第17話 恐怖! ドスケベ触手スライム! ぴーっ!(僕スケベなスライムじゃないよ!)

「なるほど、このようなグリッチがまだ残っていたとは…」

 


 デバッグおにいさんが少しメニューバーをいじっただけで、私と瀬川クンの視界が共有させられる。

 


「名付けてカメラ共有グリッチってやつだ」

 


 私とデバッグおにいさんの視覚は今、瀬川クンのものと完全に同化している。

 


 身体は動くが、視界は瀬川クンなのだ。

 


 ふと自分の身体が見える。

 


 妙な感覚だ。

 


「えーと、御二方、ちゃんと見えてますかね」

 


 瀬川クンは確認をとる。

 


「うむ、バッチリだ」

 


 デバッグおにいさんの声に同調し、私も頷く。

 


「じゃあ、行きますよ!」

 


 さあ、羽ばたけ瀬川クン。

 


 少年の夢をその胸に抱いて!

 


 


 


 


 


     *

 


 


 


 


 


 ゆらゆらと、意識が揺らぐ。

 


 まるで四肢すら溶け落ちたような、水に溶けるような感覚。

 


 ───そんなことを考えていたところ、私川田ははっとする。

 


 そうだ、確かマイデザインガールと露天風呂に来て、それで…

 意識を集中し、脳を覚醒させる。

 


 ここはどこだ。

 


 まずは5W1Hの確認だ。

 


 いつ

 今

 


 どこで

 露天風呂で

 


 誰が

 私川田が

 


 何を

 不審者ムーブを

 


 なぜ

 可愛いガールに接近するため

 


 どのように

 水色幼女を助けるていで

 


 


 あれ、冷静に考えると相当やばくない? 私。

 


 いや、そんなことはない。ない…はず!

 


 


 とりあえず、次に今の状況を確認せねば。

 


 私はぼやけた視界の目を凝らす。

 


「あれ? おかしいな」

 


 しかし、いつまで経っても視界は晴れない。

 


 しばらくしてから、このぼやけた視界が、正しい視界だと理解する。

 


 そう、ここは水中なのだ。

 


 私のキャラクター特性を思い出す。

 


 私川田はスライムなのだ。

 


 スライムとなって、思うことがある。

 


 スライムは水に落ちたらどうなるのか。

 


 まず初めに、ほぼ液体状であるスライムの表面は、水分を外に出さないように膜な様なもので覆われていると考えられる。

 


 それに体液と自然の水では浸透圧も違うだろう。

 


 私の経験則から言えば、きっとスライムは水中でも元のスライムのまま、存在すると考えられる。

 


 だが、それは机上の空論に過ぎないのだ。

 


 そしてその思考実験は現在、実際に行われているのだ。

 


 その結果は、これだ。

 


「風呂全面スライム化していゆ…!」

 


 意識が完全に覚醒し、気がつくと、風呂全面私になっていた。

 


 


 そして私の中に美少女4人が入っちゃってるではないか!?

 


「川田さん、どこいっちゃったんだろう…」

 


「きっともうお風呂から上がってなにか召し上がってるんですよ、サキュ美さん」

 


「そうだよね…」

 


 アリ子とサキュ美の会話が聞こえる。

 


 まずい、バレる前に逃げなくては!

 


 しかし、大胆に動いては簡単にバレてしまう。

 


 ここは慎重に…

 


 アリ子は足の組み方を変える。

 


「ひゃう!?」

 


 突如、背筋に電流が走る!

 


 や、背中はないのか…

 


 


 とにかく、何かすごいのがきた。

 


 一体何なのだ。

 


 次に、金髪エルフ少女が唐突に手のひらにお湯をすくい、肩にかける。

 


「ひゃん!」

 


 じんじんと、痺れるような感覚が走る。

 


 間違いない。

 


 この湯一体私になっただけでなく、とてつもなく敏感になっているのだ。

 


 それもそのはず、普段スライムは半透明の粘膜に覆われている。

 


 その内側から動かれたら、このような感覚が走るのかと理解した。

 


 


 美少女に内側からまさぐられる感覚は、正直ちょっと痛い。

 


 痛いが、美少女補正により心地良さしか残らない。

 


 さらに、新たな発見がある。

 


 私は湯に入ってきた木の葉が自分の視覚から離れた位置で表面をひらひらと泳ぎ、くすぐったかったため、それを掴み、外に出す。

 


 その際に自動で視覚も動いたのだ。

 


 なんとこのお湯の中であれば、意識を集中させればどこでも触れるようだ。

 


 それに伴い、視覚も自由に動かせる。

 


 要約すれば、この湯の中では見放題、触り放題、感じ放題というわけだ。

 


 なんて天国なのでしょう!

 


 


 この能力で美少女のあられもない部位を眺め、触り放題なのだ…!

