう思いながら、乾いた髪を丁寧に櫛でといでいく。
しばらくすると、エミリーが出て来た。
「お、ちゃんと髪の毛の手入れ出来るようになったね」
「そりゃ、エミリーに何回も言われたからね」
イーラは答える。エミリーは相変わらず身だしなみやお洒落にうるさくて、何度も言われ続けたので、髪の毛を梳くのは習慣になった。
イーラがここに来たときは、ゴミの塊りみたいだったけど、今では女の子らしく肩の下くらいまで伸びて、サラサラツヤツヤになった。
「うん、私の見込んだ通り。可愛い」
髪を整えたイーラをじっくり見て、エミリーは満足そうに言っただ。
エミリーはいつもそう言ってくれるが、イーラはそうは思えない。鏡を覗き込む。確かに昔よりマシにはなった。
しかし、黒い肌の魔族ばかりのこのお屋敷では、イーラはかなりぼんやりした印象だ。
「そうかな?」
「そうよ。まあ、あと、もうちょっと角が長くて肌も黒かったら、完璧なんだけどな。本当に惜しい。そうしたらあと数年で絶世の美女って言われてもおかしくないのに」
エミリーは残念そうに言った。
イーラは苦笑する。
それでも、イーラはエミリーに可愛いと言われるのは嬉しかった。
「エミリー、髪の毛乾かしてあげるよ」
「ありがとう」
イーラは呪文を唱え、風の魔法でエミリーの髪を乾かす。
髪が乾くと、エミリーも櫛でといていく。エミリーの髪を梳く姿はとても綺麗だ。エミリーはイーラの事を可愛いと言ってくれるが、エミリーの方がはるかに可愛いし美人だ。
ツヤツヤの髪に綺麗なくびれと大きな胸。クリクリした目はコロコロ表情が変わっていつも明るい。
どんな人もエミリーと喋ったら、好きになると思った。
イーラは自分の体を見下ろす。五年前よりふっくらして成長したものの、くびれはあまりなく全体的に細い。
これからまだ成長するんだろうかと思いつつ、エミリーと少しお喋りしてから別れて部屋に戻った。
相変わらずイーラはピアーズの部屋で寝ている。
部屋ではサーシャとひとしきりじゃれつつ遊ぶ。最近、サーシャともあまり遊べていない。せめてと思って今日はブラッシングをかける。
猫のアネットは素っ気ない態度だったが、丁寧にブラッシングをしてやるとゴロゴロ喉をならした。
他の子たちも順番に撫でたりブラッシングをしたりする。動物は寿命が短い。あれから寿命で死んでしまった子も居たりして、その時は悲しかった。
ブラッシングが終わると、イーラはカーラから出された課題をこなす。
しばらく授業が休みということでいつもより課題が多い。
「勉強、頑張ってるみたいだな」
しばらくすると、ピアーズが部屋に戻ってきた。
イーラに気がつくと、いつものように頭を撫でられた。
「ピアーズ様、もう子供じゃないんですから、やめてください」
せっかく髪を綺麗にといたのにくしゃくしゃになってしまった。
言うとピアーズはくすくす笑う。
そうして、ひょいっとイーラを軽々と抱き上げた。
「相変わらず軽いな、ちゃんと食べてるのか?」
みんなには変わったと言われたのに、ピアーズには相変わらず子供に見えるらしい。
「ちゃんと食べてますよ」
「そうか?」
そう言いながらピアーズはイーラを降ろし、ベッドに腰かけた。
「それよりピアーズ様、カーラ先生がしばらく授業がお休みって言ってましたけど。なにかあるんですか?」
カーラ先生に言われたことを思い出して聞く。
「それにしても、喋り方が固くなって面白くないな。前みたいに呼び捨てでいいぞ」
ピアーズはイーラの言葉に、少し残念そうに言った。
「流石にそれはダメでしょう。カーラ先生にも怒られます」
イーラは真面目な顔をして言った。あれから色々勉強して、常識も学んだ。
今の状況がどれだけ特殊なのかもわかった。
