11月14日(土曜日)結衣花の家へ


 ソフトクリームを食べた後、俺は結衣花を自宅まで送ることにした。


 彼女の自宅付近に到着したので車を停止し、助手席に座る結衣花に話かける。


「じゃあな。また月曜日に会おうぜ」


 すると彼女は何食わぬ顔で、驚くべきことを言い出した。


「ねぇ、お兄さん。せっかくだし家に寄って行かない? 今日のお礼にお茶でもごちそうしたいし」


 もし結衣花が女子高生でなければ普通にその誘いに乗っていただろう。

 だが、いくらなんでも社会人の俺が女子高生の自宅へ行くわけにはいかない。


「……気持ちは嬉しいが、さすがにご家族にも迷惑だろう。俺はこのまま帰ることにするよ」


 よし。紳士らしいスマートなセリフだ。


 最近の俺ってクールさに欠ける場面が多いが、本当はこういう紳士的な立ち振る舞いができる男なんだぜ。


 するとフラットテンションの女子高生は言う。


「言っておくけど、エッチなこととかしないからね」

「待てい。そんなことを俺が思うはずないだろ」

「うん、知ってる。でもここはあえて言うべきかなと思って」


 なんでここで言うべきことが「エッチをしない」なんだよ。

 それじゃあ、俺が変態みたいじゃないか。


 さらに結衣花は話を続ける。


「でも下心はないんだよね? じゃあ、うちに来ても問題なしじゃない?」

「ぅ……、いや……まぁ。そうなんだが……」

「それにお母さんも会いたがってたよ」

「ゆかりさんが?」


 結衣花の母親、ゆかりさんを一言で表すのならイケメン主婦だ。


 ハロウィンの時、イベントスタッフを探していた俺達に人材派遣会社を紹介してくれたことがあった。

 あれから会うことがなかったので、ちゃんとしたお礼ができていない。


 いい機会だし、挨拶に行っておこう。


「わ……わかった。じゃあお邪魔するよ」

「うん。あ、それとね……」

「なんだ?」

「ちょっとくらいならエッチなことをしてもいいよ」

「こら」


 結衣花のことだから、俺がしないとわかっていてからかっているんだろう。


 だがしかし、いつも思うがこの女子高生はエグイ言葉を平気で使いやがる。

 もっともその矛先は俺だけのようだが。


 こうして俺は近くのコインパーキングに車を駐車し、結衣花の自宅に向かった。


 以前も結衣花を自宅まで送ったことがあったが、玄関までくるのは初めてだ。


 表札には『蒼井あおい』と書かれている。


「……結衣花の苗字って蒼井って言うんだな」

「うん」


 紺野さんの親戚なので苗字も同じかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。


 蒼井か……。どこかで聞いたような……。

 いや、それほどめずらしい名前じゃないし、気にしすぎか。

 

 俺も以前は勘違いしていたが、蒼色というのは深い緑色らしい。

 学生の頃、てっきり濃い青色だと思い込んで恥をかいたことがある。


 それより、気になることがある。


「なあ、結衣花。いきなり俺が現れたら、ゆかりさんが驚かないか?」

「んー。大丈夫だと思うよ。お母さん、空き巣に入った人を捕まえて、人生相談に乗ってあげたこともあるくらいだし」

「……相変わらずのイケメンぶりだな」


 ゆかりさんほどの度量があれば、俺がいきなり訪問しても気にしないということか。


 結衣花は玄関のドアを開いた。


「ただいま」


 すると奥から凛とした女性の声がする。

 結衣花の母、ゆかりさんだ。


「おかえりなさい。あら、笹宮君。いらっしゃい」

「お久しぶりです、ゆかりさん」

「結衣花を送ってくれたのね。ありがとう。お茶を用意するから上がりなさい」


 結衣花の家は平均的な一軒家だ。

 それは見た目だけでなく、内装もそうだった。


 お嬢様学校に通わせるくらいだからとんでもない金持ちかもしれないと身構えていたが、一般的な家庭だったので安心したぜ。


 リビングに通されたとき、俺はゆかりさんに頭を下げた。


「先日は人材派遣会社を紹介して頂いてありがとうございました」

「気にしないで。たまたま力になれたから貸しただけよ」


 氷の女王と呼ぶにふさわしい無表情なゆかりさんは俺のことを気にする様子を見せず、キッチンへ向かった。


 だが、ここで「あら?」と声を上げる。


「いけない。お茶の葉を切らしていたようね。私は近所のスーパーへ行ってくるわ」


 一時間半で戻ると言って、ゆかりさんは出て行ってしまった。

 相変わらず、行動が早い。


 ……と、ここでキッチンの方にいた結衣花が声を上げる。 


「あれ?」

「……どうかしたのか」

「お茶の葉……、普通に残ってる」

「確認し忘れたのか? ゆかりさんらしくないな」


 もしかして、俺が急に来たから驚かせてしまったのだろうか。

 そうだとすると、悪い事をした。


 しかし、結衣花はゆかりさんの考えを見抜いているようだ。


「うーん。たぶん、お兄さんに気をつかわせないように自分が外に行く口実を作ったんじゃないかな」

「やることがとことんイケメンだな……」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、ゆかりさんから驚きの一言が!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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