二十一人?の召喚士

 アルベロを狙った斧は、何度も何度も振り下ろされる。

 速度も、隙も多い。今のアルベロなら楽に躱せる……だが、オウガは止まらない。肉体を硬化させても、何度も殴っても、全く止まらない。勢いが落ちないのだ。

 シンプルすぎる戦法ゆえに、止めるのは難しい。

 いくらアルベロが寄生型で、常人の数倍以上の身体能力を持つといえ、体力は無尽蔵ではない。


「はぁ、はぁ、はぁ、っか、はぁはぁ、っくぉ……」


 大汗を掻きながら、息を切らしながら斧を躱す。

 もう、何分経ったか。全力で、喰らえば即死間違いなしの一撃を躱し続けるのは、体力と気力がごっそり持って行かれる。

 何度かキッドの銃弾が命中したが、オウガの身体は一瞬で傷が消えた。『超絶貫通弾ミストルテイン』でさえ通じない。


「ギャァァァァーーーーーッッハッハッハァァァ!! 刻む刻むキザムゥゥゥゥゥッ!!」

「ま、ずい……!!」


 足が震えてきた。

 アルベロは右腕を限界まで硬化させ、足を止めて斧を受ける……もう、逃げ回るだけの体力が残されていないのである。

 

「ギャァァァァーーーーーッッハッハッハァァァ!! ギャァァァァーーーーーッッハッハッハァァァ!!」

「ぐ、うっ!?」


 ガンガンガンと、斧を何度も叩き付けられる。

 無茶苦茶な戦い方だ。ただ暴れることに特化した戦闘スタイルがこんなにも厄介だとは。

 アルベロは耐える。自分が勝つのではない、時間を稼ぐ。

 耐えれば勝てる───それが、アルベロの戦いだ。

 そして、その時は来た。


「よく耐えたのである」

「あん?───ぶはぁっ!?」


 ズドン!!と、オウガは吹っ飛んで地面を転がった。

 現れたのは、タイタンと『融合』したダモクレスだ。肥大化した右腕でオウガを殴ったのである。

 そして、もう二人。


「そいつが寄生型の小僧かい?」

「そうである。ワシの教え子じゃ!!」

「うんうん。いい顔じゃのぉ」


 一人は、全身筋肉に覆われた女性だ。

 ダモクレス並みに傷だらけの身体を惜しげもなく晒し、素肌に直接胸当てを装備した露出の多い女性だ。年齢は五十代ほどだが、力強さを感じられる。

 女性が持っているのは、全長十メートルはある『大剣』だった。

 もう一人は、腰の曲がった老人だった。

 老人は穏やかな笑みを浮かべている。だが……その背後には、巨大で細長い『龍』が浮かんでいた。

 蛇のように細長く、顔はドラゴンのように厳つい。

 アルベロは、目を見開いた。


「え、『女帝エンプレス』ヴィーナス、『法王ハイエロファント』アルジャン……さ、最強の……」

「休んでな、小僧。あとはアタシらに任せて」


 ヴィーナスは二カッと笑い、巨大すぎる大剣をオウガに向ける。

 ダモクレスは恐るべき闘気を纏い、右の指をゴキゴキ鳴らした。


「右腕の借り……ここで返しちゃる!!」

「落ち着けい。ダモクレス……奴は危険じゃ。わしら三人、いや……四人でやるぞい」


 アルジャンが杖をカツンと突くと、すぐそばにガーネットが現れた。

 アルベロは膝を付き、ガーネットを見上げる。


「よくやったね。大したもんだ」

「先生、あいつ、ヤバい……止まらない」

「わかってるよ。……おいアルジャン、残りはどうした? お前たち三人だけとは」

「……残りは、王城の守護に回ったのじゃ」

「なんだって!? 馬鹿を言うな!! たった四人であの『憤怒』を押さえられるわけがないだろう!? 過去の戦いを忘れたのかい!?」

「国王陛下の決定じゃ。優先すべきは王族……それが決まりなのじゃ」

「馬鹿め!! ……ヨルハ王女殿下!?」


 ガーネットが校舎を見上げると、すでにヨルハの姿はなかった。

 

