アホな両親

 その後、特に何もなく茶会は終わった。

 両親は終始挨拶に振り回され、エステリーゼやラシルド、フギルも忙しそうだった。

 アルベロだけが、何もなかった。最初はS級召喚士として挨拶したりするのかと思ったのだが、不思議なくらい誰にも構われなかったのだ。

 アルベロが挨拶したのは一人。ヨルハだけ。なんとなくだが、この茶会参加はヨルハの息がかかっているよいうな気がした。

 王城の控室で、両親たちは嬉しそうに笑っていた。


「いやぁ、今日は実に楽しかったよ。いろいろな貴族の方と知り合えた」

「そうね。ふふ、私もお茶会に誘われたわ。私もお茶会を開催して貴族婦人方をもてなさないといけないのねぇ……ああ、忙しくなりそう」


 両親は忙しい忙しいを繰り返していた。正直うっとおしいのでアルベロは無視。

 そんなことより、今夜城に忍び込むことを考えていた。


「エステリーゼ。今夜は空いているかね? 家族で食事でもどうだい?」

「いいお考えですね。では、レストランの手配をしましょう」

「ああ、頼むよ。うんうん、久しぶりに家族団らんといこうじゃないか」

「まぁ、あなたってば」


 吐き気が収まらなかった。

 いい加減、茶番にも飽き飽きしていたので、アルベロは胸元をゆるめる。

 話しかけるのも嫌だったので、そのまま部屋を出ようとした。


「待て。どこに行く」


 当然、引き留められる。

 引き留めたのはラシルドだ。

 このまま部屋を出ようと考えたが、せっかくなので理由を言う。


「帰るんですよ。約束は茶会の出席だ。それに、いい加減この空気にもうんざりなんで」

「なんだと? おい貴様、どういう」

「待ちなさい。ラシルド、ここは私が……アルベロ、どういうつもりだ?」

「…………はぁ?」


 ラシルドを押さえ前に出たのは、なんと父アルバンだった。

 まるで、子供を叱りつける親のような態度だ。

 あまりの馬鹿さに、アルベロは言葉を失う。


「アルベロ。久しぶりに会ったというのに、その態度はなんだ? 今夜は家族水入らずで食事でもしようじゃないか。これまでのお前の話を、聞かせて欲しい」

「そうよ? 家族の時間は大事じゃない? さぁ、お茶でも飲んで」

「いや、馬鹿なのか? 頭おかしいんじゃね?」


 アルベロは我慢できなかった。

 本当に、この両親はバカの塊で構成されているのではないかと疑う。


「本当に頭大丈夫か? あんたら、俺のこと徹底的に無視してたくせに、何急にご機嫌取ろうとしたり、両親顔してんだよ? それに、俺はもうラッシュアウト家の人間じゃないだろ? 俺が除名届け出したらすぐにサインして送り返したくせに。なに無かったことにしてるんだよ」

「あ、いや、それは……」

「あ、アルベロ!! 親に向かってなんてこと言うのよ!!」

「俺の功績狙いだろ。よかったじゃないか。男爵から伯爵。それも辺境伯だ」

「「…………」」

「ほんっと、醜いな。ヒュブリスの楽園にいたブタより醜い。俺の功績で成り上がるのは勝手にしろ。そのかわり、二度とこんな茶番に呼ぶな。魔人と戦ったからわかる……お前ら、魔人より醜くて薄汚いんだよ」


 絶句する両親。

 アルベロはフンと鼻を鳴らし、フギルに頭を下げた。


「ではフギル兄さん。ここで失礼します」

「あ、ああ……」

「それと、気を付けて下さい。そこの連中に俺を懐柔しろとか言われるかもしれません。いくら兄さんの頼みでも、それだけは受け入れませんので」

「…………」


 それだけ言い、アルベロは部屋を出た。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 城を出て、一人歩く。

 今夜は城に忍び込む予定だ。アルベロは北西塔を見る。


「あそこか……」


 北西側に、大きな塔が建っている。

 アルベロたちがいた大きな城の周りを、いくつかの塔が囲んでいる。その中にある一つが北西塔だ。

 警備は、王国直属の兵士が城の外周を固め、城内にも兵士、そして騎士がいる。

 それぞれの塔には近衛騎士が厳重に守り、召喚士が何人も在中していた。


「こんな中を隠れて行くのかよ……あのお姫様、マジで何考えてんだ」


 戦うのはアウト。見つかるのもアウトだ。

 人だけでなく召喚獣も警備しているだろう。召喚獣が傷付けば召喚士もダメージがあるし、必ず隠密行動で行かなければならない。

 

「……よし。少し時間あるし、城下町で準備するか」


 アルベロはポケットの財布を確認し、城下町で買い物をした。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 寮に戻り、部屋へ戻る。

 アーシェはリデルと買い物、荷物持ちにキッドを連れて出かけている。帰りは遅くなるからと置手紙があった。いつの間にかかなり仲良くなっている。

 ラピスは、公爵家本邸に泊まり、明日の朝戻ってくるようだ。

 つまり、寮にはアルベロ一人。


「よし。準備準備」


 アルベロは、買った荷物を自室で広げ、さっそく支度を始めた。

 買ったのは、真っ黒なフード付きコートとズボン。鉄板入りのブーツ。動物用麻酔薬と、医療用針だ。

 夜の移動なので真っ黒な服とズボンを装備し、医療用麻酔薬と針はいざという時の眠り薬として使用する。ちなみに麻酔に関してはアルノーから習った。

 仮眠を取り、着替え、果物を軽く食べ、軽くストレッチ。

 外が暗くなり、アルベロは自室で深呼吸……窓を開け、外へ出た。


「よし……行くぞ」


 寄生型の身体能力を使い、まずは寮の屋根へ。

 王城の位置を確認───まずは学園から出て、城下町の屋根を伝って城へ向かう。


「ったく、面倒なことさせやがって。これでつまらない情報だったら、どうしてくれようか」


 そんなことを呟きながら、アルベロは屋根から跳躍した。

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