第5話 ゲスモブ、ギャルを拾う

 着替えは手に入れたし、食事もまぁ何とかなりそうだ。

 あとは住む場所さえ手に入れれば、こちらの世界でも暮らしていけるだろう。


 基本的にアイテムボックスから出るつもりは無いのだが、暮らしていくには足りない物がある。

 例えば風呂とかトイレだ。


 風呂は代わりになりそうな盥とか、水とかお湯の魔道具が手には入れば、あるいはこの中で全部済ませられるかもしれないが、トイレは対策が思い浮かばない。

 当面の間は、城のトイレを使うしかなさそうだ。


「あとは、布団とか手に入れたいけど、担いで移動しないと駄目なのか?」


 ここまで手に入れたものは、全部鞄に詰め込んで背負っている。

 アイテムボックスの中で、別のアイテムボックスを開こうとしたが出来なかった。


 今のレベルでは出来ないのか、それとも二重にアイテムボックスを開けないのか分からないが、とにかく今は出来ない。

 今現在の荷物なら、背負って歩くのもそんなに苦ではないが、ここに敷布団や掛け布団が加わるのは考え物だ。


「やっぱり、誰も来そうもない空き部屋とか布団部屋みたいな場所を確保しないと駄目なのか?」


 とりあえず、鞄を降ろして一休みすることにした。

 アイテムボックスの形状変化は慣れて来たので、椅子状にする座面の高さや背もたれの角度にこだわって作ってみた。


 背負っていた鞄は、四角く凹ました棚に乗せておく。

 城に着いてから、ずいぶんと歩き回ったので少々疲れた。


 普段は、学校と家の往復だけで、殆ど部屋にこもっているから動かないが、今日は必要に迫られて歩き回る羽目になった。


「引きこもっているのに疲れるほど歩くって……てか、このまま座ったまま移動できねぇかな?」


 ダラっと椅子状にしたアイテムボックスに座り、移動するように想像したら周りの景色が動き始めた。


「うわっ、マジか……動いてるぜ」


 それこそ歩く程度の速度しか出ていないが、城の廊下を滑るように進んでいく。

 しかも、こちらは別次元にいるから、人も物も壁さえも擦り抜けていく。


 調子に乗って動き回っていたら、言いようのない倦怠感を感じ始めた。


「あぁ、これがもしかして魔力的な疲労感なのか?」


 放り出されたり、出られなくなったりするとマズいので、アイテムボックスを使った移動は中断しておく。

 ただし、魔力を多く消費するような魔法は、レベルの高い魔法である可能性が高いので、レベルアップのためにも体調と相談しつつ積極的に使っていこう。


「てか、いねぇじゃん。他の連中はどこに行ったんだ?」


 城の中をグルグルと見て回ったが、討伐に参加しない連中の姿が見当たらない。

 どうも嫌な予感がしているのだが、今夜の寝床も確保しなければいけないし、もう今日はあきらめようかと思った時、窓の外に明かりが見えた。


 城の敷地に建っているが、別棟になっているようなので足を伸ばしてみた。

 どうやら、こちらは兵士たちの宿舎のようだが、何やら女の悲鳴が聞こえて来る。


 小走りで廊下を進んで、悲鳴の聞こえて来る部屋のドアを擦り抜けると、クラスメイトの女子が兵士にレイプされていた。

 首には、赤い石の嵌った銀色の首輪が付けられている。


「くそっ! ここまでゲスなのかよ!」


 3人掛かりでクラスメイトを汚している兵士に殺意を覚えたが、部屋を出て他の部屋を見て回った。

 別の部屋では、クラスメイトの男子が半裸に剥かれて壁際に追い詰められていた。


「違う、次……次……」


 4つ目の部屋に目的の人物、黒ギャルの白川清夏がいた。

 既に全裸に剥かれてベッドに抑え付けられているが、首輪は付けられていない。


「嫌ぁ! やめてぇ!」

「ぐへへへ……見ろよ、初物だぜ」


 白川は両脇から全裸の兵士に手足を抑えられ、三人目の兵士に股間を舐められていた。

 昼間パクってきたナイフを鞄から取り出すと、白川の手足を抑えている兵士の背後へと回り込み、アイテムボックスから外側へ通じる窓を小さく開けた。


 兵士達は白川の裸身に夢中で、全く俺の気配には気付いていない。

 俺は覚悟を決めて、一人目の首の後から、斜め上にナイフを突き立てて延髄を抉った。


 素早くナイフを引き抜いて、二人目の後に回り込み、同じように延髄を抉る。

 ようやく異変に気付いた三人目の背後から、三度ナイフを突き入れた。


 いくらアイテムボックスの中から不意打ちしたとはいえ、自分でも驚くほどの手際で兵士を始末出来た。

 突然兵士が動かなくなり、白川はキョロキョロと周囲を見回していた。


 部屋のドアへと近付き、閂を下ろしてから表に出る。


「なっ……あんた」

「しっ、静かに! 早く服を着ろ」

「無理……全部破られちゃったし」

「ちっ、サイズ合わないかもしれないけど、これ着とけ」


 アイテムボックスから鞄を取り出し、パクって来た着替えを白川に放った。

 白川が服を着ている間、廊下の様子に耳を澄ませる。


 たぶん、順番待ちをしていたのだろうが、廊下には多くの兵士がうろついていた。

 壁越しやドア越しに、凌辱されているクラスメイトの悲鳴が聞こえて来る。


「ねぇ、着たけど……どうやって逃げるのよ」


 少し考えて、部屋の窓を開けてからアイテムボックスを開いた。


「こっちに来い。中に入れ……」

「えっ、これって?」

「いいから、早く!」


 白川をアイテムボックスに引き入れたら、消耗するけど魔力を使って建物の外へと移動する。


「えっ、えっ、何これ……どうなってんのよ?」

「狭いんだから騒ぐな、説明は後だ。とりあえず城の方へ逃げる」


 色々と質問したそうな白川を黙らせて、建物を出て外へ逃げる。

 聞こえて来るクラスメイトの悲鳴を振り切るようにして、アイテムボックスを移動させた。


 火事場の馬鹿力的なものなのか、さっきは歩く程度のスピードしか出せなかったが、今は自転車で走るぐらいの速度が出ていた。

 てか、ロッカー2つ分にも満たない容量しかないから、色々柔らかいものが当たって冷静さを保つのが大変なんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る