第16話 悪夢

また僕は夢を見ていた。

僕は大きな砂時計の中に閉じ込められ、小さな粒達が徐々に僕を侵していった。

砂時計から脱出する術もなく、一人の女が目の前で特等席を作り微笑んでいた。口元だけで顔までは見えない。


いつか見たその微笑み。

「逃げられないのよ」

いつか聞いた気がする声。


「あの時のデートは素敵だったわ。だからお礼にコレを用意したの」

理解不能な言葉を目の前の女は言い続けた。

『何を言ってるんだ!』

胸元まで来た砂に体の動きを封じられながら叫ぶ。

女はあいかわらず微笑む。

「貴女が欲しがってた一番のモノをあげるわ」

女はゆっくりと脚を組み替える。

「ゆっくりと全てを受け入れていけば楽になれるわ」

息ができるかどうか身動きできるかギリギリのラインまで砂が迫る。ジャリジャリと口の中で嫌な音を立てるのを関係なくもがく。


「ほら…貴女が欲しがってたモノがもうすぐ手に入るわ」


「貴女が前に見た夢のようには優しくできなくてごめんなさいね?」


呼吸を奪われ、薄れていく意識の中、僕はその声を聞きながら柔らかな風を思い出していた。誰かの手をとって、言葉に頷いて…

そして口に広がるマドレーヌとジャラジャラと山をなす苦い薬達…


「貴女を愛しているわ」


そこで夢が途切れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る