「くそ、こんなことができるのは『隠者ハーミット』……トリスメギストスか」

「そうじゃな。全く、年寄りばかりに仕事をさせて……」

「……やるしかないのかい」

「うむ。ガーネット、『融合アドベント』を使うぞ。ダモクレスとヴィーナスに合わせ、全力の一撃を叩き込むしかあるまいて」

「……命を賭けるしかなさそうだねぇ」


 ガーネットたちの空気が変わる。

 すると、オウガが立ち上がり首をゴキゴキ鳴らした。


「ハッハッハァァァァーーーッ!! 懐かしい顔じゃねぇか!? お前、オレが食い千切った腕は美味かったぜぇぇ~~~?」

「…………」


 ダモクレスの顔に青筋が浮かび、歪んだような怖い笑みを浮かべた。


「叩き潰しちゃるわい!! オウガぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!!」

「ヒャァァーーーッハァァァァ!!」


 ダモクレスとオウガが激しい殴り合いを始めた。

 タイタンと融合したダモクレスの右拳が真っ赤になる。その拳でオウガを殴ると、オウガの鉄のような褐色の肌が『ジュワァァァ!!』と焼けた。


「ギャアァァァッチィィィッ!? ハハッハァァァァ!! いいねいいねぇぇ!!」

「おぉぉぉぉっ!!」


 両拳のラッシュでオウガを殴る。

 だが、オウガは緑色の血を噴き出しながら笑い続けた。

 タイタンの能力は『超熱ちょうねつ』。自身の体温を数千度まで引き上げることが可能だなのだ。右拳に熱を集中させて殴る『ヒートパンチ』を喰らいつつも、オウガは笑う。


「ダモクレス、どきな!!」

「応!!」


 ダモクレスの背後から跳躍し現れたのは、全長十メートルを超える大剣を持つヴィーナスだ。

 ヴィーナスの両腕の筋肉がボコンと盛り上がり、オウガを一刀両断しようと振り下ろされる。


「らっしゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ぬがぁぁっ!? ガハハハハ、いてぇよぉぉぉぉっ!?」


 オウガの右肩から右足にかけ、すっぱりと縦に切られた……が、瞬時に治る。

 ヴィーナスは大剣をクルクル回し、遠心力を加えた横薙ぎの一撃を食らわせオウガの上半身と下半身を分断した……が、瞬時にくっついた。


「このクソ野郎が!! なんだいその能力は!?」

「治っちまうんだよギャァァッハッハッハぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 オウガは斧をクルクル回転させヴィーナスを狙う。


「アルジャン、合わせな!!」

「うむ。強めでいくぞい」

「あぁん?───おぉっ!?」


 ガーネットの口から吐き出された煙が竜巻のようにうねり、オウガの身体を浮き上がらせる。

 そして、アルジャンの相棒型召喚獣『黄龍ファンロン』が大きく口を開け───黄金に輝く『雷』のブレスを吐きだした。

 ブレスはオウガを包み込み、オウガの身体は黒焦げになる……が、一瞬で回復する。


「あぁぁ~~~ちぃぃぃなぁぁ!? ギャァァっはっはぁ!!」

「バケモノめ……!!」


 ガーネットが舌打ちし、アルジャンも一筋の汗を流す。

 アルベロは、開いた口がふさがらなかった。


「…………これが、最強」


 それでも、オウガに勝てる気がしない……アルベロは歯を食いしばる。

 自分にできることを───そう思い、目を閉じる。


「頼む、モグ───俺に見せてくれ」


 右目が熱くなる。

 そして、見た。


「バロール───開眼!!」


 そこで、アルベロが見たものは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る