翌日、そして

 翌日。

 アーシェ、リデルはレイヴィニアを連れて普通に起きてきた。

 ニスロクを見張るといって談話室に残ったキッドは、じろりとレイヴィニアを睨む。レイヴィニアはビクッとしてアーシェの後ろに隠れた。

 ニスロクはというと……ソファで寝たまま動かない。死ぬまで寝ていそうな雰囲気だった。


「ニスロク!! 朝だぞ起きろ!!」

「んぁぁぁ~~~~~~……」


 レイヴィニアが蹴り起こすと、ニスロクはようやく起きる。

 そして、アルベロも男子寮から下りてきた。首をコキコキ慣らし、レイヴィニアを見る。


「……何もしなかったか?」

「してない。約束だろ?」

「ん、ならいい。ところで今日……」

「『色欲』を呼べ。オレが殺す」


 キッドが殺気を帯びた声でレイヴィニアを脅す。

 レイヴィニアはビクッとし、今度はアルベロの背に隠れてしまう。


「よ、呼んでみるけど……すぐには来ないと思うぞ。それに、フロレンティア姉ぇは勘が鋭い。うちらが裏切ったって気付かれたら、来ないかも……」

「王国内部には入らないだろうな。だったら、郊外の、派手に戦っても平気な場所におびき出せ」

「うぅ……わかった。ニスロク、フロレンティア姉ぇを」

「うぁ~~い……」


 ニスロクは目を閉じる。

 すると、ツノが一瞬だけパチッと光る。


「フロねえ、フロねぇ……聞こえてたら返事くれ~……ん、きて~~……うぃ~」


 ニスロクはウンウン唸ると、目を開けた。


「呼んだぁ。今忙しいから、十日後に待ち合わせしたぁ~」

「十日……よし、上出来だ」


 キッドはようやく殺気を解き、キッチンへ。

 一睡もしていないのに、朝食の支度はするらしい。

 アルベロは、ニスロクに聞いた。


「ほんとに呼んだのか?」

「うん。フロねぇ、けっこう遠くにいるみたい……たぶん、趣味の村狩りやってるぅ……おれが用事あるって言ったら、十日待ってってぇ……くぁぁ、アースガルズ王国郊外の平原で待ち合わせしたぁ」

「……わかった」


 王国内なら、二十一人の召喚士がいるのだが。

 キッドは一人で戦うというだろうが、いざという場合の備えは必要だ。

 それに、十日。時間がある。

 

「…………」


 アルベロはソファに座り考えこむ。

 レイヴィニアはキッドがオムレツを作っているのを見て目を輝かせ、ニスロクは床に突っ伏してグースカ寝ている。アーシェとリデルも座り、レイヴィニアに構っていた。

 まさか、魔人が二人も裏切るなんて。しかもアルベロに協力してくれるとは。

 協力者。ヨルハのこともある。

 まだ、アーシェたちには秘密だ。ヨルハは今日S級にやってくる。


「はぁ……なんか、考えること山ほどあるわ」

「ぐぅ~……」


 床で寝るニスロクを眺めながら、アルベロはため息を吐いた。


 ◇◇◇◇◇◇


 朝食後。

 レイヴィニアとニスロクをどうするか、登校前に話す。


「やっぱり、ガーネット先生には伝えた方がいいと思う」

「ひっ」

「俺もそう思う。正直、大人の意見が欲しい……ガーネット先生なら信用できる気がする」

「アタシもそう思う。正直、ここに置いておくだけってのもね……」

「あのババアが『連れていく』とか言ったらどうすんだ? 魔人、魔帝の情報を洗いざらい吐かせられて、そのまま殺されるかもな」

「ひっ」


 アルベロは、レイヴィニアを見る。

 ガーネットの名前を聞いて怯えている。この怯えは演技ではなかった。

 なので、きちんと言う。


「レイヴィニア。俺たちを信用してくれるか?」

「ああ。お前らはいいやつだ。美味しいご飯食べさせてくれたしな」

「……よし。じゃあ、ガーネット先生に会ってくれるか?」

「……わ、わかった」

「おい、いいのかよ?……最悪の結果になるかもな」

「そうはさせない。いざという時は……俺が守る」

「は、戦うってのか?」

「…………行こう」


 レイヴィニアとニスロクに大きめのローブを被せ、肌とツノを隠した。

 そして、全員で登校……S級校舎へ。

 教室に到着し、待っていると、ガーネットとラピスが一緒に、そしてもう一人……桃髪の少女ヨルハも一緒だった。


「マジかよ、放課後じゃ……」

「あれ、どこかで……?」

「……フン」

「わぁ、可愛い」


 アーシェは首を傾げ、キッドは鼻を鳴らし、リデルは眼をかがやかせる。

 ラピスは、嬉しそうに席に座り……首を傾げた。


「あの、そちらの方は?」

「あー、後で説明する」


 ガーネットは、もの凄く胡散臭そうに言う。


「おい。なんだそのローブの二人は」

「え、えーっと。その、そのことでお話がありまして。その、秘密裏に」

「…………まぁいい。大事な話なんだね?」

「はい。ガーネット先生が一番信用できる人なので」

「あら、嬉しいこと言うね。まぁいい。その前に紹介するよ」


 ここで、ヨルハが前に出て一礼した。

 桃髪が揺れ、輝くような笑みを向ける。


「初めまして。アースガルズ王国王女、ヨルハプティネズムと申します。アルベロのお誘いで・・・・・・・・・A級召喚士からS級召喚士に移籍が決まりました。これからよろしくお願いします!」

「ぶっ」


 アルベロは噴き出した。

 誘ったつもりはない。ヨルハが言いだした……いや、言っても無駄だろう。

 アーシェは睨み、リデルはポカンとする。


「ちょっと……どういうことよ」

「え、いやその、実は昨日、茶会で知り合って……え、A級召喚士だっていうし、その、S級召喚士に興味あるっていうから」

「なんで昨日言わないのよ……」

「えっと、ゴタゴタしてて忘れたというか……はは、ははは」


 言い訳に苦労するアルベロ。ヨルハはにっこり笑い、アルベロの隣に座った。


「これからよろしくお願いしますね。アルベロ」

「…………よろしく」


 やはりヨルハは好きになれない……アルベロは改めて思った。


 ◇◇◇◇◇◇


 ヨルハの紹介が終わり、ガーネットは言う。


「で、そいつらは?」

「……約束してください。まずは、話を聞くと」

「はぁ?……もったいぶるね」

「お願いします」

「……いいだろう」


 アルベロの態度が本気だと知ったのか、ガーネットは真面目な顔になり頷く。

 アルベロも頷き、二人のかぶっていたフードを、ローブを脱がした。


「───な」

「え……」

「…………っ」


 ガーネットは驚愕、ラピスはよく呑み込めず、ヨルハは目を見開く。

 そこにいたのは、真っ白な髪、褐色の肌、頭部にツノを持つ少女と青年だった。

 アルベロは、二人の前に立ち説明する。


「『嫉妬』の魔人レイヴィニアと、『怠惰』の魔人ニスロクです。二人に敵意はありません……どうか、話を聞いてやってください」


 アルベロの言葉に、ガーネットはすぐに答えられなかった。

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