第6話 神の進撃

「ワッハッハー!」

 神様は人間界に留まっていた。

「なぜ俺が神様に付き合わないといけないんだ!?」

 神の使途にされてしまった碧は神様の人間観察に付き合わされる。

「そういうな。私と一緒に道を歩けることを誉に思えよ。ワッハッハー!」

「そういうのが傲慢って言うんだよ。」

「え!? これ私の普段通りなんだけど!?」

 初めて自分は傲慢だと知った神様。

「悔いを改めよ。」

「はは~、人間様・・・・・・なんでやねん!?」

 まだまだ悔いを改める気はない神様。


「おい、人間。あれはなんだ?」

 神様は道端の赤い郵便ポストを指さす。

「あれは郵便ポストです。」

「郵便ポスト?」

 神様は郵便ポストを知らなかった。

「手紙や封筒を宅配するために集めるものですよ。」

「ほお~それは不便な。」

「はあ!?」

 神様は郵便ポストを不便だと言い放つ。

「便利じゃないですか? どこが不便なんですか?」

「私ならこうだ。ハガキよ宛先に飛んでいけ! ワープ!」

 ハガキは一瞬で送り先にたどり着いた。

「どうだ! 見たか! 神の力を! ワッハッハー!」

 自分の力を見せびらかす神様。

「やめいー! 人間界の法則を揺るがすな! おまえ人間のことを知りたくなったんだろ? だから人間界にいるんじゃないのか! 勝手なことをするなら天界に帰れ!」

 神様は理解不能な人間に興味を感じた。

「すまん! 私が悪かった!」

「分かればよろしい。分かれば。」

 人間界では神様も人間に謝る。


「では、次にあれは何だ?」 

 神様が碧に質問する。

「あれは電信柱です。」

「電信柱?」

 神様は電信柱を知らなかった。

「あの電線には電気が流れていて、各家庭やビルに電気を送り届けるための柱です。」

「ほお~、それは不便な。」

「まさか!? また難癖をつける気ですか!?」

 さすがに2回目になると碧も警戒する。

「難癖ではない神の進言である。ありがたく受け取るがいい。」

 また神様は何か仕掛ける気である。

「私ならこうだ! 都会の電線は多すぎるので全て地底に埋めてしまおう! フィル!」

 神様は電線を地底に埋めてしまった。

「どうだ? 青空が眺めやすくなったではないか! ワッハッハー!」

「まともだ!? あの神様が電線の地中化を推し進めるなんて!?」

 邪神と思っていた神様が人間の取り組んでいるのと同じ事業を神の力で一瞬で行ってみせた。

「どうだ! 見たか! 神の力を! ワッハッハー!」

 自分の力を見せびらかす神様。

「すごい! さすが神様!」

 碧は素直に神様を褒めたたえた。

「そうだ! 私は偉いのだ! もっと褒めたたえよ! ワッハッハー!」

「褒め過ぎるのもダメだな。完全に悪乗りしている。」

 神様の扱いは難しかった。


「おい、人間。あれは何だ?」

 神様は銀行を指さして尋ねた。

「銀行です。人間がお金を預けておく場所です。」

 碧は銀行について答える。

「ほお~、それは不便な。」

「嫌な予感しかしない。」

 碧は展開に慣れてきた。

「私ならこうだ! さあ! 人間よ! 好きなだけお金を拾うがいい! マネー!」

 神様は街中に大量のお金をバラ撒いた。

「お金だ!」

「お金よ!」

「拾え! 拾え!」

 人々は神様がバラ撒いたお金に群がった。

「どうだ? 人間が喜んでいるぞ! 私は良い行いをしたのだ! ワッハッハー!」

 純粋な神様は人間にとって良い行いをしたと思っている。

「やめて下さい!? 努力もしない人間にお金を配ったら、労働と対価、インフレとデフレのバランスが狂ってしまいますよ!?」

 碧は神様にお金をバラまくのをやめさせる。

「安心しろ。あれはニセ札だ。」

 親指を立ててやってやったという顔をする神様。

「それでも神様かよ!?」

 碧は神様の相手をするのが嫌になっていた。

「私は神だ! 偉いのだ! ワッハッハー!」

 一枚上手の神様であった。


「あれは何だ?」

 神様は碧に尋ねた。

「もう何もしないでください。神様。」

 碧は神様の質問に答えたくなかった。

「まあ、そういうな。私は神だ。私は偉いのだから仕方がない。ワッハッハー!」

 神様は心を入れ替える気はない。

「無念・・・・・・。」

 人間が神様の横暴に合わせるしかないのであった。

「さあ、答えてもらうぞ。あれは何だ?」

 神様は店を指さして尋ねる。

「あれは武器屋です。」

「武器屋? 街中に武器屋とは物騒な。」

「あんたが現代世界に異世界ファンタジー化したからできたんだろうが!?」

 その通り。原因は神様にあった。

「そうだっけ? アハッ。」

 笑って誤魔化す神様。

「人間の体を鍛えるには限界がある。どんなに鍛えてレベルが上がるといっても人間には限界があるのだ。武器でしか強くなれないとした方がいいのではないか?」

「そうか!? レベルで物事を謀るから戦闘力がインフレして、もう強いのを描けないから終わってしまうのか!? それなら新しい秘密道具や武器を登場させて、人間自体はレベルアップさせなければいいということか。」

