43話・何が起こっているんだ?(リード視点)
「カナ様!」
アリスト様に、癒しの魔法をかけなければ! 私はカナ様に声をかけた。
リサ様の魔法はいまだにカナ様を包み込んでいる。
(手をだすか?)
そう思った時だった。闇が晴れ、ようやく姿を見せたカナ様は気を失っているのかゆっくりと傾いた。
危ない! と、すぐに私は手を伸ばし抱き止めた。
良かった。間に合った。
彼女の無事を確認し、顔をあげた。
カトル様は、剣を手放し、アリスト様の体には剣が刺さったままだった。まずい、カナ様に目を覚ましていただかなければ。
私が彼女を起こそうとした時、リサ様の声が凛と響いた。
「癒しの魔法をかけます」
そうだ、彼女もまた聖女だった。
「ルードさん、アリスちゃんの剣を抜いて下さい」
「はい」
弟が向こう側へと走っていく。やはりそうだ。弟はリサ様に――。
「アリスト様、失礼します」
アリスト様が頷くと、弟は一気に剣を引き抜いた。
「ライト!!」
リサ様が声をあげるとふわりとアリスト様と弟に光が降り注いだ。
「バカな…………」
カトル様は、衝撃を受けていた。カナ様しか使えないはずだと信じきっている彼には驚きだろう。
「カナ様と同じ魔法」
目の前で、傷が癒えるのが見えた。リサ様は癒しの魔法が使える。ということは、リサ様がいれば、カナ様は解放される。彼女をもとの世界に……。
カナ様の顔を見る。私は、彼女をもとの世界に帰して――――笑顔にしてさしあげたい。
ズシン
何か、大きな音が空気を震わせた。同時に大きな力を感じる。
私はプレッシャーの原因を探そうとぐるりと視線を動かす。
突然、あの日カナ様とともに退治に向かった、退治したはずの魔物の姿がそこに現れた。
「どういうことだ?」
姿形はそのまま、人の二倍くらいの大きさだろうか、大きさは小さくなったその魔物はゆっくりと目を開ける。金色の瞳だった。
パリンッと何かが割れ消えた。これは、まさかカナ様の結界?
次々と何かが起こる。今度はリサ様の横に誰かが空中からおりてきた。
そして、金の瞳の魔物の横には髪も服も姿全てが白い人間が立っていた。
「誰だ……? あれは――」
わからないことが次々に起こり続け、どうすればいいのかと私は必死に頭を回転させる。
カナ様は私の腕の中でまだ目を覚まさずにいた。
「カナ! カナ!」
カトル様がこちらに駆け寄ってきた。そのまま、ドンと押し退けられ私が抱いていたカナ様を奪うようにその腕に抱く。
私の中に、とても気持ちが悪い黒い気持ちがぶわりと広がった。
「起きてくれ! 魔物が現れた! カナの本物の聖女の力で――」
先程見た、リサ様の力をなかったことにでもしたいのだろうか。彼女もまた聖女だと、目の前でその奇跡を見たというのに。
「殿下――」
私は黒い何かを必死に押さえながら、二人を見ていた。すると、まるで氷のようにひやりとした低い声が響いた。
「ライトコールノ王子――、ボクノハナヨメヲ――――」
声のする方を見ると、白い人間と魔物が赤い涙を流していた。こちらをじっと見ている彼らからは殺気のようなものを感じる。
「リサ! 結界を彼らに」
リサ様の側に立つ男はそう叫び私は剣に手を掛けた。
「はいっ!! ライト!」
リサ様が叫ぶと、カトル様とカナ様に結界がはられた。その直後、魔物がこちらに跳躍してきたが結界に阻まれすぐにもとの場所へと戻っていった。
「ドウシテジャマヲスル――。コノクニハ――ウラギリモノダ――。聖女ハウラギル、ソノユビワモ――オナジ――」
白い人間はカナ様を指差した。聖女が裏切る? 聖女は国を守り、国とともに生きてきたはずだ。裏切った歴史など――。
「コノクニナンテ……聖女……ホロビテシマエ!!!!」
魔物達が耳をつんざく咆哮を同時にあげた。この魔物達が、本当の破滅の魔物達か――。
私は決意する。この国を予言から、救ってみせる。そしてカナ様を予言という呪縛から解き放つ。
「殿下、その中ならきっと安全です。カナ様を――」
私は、そう言ってきゅっと自分の手を握りしめ、弟たちのもとへといく。ルードの横に立つと小さく頭を下げ告げた。
「私も、戦えます」
二本の愛刀を両手に構え、魔物を見据える。
「ウォータ」
リサ様が呟くと、急に体が軽くなった気がした。いつもよりずっと力強く、自分の力が感じられる。これは何かの魔法だろうか?
驚いてリサ様の方を見たがすぐに視線を前方へと戻す。
「ありがとうございます」
ルードが、リサ様の信頼を得ているからだろう。私にまで気を回してくれるとは――。ただ、リサ様は、聖女であるならば弟の気持ちは――。双子だけど見た目が違う私達だけれど何故、こんなところが似てしまうのか。私達双子は本当に……。
「リード、ルードは魔物の方に行ってくれ、ボクは人型の方に」
「「はい」」
私と弟は同じタイミングで答える。
(あぁ、変なところが本当によく似てるなぁ)
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