第4話大荒野
肌がぴりつくほど乾燥した風が、私の顔を強く嬲ります。
このまま乾燥した風にさらされると、肌が荒れしてしまいます。
乾燥した風だけではなく、強い日差しまでが肌を焼きます。
この日差しに直接肌をさらしていると、真っ黒く焼けてしまうでしょう。
別に肌が焼けて黒くなる事が嫌なわけではありませんが、痛くなって皮がめくれるのはいやなのです。
「先代様、本当に大丈夫なのでしょうか?」
私についてきた貧民の代表が、不安な感情が浮かぶ声色で聞いてきます。
まあ、もう大荒野の引き返せない所まで入り込んでいますから、貧民達が心配するのも当然と言えば当然です。
ここで私の祈りが失敗すれば、私達は渇き死んでしまいますから。
ですが、何の心配もありません、私には確信があるのです。
聖なる舞姫として守護神様に舞を奉納した時に、啓示を受けているのです。
「心配はいりませんよ、今から神に舞を奉納します。
それが終われば、ここに泉が湧きますから、楽しみにしていなさい」
私は手早く身支度を整えました。
側仕えは誰もついてきてくれませんでしたから、手伝ってくれる者はいません。
一緒についてきた王都の貧民には女性もいますが、彼らに神に奉納する舞に必要な着付けができるはずもありません。
彼らも手伝う気がないわけではないのですが、できないものは仕方ないのです。
正直、替えの少ない奉納舞の衣装を安心して預けられないのもあります。
飢えや貧しさは、人の心を荒れさせてしまいます。
どうしようもない事ですが、幼い頃から生きるために必死だったのです。
豊かな家に生まれ、何不自由する事なく育った者とは、正邪の基準が根本的に違っているので、罪を犯した時に豊かに育った私の正義だけで裁く事はできないのです。
だから、彼らに罪を犯す隙を与えてはいけないのです。
彼らが罪を冒せるような隙を与える事が、そもそもの罪悪なのです。
常に気を張って彼らに隙を見せない事が、彼らに悪事をさせないことになります。
だから、私の側には、守護神様が差し向けてくださった狼達がいます。
他にも輓馬が馬車を引いて私の私物を運んでくれました。
彼らの目を盗んで私の私物を盗むことは不可能のはずです。
輓馬と馬車、そこに積まれた大量の食糧は、婚約破棄の賠償金で買いました。
王都の貧民を見捨てる事ができず、彼らに大荒野の開拓をさせるため、次の収穫まで飢え死にさせないために購入したのです。
その日の食糧にも困っていた貧民達は、毎日食事にありつけると思い、いざとなれば王都に逃げ戻ればいいと思いつつ、私についてきました。
ここで泉が湧かなければ、彼らは馬車の食糧を略奪して逃げるでしょう。
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