 神様の思考に碧は共感した。

「その通りだ。」

「さすが神様! あんたは偉い!」

「やったー! 褒められた! その通り! 私は偉いのだ! ワッハッハー!」

 やはり神様でも褒められると嬉しいのだった。


「おい、あれは何だ?」

 神様は碧に質問する。

「警察です。」

「警察?」

 神様は警察を知らなかった。

「悪いことをした人間を捕まえる所です。」

「おお! そうか! なら、おまえを捕まえてもらおう!」

「なんでやねん!?」

 神様は本気で碧を警察に引き渡そうとする。

「だって神である私に楯突いたのだから逮捕してもらわないとな。」

 碧の罪は神様反逆罪である。

「お許しください!? 神様!?」

 神様に許しを請う碧。

「ワッハッハー! もう私に歯向かわないと誓うか?」

「それは無理。」

 きっぱりと断る碧。

「神様こそ、邪神なんですから警察に逮捕してもらいましょう。」

 今度は逆に碧が神様を提訴した。

「なに!? 神である私を逮捕するだと!?」

 罪状は人間侮辱罪である。

「許してくれ! もう人間のことを見下したり、下等生物とか言わないから!」

「おまえ、そんな風に人間のことを思っていたんだな。」

 神様に呆れる碧。

「やっぱり交番に突き出してやる。素直にお縄につけ。」

「お世話になります。」

 今度の罪状は人間見下罪。

「勘弁してください!? 人間様!? 私が悪うございました!?」

 神様は人間に謝るしかできなかった。

「でも私は偉い神様であるぞ!」

 あくまでも最後の一線はプライドで守る神様であった。


「碧! 遊ぼう!」

 恋が遊びにやって来た。

「ゲッ!? 恋!?」

 碧は神様の姿を恋に見られて焦っている。

「乙女にゲッて言うなー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 恋の攻撃が碧に炸裂する。

「おお! 忌々しい人間を一撃で粉砕した!? なんて素晴らしいんだ!」

 神様は恋に一目ぼれする。

「あら? 珍しい。お客さん?」

 恋は神様に気がついた。

「あの、私は地球神アースと申します。」

「変わった名前ね。帰国子女かホームステイ?」

 鈍感な恋には相手が本物の神様だとは思わない。

「私は神様をやっています。」

「ああ~、異世界ファンタジーごっこで神の役をやっているのね。大変でしょう? 碧の小説なんかに付き合わされて。」

「はい! その通り大変です!」

「おい!?」

 恋と神様の話はかみ合わない。

「おい、人間。」

「なんだよ?」

「お前の名前は碧というのだな。初めて知ったぞ。」

「今まで知らなかったのかよ!?」

「いいや。覚える気がなかっただけだ。」

 神様は自由奔放であった。

「あの、あなた様のお名前は?」

「恋だけど。」

「恋! なんて良い響きなんだ!」

 神様は恋を気に入った。


「ドキドキ!」

 神様の胸の鼓動が激しさを増していく。

「おい、人間。」

「俺の名前は碧だ。覚えたんだろうが。」

「私が覚えたのは恋さんの名前だけだ。おまえは人間だから人間だ。」

「差別だ!?」

 いつまでたっても碧は人間から昇格されない。

「ドキドキ!」

 恋を見つめる神様は顔が赤らみ動悸が激しい。

「置い人間、私の体が熱っぽくて、心臓がドキドキするんだが、これはどういうことだ?」

「病気ですな。」

「病気!?」

「そう、神様は普段天界にいるだろう。だから人間界に神様がいたら、どんどん体が腐っていくのさ。」

「なんだって!? そんな恐ろしい病気があったのか!?」

 神様は碧の言葉を信じて、自分は病気だと信じ込んでいる。

「そうだ。神様、命が無くなる前に天界に帰れ。」

「もう私の命は後少し。どうせなら恋さんの側で死にたい。」

「ストーカーかよ!?」

 神様は恋への執着から天界に帰ることを拒否した。

「大丈夫? 神様さん。」

「はい! 大丈夫です! 例え、この命が尽きようとも恋さんに私の命を捧げます!」

 神様は恋にゾッコンであった。

「ごめんなさいね。私は碧が好きなの。」

