学園での出来事

 職員室内では、何度もS級が話題になっていた。

 中でも、等級至上主義筆頭であるオズワルドは、何度も何度も校長室に足を運び、メテオールに直訴をしていた。

 アルベロたちがアースガルズ王国から出た後も、オズワルドは直訴する。


「校長、考え直していただけましたか? S級などというモノ、誰も認めていませんよ? いくらあなたが魔帝を封印した二十一人の召喚士でも、やっていいことと悪いことがある。最上級である特A級、そしてそれを除いた最上級であるA級召喚士……そう、A級こそが最上であると」

「…………きみは本当にくどいな、オズワルド」


 メテオールは、オズワルドにウンザリしていた。

 等級至上主義。召喚士は等級こそ全て。

 A級召喚士としての誇りが強すぎるオズワルドは、S級の存在をどうしても許せなかった。

 オズワルドは、勝ち誇った顔をする。


「校長。もうご存じのはず……S級召喚士のアルベロが、実の兄にしてB級、そして風紀委員長であるラシルドに逆らい負傷させた事件のことを」

「……聞いておる。その場にいた生徒会長エステリーゼくんが、停学処分にしたそうだな」

「ええ。では……これで証明されましたね? S級はその力を振りかざし、学園の秩序を乱す存在だということを」

「…………」

「国王陛下にいろいろ差し出しS級という等級を作ったようですが、どうやら無駄になりそうですね。生徒会からの報告書と、B級生徒からの署名、そして私と私の意見に賛同する教師の署名と報告書を、貴族連盟及び《召喚士ギルド》に報告いたします」

「…………好きになさい」


 召喚士ギルドとは、王国に所属していないフリーの召喚士が依頼などを受ける場所である。

 召喚士ギルドは世界中にあり、とある召喚獣の能力で独自のネットワークを築いており、その情報力と組織力はアースガルズ王国や他国からも信頼されていた。

 ちなみに、召喚士ギルドは《中立》の存在。どこぞの国だけに味方することはない。


「いくらあなたでも、貴族連盟と召喚士ギルドが反対すれば、S級を存続させることはできませんよ。確かに、寄生型召喚獣は強い。魔人討伐の功績もある……だが、秩序を乱すのならば話は別だ」

「……もういい。下がりたまえ」

「はい。では、失礼いたします」


 オズワルドは頭も下げずに校長室を出た。

 メテオールは、大きくため息を吐く。


「やれやれ。等級至上主義……扱いにくいわい。S級たち、上手くやってくれるといいが」


 メテオールは立ち上がり窓を開け、外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 オズワルドは、生徒会室に向かった。

 生徒会室に入ると、数人の男女が書類作業をしていた。

 オズワルドを見て立ち上がり、頭を下げる。

 その中に、エステリーゼもいた。


「オズワルド先生、お疲れ様です」

「ああ。エステリーゼくんもお疲れ」


 作業を一時中断。

 オズワルドはソファに座り、エステリーゼはB級の生徒にお茶の用意をさせる。

 オズワルドに促されたので、エステリーゼは向かい側のソファに座った。


「それで……どうでしたか?」

「うむ。これだけの署名と抗議文、さらに停学処分となれば、さすがの校長も成す術がないようだ。貴族連盟への根回しも手ごたえあり……ふふ、S級の存続は限りなく不可能だろうな」

「そうですか……よかった」

「ああ。エステリーゼくん、実によくやってくれた」

「いえ。S級という意味が分からない等級の存在など許されません。最上はA級でなければ」

「その通りだ」


 オズワルドは、満足そうに微笑んだ。

 エステリーゼもまた、オズワルドと同じ等級至上主義に染まっていた。

 

「エステリーゼくん。きみは実によくやっている。感謝しているよ」

「そんな。オズワルド先生にはいろいろ教えていただきました。A級召喚士としての在り方、力の使い方……感謝するのは私の方です」

「はは。今後も、同じA級召喚士としてよろしく頼むよ」

「はい!」


 エステリーゼは、花のような笑みを浮かべていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 紅茶が運ばれ、オズワルドとエステリーゼはティータイムを楽しんだ。

 そして、何気ない一言をオズワルドが呟く。


「そういえば、S級の四人は今頃何をしているのかな?」

「……停学中ですので、教師の与えた課題をやっているはず……ふん、アーシェめ。せっかく使い物になるかと思ったが」

「アーシェ?……ああ、B級の」


 エステリーゼは、アーシェに対する興味をすでに失っていた。

 そして、ふと思う。


「課題、か……少し気になるな」

「オズワルド先生?」

「いや、課題を出したのは誰だ?」

「それは……少しお待ちを。レイヴン、レイヴン!」


 エステリーゼは、窓際で書類を眺めている生徒を呼ぶ。

 長い黒髪を縛った、エステリーゼの同級生の少年だ。


「はいよ会長。何か御用で?」

「S級の連中は何をしているか調べろ」

「はいは~い。来な、『ブラックレイブン』」


 レイヴンの肩に、漆黒のカラスが止まった。

 レイヴンが窓を開けると、カラスは飛んでいった。


「うし。少々お待ちを……」


 すると、レイヴンの肩に再びカラスが現れる。

 召喚獣『ブラックレイブン』の能力は『分裂』で、自身の分身体を作ることができる。分身体の視覚は共有できるため、諜報活動に向いている召喚獣だった。

 これが、『アースガルズ・エイトラウンズ』の一人、生徒会広報にして伯爵家長男、レイブン・ダークグレイの能力だった。

 ブラックレイブンがS級寮を囲むように止まる。


「……んー、寮にも校舎にもいない。学園敷地内……いないっすね」


 王国中をカラスの群れが飛び回るが、アルベロたちを発見できない。

 すると───王国郊外を走る一台の馬車を見つけた。


「お……なんか怪しいな」


 一匹のカラスが馬車に近づいた。

 そのまま正面に回ろうとした時だった。


『───……』

「───!?」


 異形の左腕を構えた・・・・・・・・・少年の人差し指から・・・・・・・・・弾丸のような物・・・・・・・が発射された・・・・・・


「う、おわぁぁぁっ!?」

「レイヴン!?」


 ブツン、とブラックレイブンからの映像が途切れた。

 レイブンにダメージは無いが、弾丸が命中する瞬間を感じていた。


「おい、どうした!!」

「い、いえ……う、撃ち落されました。たぶん、S級の連中は国外に……」

「国外、だと?」

「…………ふむ」


 オズワルドは少し考えこんだが、すぐにやめた。


「まぁいい。何をしてももう手遅れだからな」


 教師も、生徒も知らない。

 アルベロたちS級が、極秘で魔人討伐に向かったなど。

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