こたつはやっぱりいいよね


 デパ地下に行った翌日の午後、自宅でくつろいでいるとインターホンが鳴った。

 きっとアイツのはずだ。 


 玄関のドアを開くと、やっぱりそこには女子高生が立っている。


「こんにちは、お兄さん」

「よぉ、結衣花」


 週に一度両親の元へ帰るようにしている結衣花は昨日の夕方から実家に帰っていた。


 戻ってくるなりこうして挨拶に来てくれるなんて可愛いところもあるじゃないか。

 普段は俺のことをおちょくるような発言も多いが、なんだかんだでなついてるんだよな。


「今は暇?」

「暇というわけではないが、時間をどう使おうか迷ってはいた」

「暇なら普通にそういえばいいのに」


 リビングに上がった結衣花はさっそくこたつに入った。

 俺も同じくこたつに入る。


 日曜日の午後というのは妙に時間を持て余す。

 外出していればあっという間に時間は過ぎていくのに、自宅にいると何をしていいのかわからない。


 ゲームやネットで時間を潰すこともできるが、それではもったいないと感じてしまう。

 そして気が付くと、何もせず過ごしているというのがいつもの俺だ。


「お茶入れてくるぞ。緑茶でいいか?」

「私がするよ」

「まぁ、座ってろって」


 いつも結衣花の世話になりっぱなしというもの悪いからな。


 急須に茶葉を入れて湯を注いだ後、湯飲みを二つ用意してリビングに戻った。


「お兄さんってコーヒー党じゃなかったっけ?」

「どっちかっていうとそうだが気分によって変えるんだ。それに結衣花は緑茶を飲んでいる時の方が多いだろ? どうせなら一緒に飲もうと思ってな」


 もし一人ならここでコーヒーを飲んでいただろう。

 だがせっかく結衣花が来ているんだ。

 二人で一緒に緑茶の香りを愉しみながら日曜日の午後を過ごすのは悪くない。


 茶をすすってぼんやりとする。

 特に会話をすることもなく、ただ時間を過ごす。たったそれだけだ。


 さっきまでは何もしない時間が退屈だったが、今は不思議と心地いい。


「お兄さんって年下でも普通に接してくれるよね。昨日あった紫亜ちゃんにもそうだったし」

「そりゃあそうだろ。なにか変か?」

「ううん。今のままがいい」


 そして結衣花はお茶をすする。

 本当になんということもない会話だったが、結衣花は嬉しそうにしている。


「なんかこういうのいいよね。こたつに入ってのんびりとお茶を飲むのって」

「縁側の爺さん婆さんみたいな感じだよな」

「ここに猫がいれば完璧だね」

「違いない」


 湯飲みを置いた結衣花はこちらを見る。


「お兄さんは猫とか飼わないの?」

「俺はどっちかっていうと犬派かな。飼いたい気持ちはあるがこのマンションはペット禁止なんだ。それに出張の日は世話をできないしな」

「そっか。社会人の辛いところだね」


 そうなんだよな。

 一人暮らしの社会人って自由でいいと言われることが多いけど案外縛りが多い。

 あれもしたい、これもしたい。でも現実的に考えるとできないことが多い。世知辛いぜ。


「結衣花はやっぱり猫派なのか?」

「そうなんだけど飼ったことはなくて、いつも猫動画をみたりしてる」

「あれ癒されるよな」

「うん」


 と、ここで結衣花はタブレット端末とペンを取り出した。

 デジタルイラストを描く時に使う機器だ。


「次のイベントに使うイラストだけど猫を入れてみようかな。でもこの前も描いたし、やっぱり別のものにしようかな」

「今回は以前とは違うクライアントだから、猫が続いても特に問題はないと思うぞ」

「そうだよね……」


 サラサラとペンを走らせるが、すぐに動きを止める。


「うーん。やっぱりいい感じにならないな。イメージはちゃんと浮かんでいるのに……」

「方向性は決まったのか」

「うん。昨日紫亜ちゃんと話をしている時になんとなく浮かんだんだよね。でもいざ描いてみようと思うとどうしてもまとまらないっていうか……」


 タブレット端末を覗き込んでみると、結衣花は今まで描いたラフを見せてくれた。

 かなりの枚数を描いているが、どれも途中で中断している。


「……こんなにラフを描いていたのか」

「うん。私はラフでかなり決めちゃうほうだからボツにするのも多いんだけど、最近は今一つパッとしなくて」

「いつからなんだ?」

「バレンタインイベントが終わった後からずっと。昨日久しぶりにイメージが湧いてきたんだけど、やっぱりダメみたい」


 いつもの結衣花とは少し違う……。

 もしかしてスランプか?


 そういえば、ゆかりさんが『結衣花は悩みを持っているかもしれない』と言っていた。


 結衣花に一人暮らしを勧めたのはゆかりさんだ。

 もしかしてゆかりさんは結衣花のスランプに気づいて、今回の一人暮らしを勧めたのか?


 とにかく俺もスランプの対処法に詳しいわけじゃない。

 できるだけ負担を掛けないようにしておこう。


「まぁ、時間は十分にあるんだ。ゆっくりやってくれ」

「うん。ごめんね、お兄さん。本当ならもうラフくらいは上げておかないといけないのに」

「結衣花は学校に行きながら描いているんだ。気にするなよ」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、スランプの結衣花をどうやって助けるのか!? あの人が登場!?


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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