 


 あかん、普段から発想がエロおやじ過ぎて、使い道がR18な方面しか思い浮かばない…

 


 


 中学の時から私は女子とのスキンシップが好きだった。

 


 抱きついたり、キスしたりもした。

 


 向こうには性的な意味は無かったが、私はガッツリ下心ありましたよ。

 


 そんなしょうもないことを思い出していた。

 


 


 今はそんなことはどうでもいいんだ。

 


 私は知的好奇心から、少女に触れたい気持ちで胸がいっぱいだった。

 


 いざ、吶喊───

 


 


 


 


 


     *

 


 


 


 


 


 これは明らかに家のものとは違いました。

 


 わたしことアリスの家は、平民の中ではまあまあ裕福な方だと伺っています。

 


 しかし、これほどに広く、そして源泉という条件での風呂体験はまず家では味わえない。

 


 これははまりそう…

 


 つい、うとうとしてしまいます。

 


「きゃっ…」

 


 唐突に、右隣にいるエル子さんが触れてきます。

 


「エル子さん、どうかされましたか?」

 


「いえ、私は何も…」

 


 エル子さんはいつものごとくすまし顔をしていらっしゃいます。

 


 このようになんでもないような顔をしている時に限って、エル子さんはとんでもないことを考えていたりするので、逆に確信犯だろう、と思います。

 


 わたしは何かしらの仕返しをしてやろうと、悪巧みをします。

 


 横目で彼女をちらちら見ながら、何をしでかしてやろうか、検討します。

 


 


 そういえば気になっていたことがあったことを思い出したのです。

 


 それは、彼女の胸のことです。

 


 これは乙女的秘匿事項なのですが、実はエル子さんとわたしは、実は歳が一つしか違わないようです。

 


 大人びてますから、エル子さんはもっと歳上とばかり。

 


 ですがこれはこれ、エル子さんの乳です。でかいのです。

 


 


 明らかに一歳の差のそれではありません。

 


 公序良俗に反するそれを、わたしが懲罰せねばなるまいと。

 


 わたしはエル子さんの目を盗み、二つの丘へと手を伸ばします。

 


「さあ、お覚悟を…」

 


 しかし、触れようとしたその時でした。

 


 二つの丘が物理法則的に有り得ないように思える揺れ方をし、エル子さんの背中がびくんと跳ね上がります。

 


 


「あぁん…。アリ子さん、やってくれましたわね?」

 


 こ、これはいったい…

 


「や、わたしは何もしてませんが。冤罪です」

 


「そんなことありえ…ゃ…んっ…」

 


 またしても背中がビクンと跳ねると、次には内ももを擦り合わせ、まるで何かを堪えているかのようなしぐさをします。

 


「ほ、ほんとにわたしはなにもしてませんか…らぁ!?」

 


 突如として、鎖骨から下ほどから、全身を脚竜シキナキに舐められたかのような感覚に襲われます。

 


 あまりの擽ったさに、足を滑らせ、湯に頭を突っ込んでしまいます。

 


「しまっ…ごぼっ…」

 


 突然の事態にパニクってしまい、手足をばたつかせてしまいます。

 


 息が出来ない。

 


 


 前任の領王の死因は風呂での溺死でした。

 


 風呂で溺れるなどありえない、心のどこかではそう思っていました。

 


 


 しかし今日、その意味を理解します。

 


 人間、パニックに陥ると、冷静な判断が取れなくなる。

 


 誰か助けてくれないか。

 


 喉元を絞められるような苦しみから、自力で這い上がるという選択肢を忘れてしまいました。

 


 誰か…

 


 


 突如、私の上体は水面に浮上します。

 


「うぅ…げほっ…ごほっ…はぁ…はぁ…」

 


 突然、なんの前触れもなく、私は生還を果たしました。

 


 私は顔についたお湯を手で拭います。

 


 それにしても、温泉にしてはややねっとりしているような…

 


 いや、他の温泉に入ったことがないため、比べるのはあまり良くないでしょう。

 


 それよりも、さっきのおかしな感触についてです。

 


 手で拭ってひらけた視界。

 


 辺りを見渡します。

 


「な、これは…」

 


 そこには、先程と変わらず温泉に浸かる皆の姿がありました。

 


 しかし、様子がおかしい。

 


 みな下を向いて、何かに耐えているようでした。

 


 


「あぁん…♡ きたきたきたきたぁ…!」

 


 惚け、口を開け、全身をビクビクと震えさせながら悦に浸っているサキュ子さんの態度を見て、全てを察しました。

 


 ああこれ、サキュ子さんの得意なやつや。

 


「お、おねえちゃん怖い…なにか来る…来ちゃう…」

 


「だ、大丈夫よ。気持ちを強く持ちなさい。そうすれば大人の階段をんひぃ!?」

 


 サキュ美、サキュ子さんの会話を聞いていると、何か悲しくなってきました。

 


「───」

 


 エル子さんもまた、声には出していませんが、耐えている様子です。

 


 時折ピクピクと震えているようです。

 


 足や腕をばたつかせているように見え、なにかの力に拘束されているようにも見えます。

 


 


 それと、この現象は恐らく、わたしもターゲットのはず。

 


 早いところこの湯船から上がらねば。

 


「───っ!」

 


 瞬間、私の身体を貫くような感覚に囚われます。

 


 これは、先程の生易しい感触ではなく、兄の稽古の際に感じるような強い揉みしだかれる感覚。

 


「き、気持ち悪い!」

 


 


 めちゃくちゃくすぐったいです、これ。

 


 早く逃げなければと思い、立ち上がろうと───

 


「な、なんです、これ!?」

 


 両手両足に海藻が絡んだかのように、身動きが取れなくなっているではありませんか。

 


「ひ、ひぃ…あは、あはははははは!」

 


 い、息が…。

 


「精霊───憑依───」

 


 エル子さんがポツリと呟きます。

 


「やはりこの温泉…魔物が…───っ!」

 


 俯き加減だったエル子さんはなにか呟き、背筋は突如ピンと伸び、仰け反り、震えると、それ以降は動かなくなりました。

 


 誰か…助けを…

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