第68話:ごめんねひらりん。ありがとう
「あ、ご、ごめんねひらりん。ありがとう」
「おう、任せとけ。なにか希望とかあるか?」
「えっと……別にないかな。ひらりんに任せる」
「そっか、わかった。ちょっとWEBとかで色々調べてみるよ。それでそれをほのかに伝えるから、また一緒に考えようよ。ほのかだって好みがあるだろ?」
「あ、うん」
今までほのかのデートの経験は、男が勝手に決めたコースか、または自分が行きたいと言った所に行くというパターンだった。
それが今回は、凛太が色々調べたことを元に、一緒になって行き先を考えようだなんて。
(え? え? え? これってめっちゃ、ザ・デート、って感じじゃない!?)
しかも凛太はほのかを楽しませようと気配りをしてくれている。
(ひらりんって、ホントに今まで女の子と付き合ったことないの? ちゃんと気配りできるし、相手を楽しませようという気持ちもあるし、恋愛でも仕事がデキル男じゃん!)
ほのかが思わず凛太の顔をぽぉーっと見つめていたら、凛太が問いかけた。
「だから今は、とりあえず日時だけ決めとこう。いいかな?」
「ふぇっ?」
凛太に見とれていたほのかは、問いかけられて我に返った。
「あ、ああ、うんいいよ。じゃあ次の日曜日のお昼とかどうかな? いい?」
「ああ、オーケーだ。昼前に待ち合わせて、昼メシ食うとこからスタートするか。どうだ?」
「あ、うん、わかった。そ、それでお願い」
「よし、決まりだな」
「うん、楽しみにしてるよ」
「えっ?」
思わず本音が漏れたほのか。
本当に楽しみになってきている。
でも擬似デートのはずなのに、楽しみにしてるなんて言ってしまったことは、凛太にごまかさなきゃと焦る。
「あ、いや、ひらりんがさ。あたしが楽しめるコースを考えるなんて言うからさ。ああー、たのしみだなー ……なんてね」
まるで棒読み。
ごまかすことが苦手で、ついつい本心が出てしまうほのからしい。
でもそんなほのかの言葉を聞いて、凛太はニコリと笑う。
「そうだな。まああんまり自信はないから、期待されるとちょっと困るけど。とにかく頑張って考えるよ」
「あ、そだね。あたしもあんまり期待しないでおくかなぁーあはは」
あんまり凛太にプレッシャーをかけては悪いと思ったほのかは、そんなふうに返した。
「あ、ところでひらりん。こんなお願いをしとして勝手なんだけど、恥ずかしいから所長やルカたんには内緒にしといて欲しいんだ」
「ああ、もちろんわかってる。こんなプライベートなことは他の人には言わない。大丈夫だ。二人だけの秘密にしとくよ」
「ふ、二人だけの秘密……?」
「おう、そうだな」
「あ、ありがと」
二人だけの秘密かぁ……なんて思いながら、ほのかは真っ赤な顔をして、なんとかお礼を返すのが精一杯だった。
◆◇◆◇◆
その日の勤務が終わった。
「お先に失礼しまぁーす」
「あ、俺ももう帰ります。お先です」
「あ、はい。二人ともお疲れ様」
ルカは先に退社していたので、凛太とほのかは神宮寺所長に声をかけて一緒にオフィスを出た。
ほのかはさっき凛太から「計画案を考えたから、帰りにでも話すよ」と言われていたので、帰るタイミングを合わせたのだ。
駅への道を並んで歩きながら、凛太はデートの計画案を説明する。
「まずは昼飯だけど……」
凛太の提案はほのかが好きなパスタ。最近オープンしたばかりで、美味しいと評判のイタリアンカジュアルレストランがあるらしいと、凛太がネットで見つけた。
凛太がスマホのグルメサイトでその店の料理写真を出してほのかに見せる。
凛太のスマホを覗き込んだほのかは、ごくりと唾を飲み込んだ。確かに美味しそうだ。
「いいね。やるじゃんひらりん」
「まあね。でもやるのは俺じゃなくて、このグルメサイトだな、あはは」
照れ臭そうに言う凛太を見て、ほのかはなんだか微笑ましく感じる。
きっと一生懸命探してくれただろうに。
──自慢げに言わないところがひらりんのいいところだよね。
「で、飯を食ったあとの計画な」
食事後の計画は、凛太から3つの案が出された。
ひとつはゲーセンとボウリング。
ほのかは学生じゃあるまいしとも思ったけど、凛太は「童心に帰って遊ぶのも、案外楽しいもんだぞ」と笑った。
二つ目の案は駅前にある市立美術館。
ほのかは芸術には疎くて、最初に美術館と聞いた時には面白そうとは思えなかったが、凛太の話によると割と有名なアニメーターの作品展をしてるらしい。
有名なアニメ作品の背景画なんかが展示されているらしくて、それならば面白そうじゃんとほのかは思った。
そして三つめは駅前のショッピングモールや商店街をぶらぶらデート。
まあ定番って感じだ。
「ひらりん……」
「ん? なに?」
「ありがとう。そんなにいっぱい考えてくれて」
ほのかにしては珍しく、柔らかな笑顔を浮かべている。
そして感謝の言葉がすごく素直に口から出た。
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