11月 November

第54話 『男言葉で綴ったら自分の思いがそのまま書けるかもしれないと思って書き始めた俺の自転車ライフ』 風の子ふうこさん

〇作品 『男言葉で綴ったら自分の思いがそのまま書けるかもしれないと思って書き始めた俺の自転車ライフ』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927862650713869

 

〇作者 風の子ふうこさん


【作品の状態】

 連載中。エッセイです。


【作品を見つけた経緯】

 柊圭介さんのレビューを拝読したのと、タイトルに惹かれて読んでみようと思いました。


【ざっくりと内容説明】

 作者さんは自転車競技やレース出ていた選手の方です。そのため自転車を中心としたお話が語られています。


【感想】

 最初にこの作品を知ったのは、柊圭介さんのレビューきっかけですが、読もうと思ったのは「男言葉で綴ったら自分の思いがそのまま書けるかもしれないと思って――」というタイトルにぐっと引き込まれたからでした。


 作者さんは女性ですが、中を読んでみると本当に男言葉で語られており、時折女性であることを忘れてしまいます。(とはいっても、普通の会話では男性でも「~だぜ」とか「~じゃねえかな」は話さないと思いますが)


 このエッセイを読んでいると、作者さんが自由に心地よく文章を書いているのが分かります。もしかすると世の中に漂っている、「男はこうである」「女はこうである」という枠からはみ出ているからこそ、尚更そう思うのかもしれません。


 それにしてもカクヨムで男言葉――というのは、いいアイディアですね。

 もし、作者さんが対面で男言葉で話していたら「え?」「どういうこと?」となってしまうかもしれませんが、この、文字だけの世界でならばそんなことは関係ありません。例え性別が女性でも、主語を「俺」と書いていれば、読み手は「この人は男の人だ」と思うでしょうから。


 勿論文字にも、それによる支配はあります。「俺」=「男」と普通は思うことでしょう。しかし人々が持っているある決まりごとを逆手にとれば、女性でも男性のように振舞えるということです。(とはいえ、これは日本語の特権ともいえますが<笑>)

 ゆえに、作者さんが男のような態度で自分を語るというのは面白いなと思います。


 それからこの作品を語る上で大切なのは、「自転車」の話です。

 作者さんは、学生のときから三十年間、自転車競技やレースに参加なさっていたようです。選手だったということですね。


 自転車レースというと、私は『茄子 スーツケースの渡り鳥』という作品を思い出します。私は自転車のレースのことはちっとも分からないのですが、この作品だけはとても好きで、何度も繰り返し見ています。


 折角なので、簡単に内容を説明しますね。

『茄子 スーツケースの渡り鳥』は、サイクルロードレースの話で、主人公のペペ・ベネンヘリが所属するチームはジャパンカップサイクルロードレースに参加するため、日本に渡ります。しかしチームは勝っても負けても解散することになっていて、ペペを始めメンバーは今後をどうするのか考えながらレースに臨まなければなりませんでした。


 彼らの様子を見ていると、自転車のレースに出ることへの「意味」を問う場面が何度も出てきます。「自転車で走ることしか能がないから続ける」とあっけらかんと言うペペに対し、仲間のチョッチは自分の憧れだった選手が自殺してしまったことで、競技への過酷さを突き付けられただけでなく、向かうべき目標が無くなり、どうしたらいいのか思い悩みます。


 好きなことを追い続けることというのは、難しいなと思います。特にそれによって勝敗がついたり、お金が絡んできたりすると苦しくなることもあるでしょう。しかし、誰かと競ったり表舞台に立つからこそ、観ている人々に感動を与えたり、興奮させたりと、心を動かすことができるともいえるのだと思います。


 作者の風の子ふうこさんも、きっと選手として色んな苦悩をしてきたのだと思います。また年齢によって、自分の求めているレベルに追いつかなくなっていく自身のことを書き綴っているなど、自転車と歩んできた人生は上手くいかないこともあって、きっと色んな人が共感できる内容ではないでしょうか。


 しかし、作者さんの凄いところはただでは諦めないこと。彼女の経験してきたことが、今度は誰かを救っているのも凄いなと思いました。

 作中のタイトルの中に『一緒にライド』というのがあるのですが、私はこの話が特に印象に残っています。引きこもりの子が、自転車を通していい方向へ変化するところがとても驚きだったのですが、同時にとても嬉しい気持ちになりました。


 私は、人生の中でほぼシティサイクル(ママチャリ)しか乗ったことがありませんが、自転車を乗っているときの風の心地よさは分かります。上り坂を必死に上ったのち、坂道をすーっと降りていくときのあの開放感。とても心地いいです。


 もしかすると塞ぎこんでしまった人も、風の子ふうこさんのような人と出会うことで、自転車の「気持ちよさ」に気づき、嫌なことではなくていいことや、楽しいことに気づいていけるのではないかと思ったりしました。


 取り留めのない紹介文になってしまいましたが、自転車の風を感じることのできるエッセイです。塞ぎこんでいた気持ちも、男前で明るい風の子ふうこさんのお話を読んだら、吹き飛ぶかもしれませんよ。


 今日は『男言葉で綴ったら自分の思いがそのまま書けるかもしれないと思って書き始めた俺の自転車ライフ』をご紹介しました。

 それでは次回、またお会いしましょう。

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