第2話:目覚めたら負け犬令嬢②


 そのゲーム、『エトワール・クロニクル』(通称エトクロ)というのは、ちょっと異色の恋愛シュミレーションものだった。

 基本はファンタジーな世界観で、主人公が恋と冒険を通して成長していくいわゆる『乙女ゲーム』というやつなのだが、最大の特徴はストーリーが超ド級に重厚だってことだ。メインキャラの生い立ちとか性格だけでなく、世界観から周辺各国の情勢、それぞれの持っている歴史、文化や風土の特徴などなど、とにかく綿密に設定が盛り込まれている。

 さらにRPG方式でレベル上げ、主人公が属することになる陣営の指揮なんかも出来、戦闘の結果でストーリーが変わってくる。うっかり選択をミスると、落としたいキャラといきなり死に別れる、なんてこともあったりする。そんなシビアなシステムとがっちりした背景設定があいまって、大河ドラマも真っ青のめっちゃ複雑な作りになっているのだ。

 当然やり込み甲斐があって、友達にイチオシされて遊びはじめたらあっさりハマってしまった。今や立派に推しまでいたりする。……ただし、攻略対象の誰かではないけど。

 「……うーん。こうやって直に見ると、ホントきれいな顔してるなぁ。この子」

 誰もいないのをいいことに正直につぶやいて、自分のほっぺをぷにぷに引っ張り、ついでににこっと思い切り笑ってみる。完全なる現実逃避だが、もちろん鏡の中の超絶美少女も同じ仕草を返してくるわけで。

 「う゛っ……!」

 思わずうめいて口元を覆ってしまった。なんだこれ可愛すぎる。

 この、何故かわたしのガワになってる彼女、デフォルト名だとアンリエット。もちろんエトクロに登場するキャラクターの一人であり、プレイヤーの協力者にしてライバルであり、ついでにわたしの推しキャラである。

 長いサラサラの銀髪と明るいすみれ色の瞳がきれいで、バランスよくいろんな魔法を覚える万能型。ついでに言うなら攻略対象のひとりである王太子レオナールの婚約者という、若干設定盛りすぎじゃなかろうかってくらいに完璧な子だ。しかも実家は侯爵家だし。

 ただ、大抵の乙女ゲームのライバルと同様、主人公の恋が実ることイコール彼女の失恋なわけで。そしてエトクロの場合、そこからの転落っぷりが凄まじい。

 (婚約破棄はまあいいとして……いや、良くはないけど、そのほかに不幸が重なりすぎでしょ)

 ついついいつものクセで頬を膨らませると、鏡の中でも以下略。元の顔立ちがきれいだと、そんな表情をしても断然可愛いのがズルい。


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