プロローグ3 初登校は見たこともない数で、
学校のある最寄りの駅でおりると、後ろから声をかけられ肩をたたかれた。
「ちーちゃん! おはよう」
緩く編み込まれた長い髪を揺らし優しそうな笑みを浮かべるその女の子は、
少し背の高い彼女は、どことなく大人びてみえる。
上級生かと見間違えるほど、制服姿が似合う彼女は千歳の幼い頃からの親友である。
「おはよ! はなちゃん」
挨拶を返してまじまじと彼女を見返すと、千歳はわざとらしくため息をついていた。
「はなちゃんて本当。可愛いよね、私なんてこの制服に違和感しかないのに」
着なれたように真新しい制服を着こなす葉菜の姿とは対照的な自分の姿は、ホームの鏡で確認するまでもなく理解している。
「そんなことないよ。ちーちゃん似合ってるよ? すっごく可愛い。あ、前髪切ったんだね。可愛い」
優しく笑いかけてくる彼女は、やはり綺麗だと思う。容姿もさることながら、友達の些細な変化を称賛してくれる姿は昔から変わらない。いつも笑顔で優しさの塊のような美少女、それが美咲葉菜なのだ。
「私だってちーちゃんに憧れるところ沢山あるんだよ? 小さくて可愛くて、綺麗な二重だし。それにいつも笑わせてくれる」
彼女の言葉にはいつも優しさがあり、千歳は心をゆるせる親友の顔を見ながら、またわざとらしく苦笑いで言葉を返した。
「小さいのは悪口でしょ? 笑われてるだけじゃんか、それ」
軽口を返しながらも、安心できる友達と一緒に登校する瞬間に千歳は安堵していたのであった。
「悪口じゃないよ? ホントにちーちゃんはいつも楽しいこと見つけてくるし……あ、そうだ中学の時の体育祭のときとか!」
「いやいや、あれはそのままを伝えただけじゃんか」
特異体質を知るのは両親以外だと彼女だけだ。
幼稚園の頃からの友達で彼女はいつも私の話を楽しそうに聞いてくれたのだ。見たくもないものが見える事に悩んだとき、一番心配してくれて何でも受け止めてくれた。
彼女の存在がなければ今のように冗談で笑い会うような日々は来なかったと思う。
「でも、まぁ、ありがと。はなちゃん」
照れながら言葉を出した千歳は本心を伝えられる親友と共に歩ける日々に感謝していた。
ちなみに体育祭の話しというのは、グランド一面にいる霊凍のダンゴムシやらバッタやら虫達が、スピーチを始めた校長の顔めがけて飛び回ったという話だ。
「でもさ、同じクラスで良かったよね。私結構人見知りなトコあるし、ちーちゃんと一緒でよかったよ」
いっそうと笑顔を向ける葉菜に、それは自分のほうだといいかけ校門に向かっていた。
「待った!」
「え?」
「一応ね。一応」
口にした彼女は校門に向かいあい、おもむろに両手で自分の耳をふさいだ。
「あー、結構すごい……かも」
彼女の視界には校門から見える学校と登校する制服姿の生徒達。そして。
隊列を組み行進する大勢の兵隊と、おびただしい数の虫や小動物を捉えているのだった。
「ちょっと入るの抵抗あるな……」
千歳はまたしても苦笑いで呟いた。
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