友達のカイであればある程度大丈夫だろうが、流石にこの屋敷の当主に砕けた喋り方はダメだというのはイーラも色々学んだので分かる。
しかもピアーズは王の息子だ、あんな喋り方をするのは、いくらペットでも殺されても文句は言えないようなことだ。
「そうだ、授業がなんで休みになるかだったな」
「はい、なんでですか?」
「近々、兵を連れて国境にある砦に遠征に行くことになった。毎年の見回りと、最近危険なモンスターの目撃情報もあるから、その調査もしたい」
ピアーズが治めている土地は、グズート州という名前だ。とても広く土地も豊かだ、そして国の端にあり、人間の国との国境にも接している。
ピアーズが言っている国境はその人間の国と接している場所だ。
国境と言っても間に高い山脈があるので、そう簡単には行き来できない。それでも山が低くて手薄なところがあるので、そこに要塞を構えている。ピアーズは定期的に砦に不具合がないか遠征に行くのだ。
因みに、後から分かったのだが、イーラの前の主人はその国境を越えて密輸をしていたらしい。そして、ピアーズに見つかり追われたのだ。そんな経緯があって、イーラは拾われた。
「それが、私と何か関係があるんですか?」
遠征はたまにある。イーラはそういう時、いつも屋敷で留守番をしていた。
「ああ、イーラの魔法の技術も上がってきたし。今回は一緒に来て手伝って貰おうかと思って」
「一緒に?」
「ああ、今回はカイも来てもらうことになったし丁度いい訓練になる」
どうやら、初めてピアーズの仕事に付いて行くことになるようだ。
「仕事ですか」
「まあ、今回は簡単な調査を頼もうと思っている。危険なことはそうないから大丈夫だ」
ピアーズはそう言ってまた頭を撫でた。
「いつ出発ですか?」
「準備はほとんど終わっているから。明後日には出発だ。明日中に準備をしておけ」
イーラは急だなと思いながら「分かりました」と返事をした。
「ん、じゃあ。そろそろ寝るか」
ピアーズはそう言って伸びをしてベッドに入った。それに続いてイーラもベッドにもぐりこんだ。
それを見てピアーズは苦笑しながら言った。
「やっぱり、ここで寝るのか?部屋をやっただろ」
そうなのだ、あれからイーラも体が大きくなって私物も増えたのでピアーズはイーラに部屋を与えた。ベッドも勿論あるのだが、イーラは相変わらずここで眠っている。
「あそこだとよく眠れないんです」
そう言ってイーラはピアーズにピッタリくっついた。
「誰が、子供じゃないって?」
ピアーズはからかうように言って、また頭をぐしゃぐしゃにする。
「いいんです、私はペットなので」
部屋を貰ったのに、こんな我儘を言うのはよくないということは分かっている。ピアーズは王族でここの当主だ。普通は許されない。
でも、ピアーズは口では言うもののそれ以上は何もしないし、結局ゆるしてくれる。
それに、イーラがペットという立場は魔法が使えるようになって、仕事をするようになっても変わりはしない。
「おやすみ」
ピアーズがそう言って灯りを消した。
「おやすみなさい」
イーラもそう言って目を閉じた。
ピアーズが言っていた、遠征の事を考える。遠征に行くなんて初めてだ。というより、イーラがこの屋敷から長期間出ることが珍しい。
仕事なんだから、真面目にしなければならないのは分かっているが、少し楽しみになだ。
何より、ピアーズと一緒に行けるということが嬉しかった。
一人でだと上手く寝れないというのは本当だ。たまに、ピアーズが遠征に行って留守番をする時、いつも上手く眠れなくて辛かった。
もう一度、ピアーズにしがみついて顔を埋める。
そうして、明日の準備のことを考えているとイーラはいつの間にか眠っていた。
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