2
「ふーん…、で、勢いで襲っちゃったわけだ?」
襲ったって…、そんな言い方しなくても…
『潤一さんが悪い』
あんなDVDを翔真さんに貸したりするから、だから…
「まあね…、潤一もお節介が過ぎると思うけど、何も襲わなくても良かったんじゃない?」
だから!
俺は襲ってねぇし…!
「まあ…、分かんなくもないけどさ…、その…早くそういう関係になりたい、って気持ちって言うかさ…。でもさ、焦る必要はないんじゃない?」
『俺は別に焦ってなんか…』
確かに、翔真さんと“そういう関係”になりたいとは思ってる。
でも今すぐどうこうとか…、焦る気持ちなんてない。
「そっか…、うん、そうだよな…」
妙に納得した風で、両腕を組んでウンウンと頷く雅也さん。
多分雅也さんは、俺よりもずっと翔真さんの今の心境を理解してるんだと思う。
雅也さんも翔真さんと同じ…、潤一さんと付き合う以前は、女の人しか愛せない種類の人だったから…
『雅也さんも最初は怖かった?』
「俺? 俺は…そうだな…、怖くなかった、って言えば嘘になるかな…」
やっぱそうなんだ…?
「でもさ、潤一が凄く優しくしてくれたから、不思議と安心出来たかな…」
『潤一さんが?』
意外だった。
だって俺の知ってる潤一さんはもっと強引で、そういうことに関してガツガツしてそうな印象しかなかったから、まさか優しく出来るなんて…正直思ってもなかった。
人って見かけによらないんだな…
「だからさ、桜木さん…だっけ、どんな答え出すか分かんないけどさ、智樹は安心していいんじゃない? それにあの人、智樹が思ってる以上に、智樹のこと好きだと思うよ?」
そう…なのかな…
俺には分かんねぇや…
「だってそうじゃなかったら、わざわざ有休取ってまで智樹と旅行行こうなんて、普通思わないでしょ?」
えっ…?
『何の話し?』
首を傾げる俺を見て、雅也さんが咄嗟に「しまった」って言って口を手で塞いだ。
「聞いて…なかったの?」
うん…、何も聞いてないよ…?
つか、何で雅也さんが翔真
さんの予定知ってんの?
翔真さんからの連絡はないまま、窓の外が明るくなって…
いい加減寝ないとヤバいか…
結局一睡も出来ないまま、俺は朝を迎えた。
俺はスマホを手にベッドに入ると、全く眠気の来ない瞼を閉じた。
いつもなら、どれだけ眠たくなくても、ベッドに入った瞬間に眠れるのに、どうしてだか全然眠れなくて…
ギュッと瞼を閉じて思う…
いつの間にか、時間なんて関係なく翔真さんが寝がけにくれる「おやすみ」の、そのたった一言が、俺にとってまるで魔法の呪文みたくなってたんだな、って…
はあ…、ダメだ、寝れねぇ…
シャワーでも浴びて来るか…
俺はベッドの上に起き上がると、全く鳴る気配のないスマホを枕元に置いた。
ハンガーにかかったままのバスタオルを引っ張り、プラスチックケースの中から着替えを出す。
その時、ともすれば聴き逃してしまいそうな小さな電子音が鳴って、スマホが短く震えた。
もしかして…!
俺は急いでスマホを手に取ると、すぐ様メッセージアプリを開いた。
翔真さんかもしれない…、なんて淡い期待を抱きながら…
でもスマホの画面に表示されたのは翔真さんの名前ではなく、潤一さんの名前で…
何で潤一さんが…?
内心訝しみながら、潤一さんからのメッセージをスマホに表示させた。
『桜木、風邪引いて熱あるみたいだから、覗いてやってくれる?』
え…、翔真さんが…?
この間の晩、裸で寝たりしたから…?
俺は『分かった』とだけメッセージを返すと、シャワーを浴びるのは後回しにして、スマホと財布だけを手にアパートを飛び出した。
自転車に跨り、強い陽射しが降り注ぐ中を汗だくになってペダルを漕いだ。
途中コンビニに寄って、レトルトのお粥や、プリンとかゼリーとか?
食欲がなくても喉を通りそうな物を、片っ端からカゴに投げ入れた。
あ、飲み物とかも必要…か…?
あとは…、なんだ…
俺は思いつく限りの物を買い込み、ズッシリと重い袋を自転車のカゴに載せると、再びペダルを漕いだ。
道なんて、良く覚えてないのに…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます