第141話:縁は異なもの転がるもの⑥


 「先日捕らえた魔法生物連続誘拐事件の犯人が、報酬と引き換えに雇われた相手を覚えていなかったことはご存じかと思います。

 そしてカナンさんをはじめとする解放した皆さんの中にも、捕まった当初の記憶が欠けている方がおられる、ということも」

 そう。現行犯逮捕の上に人質という名の証人が山ほどいるわけで、もうあとはスピード解決だろうと思っていたら、そうは問屋がおろさなかったのだ。

 事情聴取は犯人だけでなく被害者のみんなにもちゃんとしてもらったんだけど、その中に何割か、誘拐されるに至った経緯を覚えてないひとたちがいた。中でもカナンさんは特に強烈で、『水から上がって変化して、イオンに行ってきますしたと思ったらもう洞窟の中だった』というレベルで完全にすっぽ抜けていた。頭を打ったような形跡もなかったし、いくらなんでもこれはおかしい。

 「イオンに声かけて、天泪露で巨大化した上でうちの街に進撃するようにそそのかしたのもあいつだったんでしょ? やっぱり」

 「ええ、その点についてはしっかり覚えていました。しかし自分が何かしらの記憶操作を行ったわけではない、とも断言していますね。見抜く力のある皆さんと確認しましたので、全くの嘘ではないはずです」

 「……では、あやつの背後にいる何者かの仕業、ということに?」

 「そうと見て間違いないでしょう。そしてもう一点、こちらはイブマリー嬢と『紫陽花』の皆さんにお聞きしたいのですが――これとよく似た事案、以前にもありませんでしたでしょうか」

 「え、前って――、あっ!!」

 「そういやティノくんが言ってた! なんでこっちきたか覚えてないって!! ねっ」

 『うんうん! 山でそういうはなしした!!』

 真っ先に思い出したわたしに続けて、リラが勢い込んで訊ねると雷獣さんも元気にうなずいてくれた。

 何だかもうずいぶん前のように感じるけど、実際は二週間程度しか経っていない。ヴァイスブルクに向かって旅立った日、飛竜とバトルになって倒したと思ったら、それが幻影をかぶって変装? したティノくんで。焼きとうもろこしの匂いにつられて起きてきた後、わたしたちの質問に応えてこう言ったのだ。急にこっちに来なきゃと思った、何でなのかはわからない、と。

 しかし、あんまり考えたくはないけど、そういう共通点があるってことは……

 「どのような儀式を行うのか、現時点で詳細は一切不明です。ただ確かなのは、攫われた魔法生物の皆さんが、そろって高い魔力を持っている種族ばかりだということ」

 「雷獣は一度でも会えたら幸運に恵まれる、という言い伝えが出来るほどの珍しい種だ。生まれ持った力も凄まじいものがある。……何らかの方法で、ここまでおびき寄せようとした可能性は高いと見ていい」

 「もし暗示の類だとすれば、だけど。ああいった系統の術は成獣より、まだ自我がはっきりしていない幼い個体の方が効きやすい。おちびさん、相当危ない所だったかもしれないよ、君」

 『きゃーいやーっっ!!』

 「だああっちょっと待てオレの首に巻き付いて放電すんじゃねえ!!」

 「てぃ、ティノくーん! 大丈夫だから! とりあえず落ち着こう、ねっ」

 口々にヤバかったかもしれない過去を指摘されて、軽くパニックになったティノくんがアルバスさんにしがみ付いてぴりぴり放電し始めたのであわてて回収した。あ、ちょっと髪の毛焦げてる……

 じゃあ、あそこでバトルして気絶して、わたしたちに保護されたから助かったってことになる、のかな? 生得魔法の使い方を練習できてラッキーくらいに思ってたけど、そのおかげでティノくんにも良いことがあったんなら御の字だ。よかったよかった。


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