旅路の行方

 三台の馬車は、アースガルズ王国領土の外へ向かって走る。

 魔人に襲われてるのは、全てアースガルズ王国外の村や集落だ。まずは『運命』ナクシャトラの出した予言の村で情報を集める。

 アルベロたちを乗せた馬車はゆっくり走っている。アルベロは大きく欠伸した。


「ふぁ~あ……そういえばさ、なんであっちの馬車、荷物用の馬車なんてあるんだ?」


 なんとなく思った疑問だ。

 生徒会側にも、ディメンションスパロウは渡してある。だが、大量の荷物を馬車に積んでいるのをアルベロたちは見た。

 すると、ヨルハが言う。


「……魔獣は信用できないって、大事な荷物は馬車に直接積んだそうよ」

「え、じゃあ黄色いディメンションスパロウは?」

「一応、連れては来てるみたい。あのグリッツ?とかいう子が籠に入れてたわ」

「マジかぁ……」


 アルベロはため息を吐く。

 とりあえず、不当な扱いを受けているわけではなさそうなので安心した。

 アルベロは、馬車の隅に敷いてあるクッションの上で眠るくろぴよを見る。


『ぴゅるる……』

「……ニスロクの力で操られているとはいえ、魔獣……いや、こいつも召喚獣なんだよな」


 この世に存在する魔獣。それは、過去に魔帝が召喚した召喚獣だ。

 魔帝が封印されると同時に繋がりが断たれ、召喚獣の世界に帰ることなくこの世界に残った。そして、同型の召喚獣同士で繁殖し、この数十年で爆発的に増えたのだ。

 魔帝が残した召喚獣。通称魔獣として。

 魔獣は、死ぬと死骸とならず、数時間ほどで煙となって消え失せる。死んだ召喚獣がどうして消えるのか。一説によると、召喚獣は魂となり召喚獣の世界へ帰り再び受肉する、という説もあった。


「人と召喚獣、か……もしかしたら、魔獣も話せばわかるかも」

『ぴゅるる』


 アルベロはくろぴよの傍に移動し、モフモフの頭を撫でた。

 

「あーっ! アルベロ、ずるいです。くろぴよちゃん、私も触りたいです!」

「あ、アタシも! もふもふ可愛いっ」

「お待ちを。わたしが先です!」

「ちょっと、あたしも触る!」


 ラピス、リデル、ヨルハ。そして御者席の窓を開けアーシェが叫ぶ。

 こうして、くろぴよの取り合いが始まったのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 A級召喚士用で三台ある馬車の一つは、王族サンバルト用の馬車だった。

 現在、エステリーゼはサンバルトと二人でこの馬車に乗っている。


「エステリーゼ、お茶でもどうだい?」

「ありがとうございます。ですが、大丈夫です」

「そうかい?」


 サンバルトは紛れもない紳士だ。

 だが、無能。それがエステリーゼの評価だ。

 エステリーゼは恋愛結婚は望んでいない。使えるか使えないか。辺境伯となった父の後を継ぐのに相応しい相手かどうかだけだ。

 領地をラシルドに任せ王宮入りするということも考えたが、エステリーゼ自身は王宮で王妃になるよりも、自分の領地を持ち経営をするということに憧れていた。

 なまじ、父アルバンが経営に関しては無能だったので、『自分ならこうする』や『自分だったらこんな失敗はしない』という想いが常にあったからでもあった。


「ところで、エステリーゼ……きみの弟だけど」

「弟、ですか? ラシルドとフギル……」

「いや。末弟……アルベロだ」

「…………」


 エステリーゼの眉が、少しだけ動いた。

 だが、そんな変化にサンバルトは気付かない。


「その、和解はできないのかい?」

「は?」


 そして、思わず変な声が出てしまった。

 和解。つまり、仲直り。

 アルベロとエステリーゼが仲直り。魔人襲撃時、アルベロを見捨てたエステリーゼが仲直り。模擬戦でアルベロを殺そうとしたエステリーゼが仲直り。

 意味がわからなかった。


「その、考えてみたんだ。アルベロ……彼は、きみを毛嫌いしている。きみの全てが悪いというわけじゃないけど、きみが謝ればアルベロだって許してくれる。アルベロも、心を入れ替えて姉のきみを大事に想うんじゃないかな?」

「…………」

「あのさ、もし、もしもだよ? ヘルヘイム領地をラシルドに任せて、弟のフギルとアルベロに領地の一つを管理させて、きみは……その」

「サンバルト殿下。そろそろ、休憩地点ですね」

「え、あ……うん、そうだね」


 前方の馬車が止まった。

 街道脇に、小さな小屋が建っている。先は長いのでここで休憩をはさむのだ。

 エステリーゼは華のような微笑を浮かべ、サンバルトを虜にする。


「殿下。せっかくのお天気です。殿下の紅茶を振るまっていただけませんか?」

「あ、ああ! とびっきりの紅茶を淹れるよ!」


 エステリーゼは改めて決意した。

 このサンバルト無能とは、何があっても結婚などしないと。

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