「ガーン!?」

 神様は恋にフラれた。

「やっぱり人間を殺す! 皆殺しだ!」

 八つ当たりを始める神様であった。


「私は天界に帰る。」

 恋にフラれた神様は天界に帰ることにした。

「おお! やっと帰ってくれるか! 神様!」

 碧は大いに喜んだ。

「神様も病気には勝てなかったということだ。」

 いいえ。ただの恋煩いです。

「だが帰るその前に、おまえに私が病気で寝込んでいる間の神様をやってもらおう。」

「なに!? こんな所で新展開をぶっこんでくるのか!?」

 無茶ぶりな展開に驚く碧。

「良いではないか。おまえは神を超える者で、神である私の友達だ。」

「友達!? 俺が神様の!?」

 やっぱり碧は神様にお友達認定されていた。

「そうだ。人間。おまえに人間のことを頼んだぞ。」

「でも、あれだけ嫌っていた人間を助ける気になったんだ?」

「人間の中には助けなければいけない人間がいるということを知ったのだ。」

 あれだけ異常気象を操り自然災害で人間を苦しめていた神様が人間を守ろうとする。これも全て、恋に恋をしたからである。

「それで失恋して天界に帰るのか?」

 少し呆れる碧。

「そうか!? 私の病気の名前は失恋というのか!? きっと不治の病だ!? 偉い神すら病にしてしまうなど不治の病に違いない!?」

「おまえの存在が不治の病だよ。」

 人間のことをあまり知らないカワイイ神様であった。 


「ということで考えようか。私がいなくなった世界で、おまえが地球を守れる方法を。」

「守るって、何から地球を守るのさ?」

 あくまでも神様は碧を神代行にするつもりである。

「宇宙人!」

「宇宙人!?」

 碧の敵は宇宙人らしい。

「そうだ。地球侵略を目論む強力な宇宙人がたくさんいる。」

「それはトラウママンにお願いしてください。」

「チッ。」

 碧は宇宙人との戦いを断った。

「それなら宇宙で生まれて宇宙艦隊を作って、地球に帰って来るために侵略してくる元人間の宇宙人はどうだ?」

「宇宙戦艦トマトか、銀河ヒーロー伝説ですか?」

「アイツらは宇宙で人型ロボットも扱うぞ!」

「機動戦士マンダムもお断りです。」

「チッ。」

 熱く語る神様のアイデアは却下される。

「それなら悪の秘密結社ヒーヒーはどうだ? アイツらは改造人間の怪人を作って人類征服を企んでいるぞ!」

「昆虫ライダーに改造されるのは嫌です。」

「チッ。」

「なら5人でチームを組んで戦うのはどうだ?」

「戦隊ヒーローもお断りです。」

「チッ。」 

「なら何となら戦うのだ? 楽器大魔王か? それとも冷蔵庫と戦うのか? 分かった! おまえ海賊王になりたいのか?」

「俺は普通でいいです。」

「チッ。面白くない。」

「面白さで決めるな!」

 偉い神様のアイデアは全て却下された。


「俺は普通でいいです。楽しいことも辛いことも全て受け止めて、マイペースで気楽に生きる。そんな人間でいたい。」

 碧は今まで生きてきた生活のままでいいという。

「つまらん。おまえの神を超える力があれば、世界征服でも、銀行強盗でも、女の子100人のハーレム生活ができるんだぞ!? おまえに欲というものはないのか?」

「しんどい。面倒臭い。」

 これが欲のない現代人の価値観である。

「俺は俺のままでいい。誰にも迷惑をかけたくないし、迷惑をかけてもらいたくない。」

「つまんない。優等生過ぎて。」

 碧は平和に暮らしたいだけであった。

「ただ、俺に危害を加えた者には、俺から相手に危害を加える権利を与えたということですから、3倍返しでお返しします。」

「おお! いいぞ! 人間らしくなってきた!」

 神様は人間らしい本能剥き出しの闘争心が好きであった。

「この神様じゃ、地球から争いが無くならない訳だ。はあ・・・・・・。」

 呆れる碧であった。

「いいだろう。おまえに神の秘密兵器を与えてやろう。」

「要りません。今でも俺神様を超えているので。」

 あくまでもクールな碧であった。

 つづく。

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