第257話 オタデブ、色々疑問を晴らす
「黒井、日本にダンジョンがあるのか?」
アイテムボックスに引き込んだサイゾーは、開口一番にそう俺に尋ねてきた。
やはりサイゾーは頭が切れる。
この前、別れ際に洩らした冒険者免許なる言葉から、その結論まで辿り着いたのだ。
「あるぞ、新宿を中心として東京の地下は、ほぼほぼダンジョンンだと思って良い状態だ」
「マジか……経済活動に悪影響が出てるんじゃないのか?」
「出てるな、地下鉄は全滅、当然列車の運行にも大きな支障をきたしている。地下が駄目だから、高架を作って列車を走らせる計画が進んでる」
「マジか……マジかぁ……」
夏ということで、お好み焼きと焼きトウモロコシを用意したのだが、サイゾーは手をつけようともしない。
「黒井は、もうダンジョンに潜ったのか?」
「あぁ、潜ったぞ、アリバイ作りのためにな」
「アリバイ作り?」
「ダンジョンで魔物を倒すと、魔石や金貨、銀貨などをドロップするんだ」
「そうか、黒井はアイテムボックスの能力を使えば免許が無くても入れるし、魔物も倒し放題だが、免許が無いと換金できないんだろう?」
「その通り、さすがサイゾー、よく分かってるじゃないか。まぁ、せっかく用意したんだから食ってくれ」
「あぁ、そうだな、ゴチになるよ」
サイゾーは、俺に促されてようやくお好み焼きに箸をつけ始めたが、いつものような勢いは無い。
二口、三口と食べ進めたところで、また箸を止めて尋ねてきた。
「それで、僕は邪竜を討伐しないと日本に戻れないのか?」
「いいや、戻って来たけりゃ戻してやるけど、それでいいのか……サイゾー」
酷な話をしている自覚はあるが、そもそも前のめりにドラゴンの討伐に向かったのはサイゾー自身だ。
日本にダンジョンがあると知れば戻って来たいと思うのは当然だろうが、やりかけたイベントを放り出したまま帰国することをオタクとしてのサイゾーが許せるかどうかだ。
「いや、駄目だな。邪竜に逃げられたままでは、気分がスッキリしない。このまま日本に戻っても、邪竜の一件が喉に刺さった魚の骨みたいに気になってしまうと思う」
「それじゃあ、討伐するんだな?」
「あぁ、速攻でぶっ殺してやるよ」
「それでこそサイゾーだ」
覚悟を決めたのだろう、食べる勢いもいつもと同じになってきた。
「それで、帰国させる時だけど、他の連中には浄化の魔法を掛けようと思ってる」
「浄化? 未知のウイルスを持ち込ませないため……とかか?」
「いや、そうじゃない。倫理観がぶっ壊れたところを浄化して、綺麗な心に戻してやろうかと思ってな」
殺人やレイプに対する忌避感が薄れてしまった連中が、日本に戻って道を踏み外さないように、清夏が精神的な浄化を行う件を説明した。
「マジか……そこまで出来るものなのか」
「あぁ、俺もビビったけど、やってみたら出来たらしい。といっても、変化の状態を完全に確認した訳ではないんだ」
清夏が初めて精神的な浄化魔法を使った爺ぃも、原宿にいた不良外国人も、見た感じでは綺麗な存在になっているようだが、聞き取りなどをして確かめた訳ではない。
「あー……でも、何もしないよりは良いんじゃないかな。僕もヤンキーどもの行動には、ちょっと引き気味だったからね」
戦争の最中、ヤンキーどもは真っ先に敵国の街や村に押し入り、男は殺し、女は犯すという野盗のような行動を繰り返していたらしい。
旦那を半殺しにして、その目の前で妻や娘を犯すことに無上の喜びを感じているそうだ。
そんなの、城に残った坂口や井川たちを凌辱した兵士以下じゃねぇか。
「あー……やっぱり日本に戻さずに、そっちの世界で処分しちまうか」
「いや、戦争という特殊な環境のせいでもあるし、一度くらいはチャンスを与えても良いんじゃね?」
「うーん……そうだな、一度くらいはチャンスをやるか」
あんまり気は進まないが、清夏の浄化を掛けて、それでも駄目なら俺が分解魔法で消してしまおう。
