第3話 ゲスモブ、魔道具を手に入れる
クラスメイト達は馬車に乗せられて、デカい城へと連れて行かれた。
ちなみに俺は、女王の馬車へと乗り込んで移動した。
アイテムボックスの形を変化させて歩けるようにしたのと同じ要領で、馬車に乗り込んで腰を下ろす。
女王の斜向かいの座席に座っているような形だが、実際に俺が座っているのはアイテムボックスの壁だ。
馬車が動き出した途端、おれだけ擦り抜けて置き去りにされる可能性も考えたが、どうやら一緒に移動出来るようだ。
それに、これはイメージの問題なのだろうが、アイテムボックスには馬車の揺れは伝わって来ない。
現状クッション性が皆無の座面なので、振動が無いのは有難い。
馬車が動き出すと、厚化粧の女王は醜く顔を歪ませて愚痴を吐き捨てた。
「なんと忌々しいガキだろう。この私に頭を下げさせたこと、いずれ必ず後悔させてやる」
まぁ、桂木才蔵という人間を知っている俺でもイラっとするのだから、初対面の女王がムカつくのも無理は無い。
しかし、改めて近く見てみたが、こちらの世界の化粧法なのだろうが、女王は顔面を舞妓さんか歌舞伎役者かと思うほどに塗りたくっていて、全く年齢の判断が出来ない。
目尻や首の皺の感じからして、老齢ではないのだろうが、若くもなさそうだ。
20代後半から50歳手前……俺の鑑定力では、その程度までしか絞り込めない。
馬車で1人になれば、あれこれ秘密を口にするかと思いきや、女王はサイゾーへの恨み言を洩らした以外は無言で窓の外を眺めていた。
1時間程馬車に揺られて辿り着いた城は、想像していた以上に大きく、敷地は広大と形容するのが正しい規模だ。
馬車から降りたクラスメイト達は、食堂のような場所に移動して、邪竜討伐の参加不参加を話し合うらしいが……勿論、俺は参加しない。
だいたい、その手の話し合いでは良い格好しいのイケメン派と、俺様ルールのヤンキー派がグチャグチャと対立するものだ。
そんな下らない戯言に、わざわざ付き合うつもりは毛頭無い。
それよりも、こちらの世界で生きていくために、衣、食、住に必要な物資を手に入れる方が先だ。
アイテムボックスに潜ったままならば、壁の擦り抜けさえ可能なので、盗みを働くのは簡単だ。
最初に向かった先は、城の厨房だ。
さすがにデカい城とあって、沢山の人間が動き回っている。
厨房に入り込んで、一番最初に注目したのは衛生状態だが、現代日本の一流ホテルの厨房などと較べれば足元にも及ばないだろうが、場末の汚い中華屋よりはマシに見える。
流しや調理台は石か木、現代日本のようなステンレス張りではない。
水は厨房の隅にある井戸から、釣瓶で汲み上げて使っているようだ。
火は薪や炭を使い、煙は煙突を通して外に出しているみたいだ。
「なんだよ、もっと魔道具的なものがあるのかと思ったのに、ちょっと期待外れだな」
魔道具は無いが、厨房には冷蔵庫があった。
といっても、一番上の棚に氷の塊を入れておく、原始的なタイプだ。
その氷はどこから持ってくるのかと思いきや、厨房の隣の部屋で、魔法を使って氷をつくっている者が居た。しかも2人。
四角い桶に注いだ水に向って両手をかざして、置物のように動かないが、良く見ると少しずつ凍っているようだ。
「氷を作るだけの簡単なお仕事です……なんて募集してんのかね?」
小ぶりの鍋と食器を手にいれようかと思って来てみたが、人が忙しく立ち働いているので、急に物がなくなると怪しまれそうだから、また後で盗み出すことにした。
その代わりと言っては何だが、冷蔵庫の中から柑橘類と思われる果物をパクって来た。
分厚く硬い皮を苦労して剥くと、中はミカンのような房になっていて、リンゴと梨を合わせたような味と香りがした。
見た目と味にギャップがあるが、喉が乾いていたので凄く美味く感じる。
俺が一番先に厨房に来たのは、清潔な水を手に入れるためだ。
見たところ、この城では汲み上げた井戸水をそのまま使っているが、現代の清潔大国日本から来た俺達は、生水なんか飲めるはずがない。
ほんの少しならば大丈夫かもしれないが、普通に飲み続けたら高確率で腹を壊すだろう。
たぶん今夜あたり、クラスメイト達は下痢ピー祭りになるはずだ。
治癒魔法を使える女子に頼るしかないだろうが、全員の治療が済むまでには時間が掛かるだろうし、そもそも上手く魔法が使える保証も無い。
煮沸した水を手にいれるためにも、小ぶりの鍋と食器、それに火種が必要だ。
食堂を出て、城の中をアイテムボックスに入ったまま歩き回っていると、火種は見つかった。
なんか偉そうにしているオッサンが、葉巻に魔道具で火を付けていたのだ。
長さが10センチ、幅が3センチ、厚さ1センチ程度の板状で、刻印の部分に指を押し当てて使うらしい。
事務方の偉いさんみたいだが、席を立った隙にパクらせてもらった。
早速試してみたが、指を押し当てただけでは上手くいかなかったが、魔力を流すみたいなイメージをすると火が点った。
どうやら、これが火の魔道具らしい。
帰れる目途が立つまでは、暫くこの城に寄生するつもりだが、あんまりふざけた真似をするようならば、真夜中に人気の無い場所に放火してやろう。
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