第111話 ゲスモブ、博多に連行される
皇竜に頼まれて、ガイドブック片手に博多でラーメン屋をハシゴする羽目になった。
三軒とも違った美味さで、ラーメンに対する認識を新たにしたが、さすがにもう食えない。
「よし、次行くぞ、ヨシヒト」
「いやいや、もう食えないよ。ドラゴンと胃の大きさが違うんだから」
「なんじゃ、つまらんのう……まぁ、他は次の機会に取っておくか」
驚いたことに、皇竜はすっかり日本に馴染んでいて、ラーメン屋での支払いも俺に頼るどころか奢ってくれた。
「ヨシヒト、この国は実に面白いな。ニホンに比べたら、あちらの文化など退屈極まりないぞ」
「まぁ、日本は地球という星の中でも変わった国だからな」
「うむ、人々は本当に親切で、我が困っておると無償で手を貸してくれる。それでいて、ヨシヒトに絡んでいたような馬鹿者もいるのだから退屈せんのぉ」
「馬鹿が居るのは、どの世界でも一緒じゃねぇの?」
「まぁ、そうじゃな。それにしても、なぜあんな馬鹿者共をのさばらせておくのじゃ? 始末すれば良いものを……」
「そんなに簡単じゃないんだよ」
「何がじゃ、首を落とすどころか、バラバラにすることもできるじゃろ?」
「バラバラにするのは簡単だけど、後始末は簡単じゃないよ」
「何でじゃ、あちらの世界に捨ててしまえば、何の証拠も残らんじゃろ?」
「確かに証拠は残らないし、罪に問われる可能性は低いけど、証拠が無ければ疑われない訳じゃないからな」
仮に皇竜が五人の首を切り落とした後、その死体を異世界に捨ててしまえば、俺が殺人の罪に問われることはないだろう。
だが、五人が行方不明になれば、必ず足取りを辿られて、俺が五人と一緒にいたことはショッピングモールの防犯カメラなどで証明されてしまう。
更に詳細に防犯カメラの映像を解析されれば、五人と最後に会ったのは俺だとバレてしまう。
そうなれば、俺が何らかの事情を知っていると疑われることになる。
例え罪に問われなくとも、警察にマークされるだけでも平穏な生活を送れなくなる。
最初からアイテムボックスの中に居て、周囲の者に存在を気付かれていないなら、ナイフで抉ろうが、魔法でバラバラにしようが、捜査の手は伸びてこないが、姿を見られた状態で軽はずみな行動は出来ない。
「なるほど、姿を写す魔道具がそこかしこにあるのでは面倒じゃな。ビビっておった訳ではなかったのじゃな」
「いや、ビビってたのも確かだ。魔法を使えなかったら、俺はザコだからな」
「だが、もう魔法が使えるのだから、もっとやり様があったのではないのか?」
「まぁね、さすがに首を落とすのは大騒ぎになるから、指一本とか、間接一つとか分解して、教えてやるようにするよ」
人通りの多い場所で首を切り落としたりしたら、即座に復元しても大騒ぎになってしまうだろう。
だが、指一本程度なら見間違いで済ませられる。
それでも理解出来ないならば、手首から先を切り落とすとか、肩から先を切り落すとか、より大きな欠損を体感させてやれば良いだろう。
「ふん、やっぱりヨシヒトは面白みに欠けるのぉ。折角大きい力を与えてやったのだ、もっと破滅的な使い方をすれば良いものを……」
「やめてくれ。俺は堅実な人生を送るんだよ……って、ここ何処だ?」
さっきまで川沿いの道を歩いていたはずが、皇竜と話しながら魔法の使い方とか考えていたら、いつの間にか風俗店が建ち並ぶ一角へと迷い込んでいた。
歌舞伎町に夜の社会科見学に出掛けたが、あの時はアイテムボックスに入ったままだった。
今は表に出て自分の足で歩いているから、街の匂いや空気感がモロに伝わってくる。
「お兄ちゃん、遊んでいくかい? いい娘いるよ」
不意に三十ぐらいの男性に話し掛けられて、口から心臓が飛び出しそうになった。
「い、いや、手持ちが無いんで、今日は、その……」
「だったら、まっすぐ行って橋を渡りな。道の向こうがキャナルシティだ」
「ど、どうも……」
「あと五年ぐらいしたら、金持って遊びにおいで」
客引きっぽい男性に追い払われて、野良犬にでもなった気分で歓楽街を後にした。
橋を渡ったところでスマホで現在地を確認すると、屋台街を眺めて歩いているうちに、道なりに曲がって歓楽街に迷い込んでいたようだ。
「ヨシヒト、なんなら一人で遊んで来ても良かったのじゃぞ」
「だから、金持って無いんだって」
「金なら、いくらでも融通してやるぞ」
「いいから、そういうの要らないから……って、その金はどこから手に入れたんだよ」
「んー……パパ活?」
「はぁぁ? ドラゴンがパパ活ぅ?」
「まぁ、細かいことは気にするな。それよりも、ホンバハカタに来たら、鳥皮で一杯やるそうだぞ。ほれ、行くぞ!」
「マジかよ……どこでそんな情報を仕入れて来るんだよ」
日本に適応しすぎな皇竜に、鳥皮が名物の焼き鳥屋に引っ張っていかれた。
テレビ番組で紹介されたらしく、店はかなり混雑していて、ぶっきらぼうな店員に入店を断られてしまった。
俺としては、無理して入るほどの店ではないと思ったのだが。皇竜はどうしても食べたいらしい。
「なぁに、我とヨシヒトの二人ならば、大して待たずに入れるじゃろ……なぁ?」
たった今、断られたばかりなのに無理だろうと思いきや、皇竜に見詰められた店員の目付きが怪しくなり、五分と経たずに席の用意が出来たと言われた。
店の奥の席に座るまで、皇竜は店員やお客に声を掛けまくっていた。
やぁとか、どうもとか、たわいない挨拶程度だったが、声を掛けられた者は首を傾げた後で、どこか虚ろな目付きになっていた。
「それじゃあ、我の注文を優先して、腕に縒りを掛けて焼くが良いぞ」
「かしこまりました……」
やたら混雑した店内で、なぜか俺達の注文だけが優先され、あまり待たされることもなく焼き鳥が提供された。
味は……まぁ、普通という感じで、可もなく不可もなくといったところだった。
これでお勘定まで踏み倒すようなら代わりに俺が払うつもりだったが、そこまでする気は無いようで、お釣りは要らないと店員に万札を渡して皇竜は店を出た。
もう色々とツッコミどころが満載だが、ツッコんだら負けな気がする。
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