「そういえば、黒井は魔法を奪うことも出来るんだよな?」
「まぁ、魔法を奪う魔法という訳じゃないけど、結果としては同じ様なことは出来るかな」
「宮間さんは、どうするつもりなんだ?」
「あぁ……ゴリ間か」
「ぶほっ、お前、ゴリ間って……やめろよ、トウモロコシが鼻に入っただろうが」
「うははは、悪い悪い、あれでもサイゾーの女だもんな」
「僕の女……いや、違うな、僕は彼女のトロフィーにされてるだけだよ」
サイゾーが言うには、ゴリ間という女は、例え異世界に行ったとしてもカーストトップに君臨していないと気が済まない女らしい。
確かに、言われてみれば納得と思える振る舞いだ。
「僕も他人のことは言えた義理じゃないけど、宮間さんがあの力を持ったまま日本に戻るのは、ちょっとヤバいと思うんだよね」
「いや、大丈夫じゃねぇか」
「はっ? いやいや、黒井は宮間さんのヤバさを知らないから、そんなに軽く言えるんだろうけど、マジでヤバいからな」
サイゾーは、ゴリ間のヤバさを強調するように、これまでの様々なエピソードを披露した。
田沼の頭を殴って破裂させたとか、弓矢を追い掛けて掴み取ったとか、確かにヤバいとは思うけど、そのヤバさは俺にとっては過去のものだ。
「大丈夫だ、サイゾー。お前なら、ちょっと練習すれば追いつき、追い越せるさ」
「はぁ? 何を言っ……て……まさか!」
「サイゾーも試してなかったか」
「使えるのか、身体強化魔法……」
「俺が皇竜から言われた言葉を贈ろう……逆に、なぜ使えないと思うんだ」
「おおぉぉぉぉぉぉ……マジか、マジか、マジかぁぁぁぁぁ!」
サイゾーは食いかけの焼きトウモロコシを振り上げて吠えた。
「黒井はもう使えるのか?」
「使えるぞ、ただし……下手に使うと体がぶっ壊れる」
「魔法による強化に元の肉体が耐えられないのか」
「まぁ、そんな感じだ。筋力だけでなく、骨格や靭帯なんかも強化しないと、腕を振った途端にブチーンと破滅の音が聞こえるからな」
「そうか……でも、大丈夫だよ、回復役は確保してあるからね」
「あぁ、梶原か……てか、何をどうしたら、あんなに惚れられるんだ?」
「自分の胸に手を当てて考えてみろよ」
「まぁ、そうか……」
ということは、サイゾーの本命は梶原の方なのだろう。
まぁ、ゴリ間が本命という線は、あり得ない……いや、サイゾーだからなぁ……。
「そっか、魔力があれば身体強化は使えるのか……だとしたら、宮間さんはスキル無しだったのか?」
「さぁ、もしかすると俺達が使える身体強化とは違っているのかもしれないな。物理耐性だけでなく、魔法への耐性も上げられるとか」
「いや、そもそも僕たちだって魔法耐性を上げられるんじゃないのか?」
「そうか、魔法に関しては自分で限界や制約を設けちゃ駄目だな」
「まぁ、宮間さんの事はこっちで考えるとして、この身体強化魔法に関する情報は、こっちの連中には伏せておいた方がいいか?」
「それで、邪竜の討伐に支障をきたさないなら、知らせない方がいいかもな」
「分かった、それと、木島なんだけど……」
「木島がどうかしたのか?」
「奴隷も一緒に連れて帰りたいって言ってるんだが、可能か?」
「そうだな、帰還させる時は、光が丘ダンジョンの浅い階層に放り出そうかと思っているから、それなら木島と一緒に送還されてしまった……みたいな設定に出来るんじゃねぇ?」
「だったら、それで頼む」
「ただ、こちらに戻した後の事は知らないぞ。それと、戻す時も俺が関わっているとは分からないようにするつもりだからな」
「分かった、それならば、僕も知らない振りをするよ」
サイゾーとは、早期の邪竜討伐と、日本への帰還を実現することで意見が一致したので、その方向で動き出すことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます